超人だと思われているけれど、実は凡人以下の私は、異世界で無双する。

紫(ゆかり)

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2章 帝国

第78話 帰国 

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 今朝は、お花代の分だけ寄付金持って、大聖堂に来たよ。
 もう用事はないんだけど、もしかして大神官が戻って来てるかなって思いもあって、様子を見に来たの。
 
 そしたらね、静かに祈りを捧げるどころじゃなくて、大騒動になってた。
 突如大神官と、聖女が消えたらしい…
 消えたんじゃなくって、逃げたんだけどね。

 その事を知ってても、教えられないもどかしさがある。
 あいつはきっと、西の国に帰ったんだよ。
 呪詛持ちは、聖物が無いと呪詛師から逃げられないって、言ってたもんね?
 暴力男は嫌いだから、同情はしないけど、ザマミロとも思わない。
 あいつだって被害者なのかもしれないから…

 大聖堂は聖女が居なくなったから、大神殿に戻るのかな?
 あの皇帝の事だから、これ幸いって乗り込んで来るよ、絶対に。
 そしていろんな権限を剝奪して、皇族の配下に置くんだろなって思う。

 当然わ・た・しの為に(笑)出した寄付金も、取り返そうとするだろね?
 だから今、私が預かってる寄付金を返すのは得策じゃないと思ったし、この騒動にのっかってみた。
 お金になりそうな物は皆、ポチの中に保管させて貰ったよ。

 今の皇帝モドキには、びた一文渡したくないのだ。フフン(ドヤ顔)
 そして預かり物を全部、目玉父に押し付けた。
 「何処から出したのだ?」って、顔面押さえて項垂れてた目玉父の姿が、ちょっと気の毒になっちゃったよ。えへっ

 だってさ、返し処が分かんないんだもの、適任者に任せるべきよね。
 学園生活もそろそろ終わりかなって思うと、こんなつまんない授業も楽しく聞こえるから不思議だね。 
 お昼は相変わらずのメンバーで、ご飯食べたよ。
 母親が地下牢に入れられたのに、はんかくさいは相変わらずだった。

 いや…以前より強烈になったかもしんない。
 「皇女殿下、いい加減にして欲しい。私は貴方の様に、妹を蔑ろにする他人を妃に迎えるつもりは一切無いと、何度言えば分かるのだ」
 「ち、違いますわ。知らなかったのです、火傷の跡で醜い姿になってしまった事を。今は治っておりますでしょう?何も問題はありませんのよ」
 「火傷が治っていなかったら、化け物扱いをしていたのだろう!私が一番嫌いな人間を、何故妃にすると思っている」
 「あの姿を見たら、誰だって…」
 「黙れ!ティアもクレアだって、リーシャを醜い等と。一言だって、言った事は無い!それに、好きでもない他人に、ベタベタ触られるのは不愉快だ。離れろっ」

 目玉のこんな姿、久し振りに見たな…
 話しによると、リーシャが9歳の誕生日の時に撮った画像を、部屋に飾っていたんだって。
 そんで勝手に入って来たはんかくさいが、その画像見て化け物って叫んだ事で、目玉の堪忍袋の緒が切れたんだって。
 目玉はリーシャ大好き兄ちゃんだからね、そら怒るわ。

 しかし、はんかくさいってどんな神経してんだろ?
 あんな事言われてるのに「照れなくても良いのです」だって!
 私だって、嫌われてるの分かるレベルだよ?
 頭の中、かち割って覗いてみたくなる位、不思議な人だわ。
 
 「ねぇ、傲慢。腹黒は、地下牢から出して貰ったの?」
 「いや。あいつは地下牢から出る事は、恐らくだがないと思うぞ。極刑がほぼ決まっているからな」
 「それって何時?国民には、事前に告知されるの?」
 「勿論、他国にも告知する。あれだけ証人が居る上に、証拠品が出たからな…ひと月後には、断頭台に上がってるだろうな」
 
 ひと月か…時間無いな。
 出来る事なら、彼女には死んで欲しくないのよね。
 私は封印されたままの、皇太子殿下を思い出してた。
 
 「気になるのか?戦争用魔道具を集めていた、非道な女だぞ?情けをかけた所で、何の得にもならん。諦めろ」
 「あ~…そだね。いや…不思議ちゃんは、実のお母様でしょ?平気なのかな」
 「不思議ちゃん?はんかくさいから、不思議ちゃんになったのか?お前は人に仇名を付けるのが好きなんだな」
 
 傲慢はケラケラ笑いながら、不思議ちゃんは腹黒と一緒で、自分にしか興味が無いからほっとけと言ってる。
 そゆもんかね?遅かれ早かれ、皇帝も捌かれる時が来るし。
 そうなったら嫌でも、不思議ちゃんが特に嫌ってる平民の血が、自分にも半分混ざってる事を知るんだよ。

 それだけじゃない。
 皇族の血が一切入って無いんだもの、間違いなく平民落ちになっちゃう。
 腹黒の親戚一同は、揃って国外に逃亡したって聞いた、孫を見捨てたんだよ。
 きっと引き取ってくれる人は、居ないんじゃないかな?

 皇族として生きて来た不思議ちゃんが、平民になって呪詛師の娘として生きてけるとは、思えないんだけど…
 皇子達は、皇帝が入れ替わってる事を、知ってるのかな?
 私は知ってたよ。

 あの転移する魔物を捕まえた時に、尋問したからね。
 彼は苦痛で張り裂けそうになってた。
 腹黒は自分に刃向う人達を、魔物になった皇太子殿下に取り込ませて、彼等が苦しむ姿を見て笑ってたんだわ。

 人の心を、弄んでる事を理解したうえで、残酷な事を腹黒はやってた。
 だから、同情する気は一欠けらも無いんだよ。
 クレアは…目玉も金魚も帝国に来た宮仕え達も皆、目玉父からその事実を聞いている。

 そして、これは私の憶測なんだけど。
 皇太子妃は全てを知ったから、身を隠したんだ、世継ぎのアルフレッド様を守る為に。
 多分皆、同じ所に居ると思う。
 帝国の影が、皇太子妃とお上品を護ってる筈。

 奴等は感情を捨てた、護衛のスペシャリストだからね。
 命令があれば、簡単に主を見捨てる事も出来るし、自分の命を差し出す事も厭わない。
 影に帝国の未来を託したのだとしたら?
 本当の皇帝夫妻は、もうこの世にはいないのかも…
 なんかしんみりしちゃったのを、傲慢が勘違いしてるけど、不思議ちゃんの前だしほっとこう。

 彼はね、エイドリアンから、シュヴァルツになったよ。
 どっちも言い難いから、傲慢のままで通すけどね、一応報告。
 皇位継承権については、兄弟で揉めてるらしい…
 お互い譲り合ってるのよ、仲良しだよね。

 傲慢は私達の前で、虎を被るの止めた宣言したよ。
 結構初めの頃から脱げてたと思うけど、本人気付いてないとか、ウケルわ。
 授業が終わる頃、目玉父から皇宮への呼び出しが来たから、目玉と一緒に来たんだけど…
 王様から【好きな時に帰っておいで】って書かれた手紙を、受け取った。

 なんか、前にもこんな手紙を見た気がするけど…?
 もっと他に書く事無いんか~いって思う。
 王命遂行したからね、ここに残る理由も無くなったし…これから帝国は、皇帝問題で一波乱起きる。
 いや…起こすの間違いかな?
 だって、一石投じるの私だもん。
 本当は自分の手で、皇帝モドキを、玉座から引き摺り落としてやりたかったんだけどね。
 その役目は譲る事にしたよ。

 だから、こんな所に居て、巻き添えは食いたくない。
 【皆と一緒に帰るよ】って返事を、目玉父から王様に渡して貰った。
 心残りは…やっぱダンジョンかな?
 未だに入り口が見つかってないんだわ。
 そこは仕方ないし、皇帝が世代交代して落ち着いた頃に、こっそり四人で遊びに来る事にした。

 目玉父が皇帝と何を話したのかは、聞く必要無いから知らない。
 多分王国の乗っ取りとか、国際問題的な何かだとは思う。
 目玉父だって偽物の皇帝なんかと、まともに会話なんてしたくないだろうしね…
 建前上息子の暗殺とか、私の暗殺とか放置出来ない問題があったから、席を設けたに過ぎない。
 
 優秀な呪術師が居た様で、私が刻んだ口封じの呪印が反応したから、目玉父が激怒したってのは聞いたけど…
 呪印が破られた訳じゃ無いから、聖女の事なんかは、知られて無い。

 そんな感じで、数日かけて帰国の準備を整えた。
 学園の人達にもお別れして来たし、大神殿の司祭達にもお別れ言って来た。
 案の定皇帝命令で、いろいろ大変らしいけど、頑張って立ち直してって思う。



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