バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス

文字の大きさ
4 / 13

しおりを挟む
「お目覚めですか、アリーシャ様?」
「うーん⋯⋯」
 寝返りを打ってハッとした。
 ここ、どこだっけ?
 ああそうだ、私は『すり替えられた令嬢』の中に生まれ変わったんだ。

 えっと⋯⋯、兄のヴィクトル・フォン・アンドレ公爵とお茶をして、椅子から落ちて、でも助けてもらえなくて⋯⋯、そうだ、それから疲れ果ててお昼寝したんだ。
 ふわふわのお布団に大きな羽毛の枕、気持ちいいなぁ。

「さあ、そろそろ起きましょうね、アリーシャ様」
 侍女のバネッサが私を抱っこして窓辺に連れて行く。
「お兄様はちょうど今、騎士団の陣営にお戻りになるところですよ、ほら、あそこに」
 え?
 あの——三歳児が椅子から落ちたのに大丈夫かの言葉すらかけない冷酷非道な——男が、陣営に戻ったの?
 ってことは屋敷からいなくなるってこと?

 うわー! よかったああ!
 涙が出るほど嬉しいよお。

 ヴィクトルとモルト伯爵が馬を並べて遠ざかっていく姿が見える。なんて素晴らしい光景だろう。
 もう帰ってくるなよぉー!!
 私はブンブンと大きく手を振った。

「そんなにお悲しいのですね⋯⋯」
 バネッサは誤解してしんみりしてる。

「アリーシャ様、気分転換に苺畑をお散歩いたしましょうか?」
「はいでちゅ!」

 『虐げられた令嬢』の舞台はフラーグン王国。
 フラーグン王国は豊かな農業国で特に苺の栽培技術に優れているの。
 たくさんの苺の品種があって、品種によってはものすごい高級品で、金と交換できるぐらいなの。
 だから公爵家の広い苺農園はものすごく大事な収入源。

「お散歩、大好きでちゅ」
 ああ、ほんとうに『お散歩』ってお金持ちの特権だよねワクワクするよ。
 お日様が眩しいなあ⋯⋯。風が気持ちいいなあ⋯⋯。
「ご機嫌ですね、アリーシャ様」
「はいでちゅ!」

 ニコニコ気分で苺畑を散歩していたとき、ふと、考えなければいけない大事なことが二つあることに気がついた。

 一つ目はトム・バルタリンおじさんのこと。
 三年前、激しい雨が降る地方の田舎道で、一台の馬車が大きな事故にあった。
 乗っていたのは旅行中のヴィクトルの父と、旅先で密かに電撃結婚をした若いブロンドの女性、そして生まれたばかりの赤ちゃんだった。
 ヴィクトルの父と女性は死亡、赤ちゃんだけが生き残った。

 トムおじさんはこの馬車の事故現場に居合わせ、生き残った赤ちゃんを公爵家に送り届けることになったんだけど、偶然にもおじさんには生き残った赤ちゃんと同じ月齢の姪がいて、姪の母親である妹が亡くなっていたの。
 この偶然がトムおじさんを悪魔に変えたのね。

 ヴィクトルの父親が結婚のことを誰にも知らせていないらしい——と知ったトムおじさんは、赤ちゃんをすり替えて、自分の妹がヴィクトルの父と結婚したことにしたの。

 おじさんの仕事は公証人(公正証書の作成や認証などを行う法律の専門家)で、書類を作る専門家だったので、結婚書類や出産記録を偽造することができたというわけ。

 赤ちゃんのすり替えにまんまと成功したトムおじさんは、今、公爵家の親類の立場で領地の管理人をしている。
 そして公爵家の財産を横領している。

 十五歳になったアリーシャが自分がほんとうの公爵家の令嬢ではないと気がついたとき、『事実がバレたらおまえは貧民街で体を売ることになるぞ』と脅して、ほんとうの妹のルイーザを殺させようとしたのも、このトムおじさんなの。
 アリーシャを悪の道に引き摺り込む悪いおじさんなの。

「そうならないように、トムおじさんをなんとかしなくちゃでちゅ⋯⋯」
「え? 何かおっしゃいましたか、アリーシャ様?」
「なんでもないでちゅ」

 だけどどうしたらいいんだろう?
 横領していることをヴィクトルに知らせたらいいかもしれないけど、三歳児の私がどうやってそれをするの?
 十歳ぐらいになったらできるかな?
 そうだね、十歳になったらトムおじさんの悪事をみんなに知らせよう。

 二つ目の大事なこと——。

 それは、十三年後にほんとうの妹のルイーザが現れた時に私がどう行動するかということね。
 『すり替えられた令嬢』の中のアリーシャは自分が偽者だとバレないためにたくさんの悪いことをしたの。
 だからヴィクトルに殺された。

「⋯⋯怖いでちゅ」
「え?」
「ううん、なんでもないでちゅ」

 つまり私が生き残るには悪いことをしなければいいんだよね。
 本物の妹のルイーザが現れたらすぐに、「どうぞどうぞ、私はお屋敷を出ていきますわ!」って屋敷から出て行ったらいいんでしょう?

 そうすればヴィクトルも私を殺さないはずだよね、悪いことをしていないんだから。
 そうだ、そうしよう!
 本物が現れたらさっさと出て行こう。

 そう決めたら気持ちがスッキリした。
 残り十三年の間、ヴィクトルの機嫌を損ねないように気をつけて可愛い妹を演じて、揉め事がないように平和に暮らしていこう!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

モブなので思いっきり場外で暴れてみました

雪那 由多
恋愛
やっと卒業だと言うのに婚約破棄だとかそう言うのはもっと人の目のないところでお三方だけでやってくださいませ。 そしてよろしければ私を巻き来ないようにご注意くださいませ。 一応自衛はさせていただきますが悪しからず? そんなささやかな防衛をして何か問題ありましょうか? ※衝動的に書いたのであげてみました四話完結です。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

幼馴染の執着愛がこんなに重いなんて聞いてない

エヌ
恋愛
私は、幼馴染のキリアンに恋をしている。 でも聞いてしまった。 どうやら彼は、聖女様といい感じらしい。 私は身を引こうと思う。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...