完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス

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 ——僕のようなものを王さまに食べていただけるなんて、光栄だと思わないといけないんだ⋯⋯。
「長旅に疲れたのであろう? このような小さな箱に押し込んで人間を送ってくるとは、フランクの王はなんと残酷なやつだ——」
 ハンサムな顔に怒りが浮かんだ。ものすごく激しい怒りで、目の前にフランク国王がいたら殺してしまいかけないと思えるほどだ。
 けれどもシャルルを見るとまたすぐにとろけるような笑顔になった。
「紅茶を用意させよう」
「え? 紅茶でございますか?」
 紅茶など飲んだことがない。いつも水しかもらえなかった。
 ——アルベルト陛下はお美しいだけでなくお心もほんとうにお優しいんだ⋯⋯。僕を食べるまえに、紅茶を与えてくださるなんて⋯⋯。
「歩けるか?」
「は、はい⋯⋯」
 アルベルト王にうながされて立ち上がる。
 どうやらここは王城の大広間のようだった。まわりにはたくさんの人が集まっている。
 豪華な服装の人々はエスタリア国の王侯貴族だろうか? 
 従者や侍女たちも大勢いた。みんな興味津々といった顔つきでこっちを見ている。
 ——せめてもう少しちゃんとした服装ができていれば⋯⋯。
 自分の惨めな灰色の服装が恥ずかしい。
「では行こう」
「はい⋯⋯」
 王にうながされて大広間を出た。
 ——大きなお城だなあ⋯⋯。
 エスタリア国の王城はフランク国の何倍も大きいように思えた。頑丈な作りの城で、石壁には美しい絵画がずらりと飾ってある。
 二匹のドラゴンの刺繍絵の旗もあちこちにあった。どうやらエスタリア国の紋章らしい。二匹の龍は金と銀の大きな玉を鋭い爪で抱えていた。
 永遠に続くかのようなとても長い廊下を歩くと豪華な居間についた。
 真っ白でふかふかのソファがある。テーブルにはすでに紅茶の用意が整っていた。
 大きな窓があって、窓辺には白いカーテンが風に揺れていた。
 ——エスタリア国はフランク国よりも暖かいのかな?
 たぶんそうなのだろう。フランク国よりも南に位置しているのだろう。窓の外の木々はフランク国に生えている木々とはだいぶ違う種類のようだ。
「遠慮はいらぬ——」
「あ、⋯⋯ありがとうございます」
 ふわふわのソファに座るのも初めてだった。緊張した体から力が抜けるような、とても気持ちがいい座り心地だ。
「紅茶は嫌いか?」
「いえ⋯⋯。あの⋯⋯、初めてなので⋯⋯」
「そうか——」
 と、アルベルト王は少し驚いたような顔をした。
 けれどすぐにまた笑みを浮かべて、「砂糖を入れるといいかもしれないな」と言って、自ら砂糖を紅茶カップに入れてくれる。
「あ、⋯⋯ありがとうございます!」
 国王に世話をしてもらうなんて信じられない。
「僕が自分で⋯⋯!」
 急いでスプーンを取ってカップの紅茶をかき混ぜた。
 ——ほんとうにいただいてもいいのかな?
 ドキドキしながらカップを両手で持って口に運んだ。ものすごくいい香りがする。気持ちがすーっと落ち着いていくような甘い香りだ。
「⋯⋯美味しいです!」
 思わずニコッと笑った。
 心と体が温まる。緊張してドキドキと高鳴っていた鼓動も落ち着いていく。
「食べたいものがあったら遠慮なく言ってくれ。好きな食べ物は?」
「えっ?」
 ——アルベルト陛下は僕に食べ物までもくださるおつもりだろうか? フランク国ではずっと飢えてきたのに⋯⋯。餓死しないギリギリの食べ物しかもらえなかったのに⋯⋯。これから食べられる人間に食事をさせてくださるなんて⋯⋯。なんてお優しいんだろう!
 嬉しくてますます笑みが大きくなっていく。
 だけどそのとき、自分がこれから食料になるとことを思い出して、風船がしぼむように気持ちが一気に暗くなった。
 ——僕が痩せているから太らせてお食べになるつもりなのだろうか?
 きっとそうに違いないと思った。鳥や豚だって痩せっぽちは美味しくないではないか。肉をつけて丸々と太らせてから食べよう——という計画なのだろう⋯⋯。
 ——食べられるって、どういう気持ちかな⋯⋯。
 自分が食べられる場面を想像するとものすごく恐ろしい。ブルっと震えた。
「ん? 嫌いなものはあるのか、シャルル?」
 アルベルト王の表情は穏やかだ。今まで一度としてこんなに優しい目で見つめられたことはない⋯⋯。
「あ⋯⋯、ありません」
「それは良いことだ。では、シェフにそう言っておこう」
「⋯⋯ありがとうございます」
 ——どうしてこんなにじっと僕を見つめていらっしゃるのだろう? どこを食べると美味しいかどうか、調べていらっしゃるのかな? 僕のお尻は美味しくないと思いますって、言ってみようかな? そうすれば、もしかすると食べるのをやめてくださるかも⋯⋯。それとも、そんなことを言ったら『無礼者』と怒られるかな?
 ぐるぐると考えていると、アルベルト王の視線がシャルルの灰色の薄汚い服の上で止まった。
 裾や膝が擦り切れている。オメガ襟は黒く汚れている。とっても惨めな服装だ。
「すぐに新しい服を用意させよう。だが、その前に風呂だな——」
「お風呂、⋯⋯ですか?」
「熱い湯に入れば、旅の疲れも取れるだろう」
「熱いお湯⋯⋯?」
 ——ああ、もしかして?
 シャルルは目をギュッと閉じて覚悟した。
 ——僕はこれから下茹でされるんだ!

******

「さあ、どうぞ、湯浴みの間はこちらでございます」
「あ⋯⋯、ありがとうございます⋯⋯」
 シャルルは従者にうながされて長い廊下を進んだ。
 アルベルト王はシャルルに十人以上の従者をつけてくれた。みんな若いベータの少年たちで、可愛らしい顔をしている。
 ——どうしてこんなにたくさんの従者のみなさんがいるんだろう? もしかして僕が逃げないように見張っているのかな?
 だけど少年従者たちはニコニコとしていて、見張りという厳しさはまったくない。
「こちらが湯浴みの間です」
「え? ⋯⋯ここが?」
 そこは巨大なガラス張りの建物だった。壁も天井も透明で、美しい木々や、眩しい太陽がガラスの向こうに見えている。
 ——ここがお風呂?
 室内もお風呂とは思えない。たくさんの木々が植えられていて、木々の間に小道がある。まるで大きな温室のような場所だ。
 見たことのない木もあった。大きく茂っていて白くて小さな花が咲いている。葉っぱは美しい銀色をしている。
「これはなんという木ですか?」
「オリーブの木でございます」
「これがオリーブ⋯⋯」
 ——オリーブって、こんなにきれいな木なんだ。
 びっくりした。
 料理に使うオリーブの実は知っていたが、その実がなる木がこんなに美しい銀色がかった緑色の歯を持っているとは知らなかった。
 白い花の近くに行くと、うっとりするような甘い香りがした。
 そのオリーブの木々の奥には黄色い実がたくさんなっている木もあった。レモンの木だ。
 赤い花が咲く低木もあちこちにある。
「すごくきれいな湯殿ですね⋯⋯」
「アルベルト陛下のお気に入りの湯殿でございます」
「え? アルベルト陛下の湯殿なのですか? ⋯⋯あの、そんな高貴な湯殿を、僕なんかが使っていいのですか?」
「はい、もちろんでございます。シャルルさまは国宝でいらっしゃいますから」
「⋯⋯さま?」
 ——どうして僕に『さま』をつけてくださるんだろう? もしかして『国宝のように大事な食材』だからだろうか?
 どんなに美食家の王様でも人間を食べることは滅多にないのかもしれない。だからこそ人間の食材は『国宝』で、こんなに丁寧に扱ってもらえるのかもしれない⋯⋯。
 ——国宝級の食材かあ⋯⋯。
 自分が食べられるシーンがふと頭に浮かんだ。
 ——わっ!
 首をブンブンと振って、恐ろしい情景を振り払った。

続く
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