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第32話
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文化祭の出し物が決定してから、授業と部活を並行しながら着々と準備が進んでいった。
周辺のお店からダンボールを貰い、それを加工して装飾を作ったり、絵の上手い子がポスターやメニュー表を書いたり…
俺は主にダンボールにペンキを塗る作業をしていたが、この作業の果てに女装が待っていると思うと気が滅入る。とはいえサボらず積極的に作業に参加するが。
「楽しみだな、薫のメイド姿」
「悠斗の方が似合うと思うなー」
「そんなことない。薫が一番似合う」
悠斗と二人で肩を並べて喋りながらダンボールを白色に塗っていく。
悠斗はこういった作業はあまり好きではないと思っていたが、俺のメイド姿を想像して楽しそうに丁寧にペンキを塗っている。
「悠斗も一緒に着てくれたらすごく嬉しいんだけどな」
俺が調理担当になるのはもう不可能なので、せめて悠斗も道連れにしたい。その一心で俺は悠斗をその気にさせようとおだて続ける。
元々悠斗も接客担当を望まれていたし、悠斗から言い出せば今からでも変更できるだろう。
そんな俺の狙いが通じることは無く、悠斗は俺の耳もとに口を近付けて小さな声で囁く。
「薫が望むならうちで着てあげる」
その一言に一気に耳が熱くなり、急いで周囲を見渡す。
幸いみんなザワザワと各々のお喋りに夢中になっており、悠斗の声を聞いた者は誰もいないようだ。
俺のお願いで家でメイド服を着てもらうなんて、状況だけ見たらものすごい変態みたいで恥ずかしい。
(悠斗じゃないんだから、俺はそんな変態行為断じてしない)
しかしこうなると悠斗をおだてて道連れにする作戦ももう使えない。やはり諦めるしかないのか…
ため息をついて作業を進めていると、悠斗は衣装係の女子たちに呼ばれ、そちらへ行ってしまった。
そもそも女子に呼ばれて離れていくのも違和感があるが、衣装に関係のない調理係の悠斗が呼ばれるなんて一体何だろう?
気になって悠斗のもとへ行き「何してるの?」と尋ねる。
「薫の衣装は何がいいかって」
「なんでそれを俺抜きで悠斗が決めるの?」
謎の状況に疑問を投げかけると、女子たちがさも当然といった感じで説明してくる。
「佐野くんの魅力を一番わかってるのは清水くんでしょ?それに派手さとか露出度合いとか、清水くんの許可もらわないと」
「なんで?」
説明されても全く理解できない。悠斗も何を「うんうん」と頷いているんだ。
女子たちと悠斗はスマホで画像を見ながら、こういうのがいい、あれはダメだと話し合っている。俺抜きで。
というか、こんなに細かく衣装について考えるなら、俺も意見してできるだけダメージが少ない衣装にすることもできるんじゃないか?
そう考えて俺もメイド服の画像が並ぶスマホを覗き込む。
「できるだけ露出少なくてシンプルなのがいい」
「俺もその方向で話してた。シンプルな方が素材の良さが際立つ」
俺が要望を出せば悠斗は腕を組み頷きながら答える。
(この"わかってるじゃないか"って感じで得意げなのが腹立つな)
「じゃあこういう感じのかな?」
示された画像は黒の詰襟のロングワンピースにシンプルな白いエプロンがついたメイド服だ。フリルも少ないし、これなら恥ずかしさを最小限に抑えられるだろう。
「うん、これが一番いいかな」
「客どもに薫の肌を晒すわけにはいかないからな」
「じゃあこれで決定!」
そうして俺の文化祭での衣装が決定した。
数日後、接客係全員で届いた衣装に袖を通し問題がないかチェックする。
男子女子の接客係がそれぞれ更衣室で着替えてからお披露目なので、今俺は男子更衣室で集まっているのだが、もう既に酷い光景だ。
なぜか男子の接客係は全員運動部になったため、オスみが強い。その上ほとんどの男子が短いスカートを希望したためゴツい足が並んでいる。
「なぁ見て見て可愛い?」
膝丈のフリフリのメイド服を着た川島が顎下に握った両手を持っていきぶりっ子ポーズをする。
「可愛いよ」
「へへへ、佐野はなんか女装っていうか、もうそういう作品って感じだな。似合ってる!」
「ありがと」
メイド服が似合っても何も嬉しくはないが適当にお礼を言っておく。
予算の都合上ウィッグや化粧品は買えなかったので、ただ男にメイド服を着せただけという見るに堪えない惨状が広がっているが、当の本人たちはノリノリで楽しんでいる。
クラスメイトたちにお披露目するため教室の扉を開けると、その瞬間に歓声が上がる。
「きゃーっ!可愛いー!」
ゲラゲラ笑う男子たちに可愛い可愛いと騒ぐ女子たち。その反応に川島はスカートを手で掴んでフリフリとお尻を揺らして踊る。
「てか佐野やべぇな、全然違和感無い」
「美しすぎるー!」
みんなに続いて教室に入った途端俺に対しても歓声が上がる。
すると悠斗が近付いてきて、そのまま俺の肩に手を回して教室の外に連れ出される。
そして先程までいた更衣室に戻ってきてしまった。
「なに、なんで俺戻されたの?」
「そんな可愛い姿晒しちゃダメだろ」
悠斗は俺の正面に立って両肩を掴んで真剣に言う。
「悠斗がコスチューム着せるとか言い出したんじゃん」
「俺が馬鹿だった。薫のメイド姿が見たい一心でリスクについて何も考えてなかった」
真っ直ぐな目で何を言ってるんだこいつは…
「そんなこと言ったって、もう決まっちゃったんだからどうしようもないでしょ」
「俺が代わりに着る」
願ってもない申し出だが、さすがに本番直前の今そんなこと言ったらみんなの迷惑になる。
「もう無理だよ。ていうか俺に対して変なこと考えてるの悠斗だけだから。お前が心配してるリスクなんて無いよ」
悠斗の腕を振りほどいて心配いらないと説明するも、悠斗は不安げな表情のままだ。
「いいやリスクだらけだ。ただでさえ薫は色んなやつから好かれてるのにもっと増えるだろ。そしたら大和先輩みたいに薫を取られる」
「まだお祭りのこと根に持ってんのかよ。俺は誰とも付き合う気無いから心配すんな」
そう言うと悠斗は「ほんとか?」と上目遣いで俺に確認してくる。
「ほんと」
「ものすごい薫好みの美女が来てもそっち行かない?」
「行かない」
「約束だぞ」
「はいはい」
こうして約束を交わし、悠斗はやっと俺を解放してくれた。
衣装のサイズにも問題が無いことがわかったし、せっかく更衣室にいるので制服に着替えてから教室に戻ると、みんなにがっかりされた。
あらためて見ると男子たちのメイド姿エグイな…
周辺のお店からダンボールを貰い、それを加工して装飾を作ったり、絵の上手い子がポスターやメニュー表を書いたり…
俺は主にダンボールにペンキを塗る作業をしていたが、この作業の果てに女装が待っていると思うと気が滅入る。とはいえサボらず積極的に作業に参加するが。
「楽しみだな、薫のメイド姿」
「悠斗の方が似合うと思うなー」
「そんなことない。薫が一番似合う」
悠斗と二人で肩を並べて喋りながらダンボールを白色に塗っていく。
悠斗はこういった作業はあまり好きではないと思っていたが、俺のメイド姿を想像して楽しそうに丁寧にペンキを塗っている。
「悠斗も一緒に着てくれたらすごく嬉しいんだけどな」
俺が調理担当になるのはもう不可能なので、せめて悠斗も道連れにしたい。その一心で俺は悠斗をその気にさせようとおだて続ける。
元々悠斗も接客担当を望まれていたし、悠斗から言い出せば今からでも変更できるだろう。
そんな俺の狙いが通じることは無く、悠斗は俺の耳もとに口を近付けて小さな声で囁く。
「薫が望むならうちで着てあげる」
その一言に一気に耳が熱くなり、急いで周囲を見渡す。
幸いみんなザワザワと各々のお喋りに夢中になっており、悠斗の声を聞いた者は誰もいないようだ。
俺のお願いで家でメイド服を着てもらうなんて、状況だけ見たらものすごい変態みたいで恥ずかしい。
(悠斗じゃないんだから、俺はそんな変態行為断じてしない)
しかしこうなると悠斗をおだてて道連れにする作戦ももう使えない。やはり諦めるしかないのか…
ため息をついて作業を進めていると、悠斗は衣装係の女子たちに呼ばれ、そちらへ行ってしまった。
そもそも女子に呼ばれて離れていくのも違和感があるが、衣装に関係のない調理係の悠斗が呼ばれるなんて一体何だろう?
気になって悠斗のもとへ行き「何してるの?」と尋ねる。
「薫の衣装は何がいいかって」
「なんでそれを俺抜きで悠斗が決めるの?」
謎の状況に疑問を投げかけると、女子たちがさも当然といった感じで説明してくる。
「佐野くんの魅力を一番わかってるのは清水くんでしょ?それに派手さとか露出度合いとか、清水くんの許可もらわないと」
「なんで?」
説明されても全く理解できない。悠斗も何を「うんうん」と頷いているんだ。
女子たちと悠斗はスマホで画像を見ながら、こういうのがいい、あれはダメだと話し合っている。俺抜きで。
というか、こんなに細かく衣装について考えるなら、俺も意見してできるだけダメージが少ない衣装にすることもできるんじゃないか?
そう考えて俺もメイド服の画像が並ぶスマホを覗き込む。
「できるだけ露出少なくてシンプルなのがいい」
「俺もその方向で話してた。シンプルな方が素材の良さが際立つ」
俺が要望を出せば悠斗は腕を組み頷きながら答える。
(この"わかってるじゃないか"って感じで得意げなのが腹立つな)
「じゃあこういう感じのかな?」
示された画像は黒の詰襟のロングワンピースにシンプルな白いエプロンがついたメイド服だ。フリルも少ないし、これなら恥ずかしさを最小限に抑えられるだろう。
「うん、これが一番いいかな」
「客どもに薫の肌を晒すわけにはいかないからな」
「じゃあこれで決定!」
そうして俺の文化祭での衣装が決定した。
数日後、接客係全員で届いた衣装に袖を通し問題がないかチェックする。
男子女子の接客係がそれぞれ更衣室で着替えてからお披露目なので、今俺は男子更衣室で集まっているのだが、もう既に酷い光景だ。
なぜか男子の接客係は全員運動部になったため、オスみが強い。その上ほとんどの男子が短いスカートを希望したためゴツい足が並んでいる。
「なぁ見て見て可愛い?」
膝丈のフリフリのメイド服を着た川島が顎下に握った両手を持っていきぶりっ子ポーズをする。
「可愛いよ」
「へへへ、佐野はなんか女装っていうか、もうそういう作品って感じだな。似合ってる!」
「ありがと」
メイド服が似合っても何も嬉しくはないが適当にお礼を言っておく。
予算の都合上ウィッグや化粧品は買えなかったので、ただ男にメイド服を着せただけという見るに堪えない惨状が広がっているが、当の本人たちはノリノリで楽しんでいる。
クラスメイトたちにお披露目するため教室の扉を開けると、その瞬間に歓声が上がる。
「きゃーっ!可愛いー!」
ゲラゲラ笑う男子たちに可愛い可愛いと騒ぐ女子たち。その反応に川島はスカートを手で掴んでフリフリとお尻を揺らして踊る。
「てか佐野やべぇな、全然違和感無い」
「美しすぎるー!」
みんなに続いて教室に入った途端俺に対しても歓声が上がる。
すると悠斗が近付いてきて、そのまま俺の肩に手を回して教室の外に連れ出される。
そして先程までいた更衣室に戻ってきてしまった。
「なに、なんで俺戻されたの?」
「そんな可愛い姿晒しちゃダメだろ」
悠斗は俺の正面に立って両肩を掴んで真剣に言う。
「悠斗がコスチューム着せるとか言い出したんじゃん」
「俺が馬鹿だった。薫のメイド姿が見たい一心でリスクについて何も考えてなかった」
真っ直ぐな目で何を言ってるんだこいつは…
「そんなこと言ったって、もう決まっちゃったんだからどうしようもないでしょ」
「俺が代わりに着る」
願ってもない申し出だが、さすがに本番直前の今そんなこと言ったらみんなの迷惑になる。
「もう無理だよ。ていうか俺に対して変なこと考えてるの悠斗だけだから。お前が心配してるリスクなんて無いよ」
悠斗の腕を振りほどいて心配いらないと説明するも、悠斗は不安げな表情のままだ。
「いいやリスクだらけだ。ただでさえ薫は色んなやつから好かれてるのにもっと増えるだろ。そしたら大和先輩みたいに薫を取られる」
「まだお祭りのこと根に持ってんのかよ。俺は誰とも付き合う気無いから心配すんな」
そう言うと悠斗は「ほんとか?」と上目遣いで俺に確認してくる。
「ほんと」
「ものすごい薫好みの美女が来てもそっち行かない?」
「行かない」
「約束だぞ」
「はいはい」
こうして約束を交わし、悠斗はやっと俺を解放してくれた。
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あらためて見ると男子たちのメイド姿エグイな…
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