アキレギアの幸福

鮭取 陽熊

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第37話

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「え!遠藤さんメガネどうしたの!?」
「コンタクトにしたんだ…」
「えー可愛いじゃーん」

 体育祭が終わり、翌週の月曜日。朝練を終えて教室に入ると女子たちがザワついていた。
 どうやら体育祭で悠斗と走っていた女子、遠藤 芽依えんどう めいがメガネからコンタクトに変えたらしい。
 遠藤さんは可愛い可愛いと褒められて照れているが、満更でもなさそうな顔でチラチラと悠斗のことを見ている。

(気に入らないな)

 そもそも他の女子は俺と悠斗をペア扱いして間に入ろうとなんてしてこないのに、陰気でクラスに馴染めていない遠藤さんはその空気を読めていないのか。
 あのダサいメガネを取ったところで、その平凡な顔に悠斗が惹かれるわけ無いのに。
 現に悠斗は女子の盛り上がりなど気にもとめず、川島の話を聞き流しながら俺を見つめている。
 しかし、あんなやつに俺が負けるわけ無いのに、どうしても胸のモヤモヤと彼女への嫌悪感は消えない。

 さらにその数日後、また遠藤さん周りで女子がザワついていた。

「一瞬誰かわかんなかった!どーしたのその髪」
「縮毛矯正したの…」
「めっちゃいいじゃん!さらさら~」

 またか。また遠藤さんが悠斗に気に入られるためにイメチェンしてきた。癖毛で四方八方に飛び出していたボサボサでパサパサの髪の毛がサラッとしたストレートになり、髪型も今どき流行りの坂道系アイドルのようなスタイルにセットされている。さらには眉毛も整えられ、化粧をしたのかクマやニキビも見えず、一重だったはずのまぶたにもシワがつき、少しだけ目がパッチリしている。
 普段なら健気な努力だと思えるはずだが、俺から悠斗を奪うための行動だと思うとその変化一つ一つが憎たらしく思える。
 今もチラチラと悠斗を見て頬を染めている。

「急にどうしたの?すごい可愛くなって…もしかして、これ?」

 遠藤さんの周りに集まる女子たちが手でハートの形を作り尋ねる。すると遠藤さんは顔を真っ赤にし、コクンと小さく頷く。それを見た女子たちは「きゃー!」とはしゃぎ、「だれだれ?」「いつから?」と質問責めにする。

「内緒…」
「えぇーっ!めっちゃ気になるー」
「うちら応援するから、相談とか遠慮なくしてね!」

 そんなの目線を見ればバレバレだろ。ほんとにイライラする。
 でも、俺がどうこうできる問題じゃないよな。あんな平凡な女子でも、悠斗が望むなら俺が止める資格は無い。そもそも俺たちは付き合ってないんだから、遠藤さんが悠斗に恋しようが悠斗がどんな反応をしようが2人の勝手だ。

「はぁ…」

 なんだかもどかしくて、思わずため息がこぼれる。

「薫?」
「なんか悩み事か?」

 俺のため息を聞いてすぐさま悠斗と川島が尋ねてくる。

「どうした?物憂げな顔して。もしかして恋のお悩み?」

 川島はニヤニヤしながら俺をからかう気満々だ。それに乗るのもなんだか面倒くさく感じてしまう。

「そーかもね」

 そう答えた瞬間、2人の表情が固まる。

「え、マジ?やばいやばい」
「は?嘘だろ、は?」

 あ、あの返答じゃもっと面倒くさくなるだけだったか。ぼんやりしていたせいで失敗した。
 しかし今更言い訳するのも面倒で、騒ぎ出す2人を無視して窓の外を眺めていれば、チャイムが鳴って授業が始まり解放された。



◆◇◆◇



「なぁ誰?薫が好きなやつって誰?女子?大和先輩?弟のクソガキ?」
「違う」

 昨日失言したあとからずっと悠斗に質問責めにされている。
 家から学校までの道のりでもずっと同じことの繰り返しだ。

「誰でもいいけどさ、俺と一緒にいる時間は減らさないでほしい」
(誰でもいいんだ…)

 やっぱり悠斗は俺と友だち以上の関係になる気なんて無いのか。
 "誰でもいい"という言葉が胸にチクチク刺さって悲しみが広がる。
 いや、でも仕方ないことだ。そもそも俺だって永遠を誓えないんだから、そんなこと望む資格もないし、これ以上の関係になったって傷が深くなるだけなんだから、これが正解だ。
 これが正しい道だとわかっているのに、割り切れていない俺が馬鹿なんだ。

 それから学校に到着し、靴を履き替えるため下駄箱を開けると、悠斗の下駄箱の中に何かが入っていた。

「何これ?」

 悠斗が手に取ったのは手紙だった。シンプルだが可愛らしいデザインで、ひと目で女子からの物だとわかる。
 きっと遠藤さんからのラブレターだろう。
 しかし確認する間もなく、悠斗はその手紙をぐしゃりと握り潰してしまった。

「え、何してんの」

 さすがにラブレターにそんな扱いをするとは思わず、驚いて声を上げてしまった。すると悠斗はなんて事ないかのように答える。

「いらねぇよこんなん、めんどくせぇ」

 衝撃ではあるが、まぁ悠斗らしいな。

「それに、薫が嫌そうな顔してた。きっと良くない物なんだろ」
(なんだよそれ…)

 俺と付き合う気無いくせに、なんで俺が第一優先みたいな扱いするんだよ。
 これで喜んでる自分にも嫌気がさす。

「人の気持ちとか考えないんだね」
「一方的に押し付けられたもんに優しくする義理ねぇだろ」

 そう言って悠斗は近くの教室のゴミ箱にぐしゃぐしゃのラブレターを捨ててしまった。

 この時俺は遠藤さんの恋はここで終わったのだと思った。しかし、彼女は意外と図太かったみたいだ。

 翌日も、その翌日も朝登校すると悠斗の下駄箱にラブレターが入っている。その度に悠斗はぐしゃりと握り潰してゴミ箱に捨てるが、次第に彼女は手法を変えてきた。移動教室から戻ると机の中やリュックの中に手紙が入っていたり、それでもダメだとわかると机の上に堂々と置いてあった。

「ちょっと可哀想」
「読むくらいしてあげたらいいのに」

 堂々と置かれたラブレターを握り潰し、そのままゴミ箱に捨てる悠斗に対してボソボソと責めるような声が上がる。
 ちらりと遠藤さんを確認すると、彼女はしばらく俯いてから何事も無かったかのように顔を上げて授業の準備を始めた。

(強いな)

 その翌日、大きな台風が接近しているということで休校になった。
 遠藤さんのラブレターを見なくて済むのはありがたいが、胸のモヤモヤは晴れない。

「風強くなってきたわね」

 どんよりとした空模様と音を立ててどんどん強くなる風に母が不安げな声をもらす。

 気を紛らわせるためにスマホを開くと、メッセージアプリに通知が来ていた。
 どうやらクラスのグループから一方的に追加されたようで、「友だちではないユーザーです」
と表示されている。
 アカウント名は"芽依"。遠藤さんだ。
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