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第二章 春休み(夢子の場合)
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……そして私は、男の人を信じられないけど、お兄ちゃんの事は好き、という話をした。というまとめ方はあまりにも雑すぎるだろうか。
私が男を信用できない理由は、主にあの男(前の父親)のせいだ。一緒に暮らしていた頃、あいつのやる事成す事全てが気に食わなかった。お母さんに甘えるだけ甘えて、終いには浮気した。「お前がいなきゃダメだ」と娘の私の眼の前で言うようなところも情けなくて大嫌いだった。全然お母さんがいなくても大丈夫だったのも、それはそれでムカついた。
ただ、だからと言って世の中の全ての男がそうだとは全く思っていない。思っていないが、心でそれを理解するのに未だ時間が必要だという話。この質問は、その時間を短縮するための相談のつもりだった。
「だから、私にどうやってお兄ちゃんが女の人を信じられるようになったのか、教えてほしい」
……きっと、お兄ちゃんは何か元気の出る言葉を私に言うのだろう。今の私にとっては、それで十分といえば十分だ。
しかし、お兄ちゃんの答えは、意外にも全く別のものだった。
「父さんが、前を向いたんだ。だから俺だけが止まっているわけにはいかないと思った」
お兄ちゃんは、私が前を向こうとしている事を知っているのだと思う。だから綺麗ごとを言わなかったのだ。
洋祐さんが前を向いたからそれに倣っただけ。言い換えればそういうことだ。お兄ちゃんは私が思っているほど強い人じゃないのかもしれない。でも。
……お兄ちゃんらしいね。
小さくそうつぶやいた。聞こえていたかどうかはわからない。だから、しっかりした声で別の言葉を紡いだ。
「そうだよね。お母さんがお父さんと一緒にいようと前を向いたんだもんね。だったら私が足を引っ張ったらダメだよね」
私が男の人を信じられるようになる事と、お母さんと洋祐さんが前を向くことに、関係なんて何もない。それを一番わかっているのはきっとお兄ちゃんだ。すごくずるい答え。でも、それに乗っかった私は、もっとずるかった。
その後ご飯(焼きそば、お兄ちゃんは私から隠れるように大量のソースをかけていた)を食べてからお風呂に入って、浴槽の中でスマホをいじっていた。
『お兄ちゃんの食べる量、見せてあげたいよ』
いつものように、グループチャットに今日あったことを書き込んでいる。チャットルームには友達の望月理子と稲葉真琴がいる。二人ともどこか私と似たところがあって、いつの間にか親友になっていた。
ちなみに、この二人は私がお兄ちゃんを好きなことを知っている。
『そういえば、夢子のお母さんたち今いないんだっけ?』
真琴からだ。
『そだよ』
絵文字付きで返す。普段二人相手に絵文字やスタンプを使わないのだが、その言葉にどこか恥ずかしさを感じて照れ隠しをしてしまった。
『チャンスじゃん』
チャンスだけどさ。
『どうすればいいかわからないよ~』
また絵文字を付けてしまった。きっと、この癖はとっくに見破られているのだと思う。
『一緒に寝てみれば?私お姉ちゃんと寝るときあるし、多分いけるよ』
理子の悪乗りだ。確実にわざと言っている。異性と同性を同じ括りで語れるわけがない事を、異性人気の高いこの二人が理解していないはずがない。
『確かに、いいかも』
『真琴まで。。。』
私を置いて二人で作戦会議が始まった。色々と提案があったが、結局のところ策を弄するのは私たちらしくないということで、素直に一緒に寝たいと伝えることに決まった。
……決まってしまった。
『それじゃ、また明日ね』
それを最後にスマホの画面を暗くすると、私は自分の爪の形を確認してからお風呂をでた。体を拭いてドライヤーで髪の毛を乾かす。
スキンケアまで済ませて、自分の部屋へ戻った。
それから数時間、私は部屋でドラマを見ていた。眼が冴ていて、寝落ちする気配は全くない。きっと、さっき飲んだコーヒーのせいだ。ちょうどいい。これを言い訳にしよう。
覚悟を決めて、お兄ちゃんの部屋に向かった。ノックはせず、ゆっくりとドアを開ける。部屋の電気は点いていない。
やはり、お兄ちゃんは眠っていた。申し訳なさもあったが、この際妹の立場を存分に利用することにした。都合のいい時だけ妹になるけど、別にいいでしょ。
ぼうっと、小さな明かりが灯った。お兄ちゃんが起きたのだ。もう、戻れない。
「お兄ちゃん……」
「どうしたの」
「寝れないよ」
思ったより甘えた声が出た。それに対し、少しだけ溜めてからお兄ちゃんは「うん」といった。
お兄ちゃんが電気を点けて座ったから隣に座る。色々訊かれたから、適当な答えを言っておいた。意味のない嘘をつくタイプ。
こんなやり取りをするくらいなら早く隣で眠りたい。そう思うと、言い出せない自分が情けなくて、思わず顔を歪めてしまった。
「体を温めると眠れるんじゃないか?ホットミルクとか飲むか?」
「うん、飲む」
数分後、お兄ちゃんがカップを持って戻ってきた。そして私にそれを渡すとしれっと布団にもぐった。
「ちょっと。まだ寝れないよ」
「うん。でもお兄ちゃん眠い」
この言葉は、もしや誘っているのでは?そう思うと、何か勇気が湧いてきて。
「……じゃあ一緒に寝る」
やっと、言えた。
私が男を信用できない理由は、主にあの男(前の父親)のせいだ。一緒に暮らしていた頃、あいつのやる事成す事全てが気に食わなかった。お母さんに甘えるだけ甘えて、終いには浮気した。「お前がいなきゃダメだ」と娘の私の眼の前で言うようなところも情けなくて大嫌いだった。全然お母さんがいなくても大丈夫だったのも、それはそれでムカついた。
ただ、だからと言って世の中の全ての男がそうだとは全く思っていない。思っていないが、心でそれを理解するのに未だ時間が必要だという話。この質問は、その時間を短縮するための相談のつもりだった。
「だから、私にどうやってお兄ちゃんが女の人を信じられるようになったのか、教えてほしい」
……きっと、お兄ちゃんは何か元気の出る言葉を私に言うのだろう。今の私にとっては、それで十分といえば十分だ。
しかし、お兄ちゃんの答えは、意外にも全く別のものだった。
「父さんが、前を向いたんだ。だから俺だけが止まっているわけにはいかないと思った」
お兄ちゃんは、私が前を向こうとしている事を知っているのだと思う。だから綺麗ごとを言わなかったのだ。
洋祐さんが前を向いたからそれに倣っただけ。言い換えればそういうことだ。お兄ちゃんは私が思っているほど強い人じゃないのかもしれない。でも。
……お兄ちゃんらしいね。
小さくそうつぶやいた。聞こえていたかどうかはわからない。だから、しっかりした声で別の言葉を紡いだ。
「そうだよね。お母さんがお父さんと一緒にいようと前を向いたんだもんね。だったら私が足を引っ張ったらダメだよね」
私が男の人を信じられるようになる事と、お母さんと洋祐さんが前を向くことに、関係なんて何もない。それを一番わかっているのはきっとお兄ちゃんだ。すごくずるい答え。でも、それに乗っかった私は、もっとずるかった。
その後ご飯(焼きそば、お兄ちゃんは私から隠れるように大量のソースをかけていた)を食べてからお風呂に入って、浴槽の中でスマホをいじっていた。
『お兄ちゃんの食べる量、見せてあげたいよ』
いつものように、グループチャットに今日あったことを書き込んでいる。チャットルームには友達の望月理子と稲葉真琴がいる。二人ともどこか私と似たところがあって、いつの間にか親友になっていた。
ちなみに、この二人は私がお兄ちゃんを好きなことを知っている。
『そういえば、夢子のお母さんたち今いないんだっけ?』
真琴からだ。
『そだよ』
絵文字付きで返す。普段二人相手に絵文字やスタンプを使わないのだが、その言葉にどこか恥ずかしさを感じて照れ隠しをしてしまった。
『チャンスじゃん』
チャンスだけどさ。
『どうすればいいかわからないよ~』
また絵文字を付けてしまった。きっと、この癖はとっくに見破られているのだと思う。
『一緒に寝てみれば?私お姉ちゃんと寝るときあるし、多分いけるよ』
理子の悪乗りだ。確実にわざと言っている。異性と同性を同じ括りで語れるわけがない事を、異性人気の高いこの二人が理解していないはずがない。
『確かに、いいかも』
『真琴まで。。。』
私を置いて二人で作戦会議が始まった。色々と提案があったが、結局のところ策を弄するのは私たちらしくないということで、素直に一緒に寝たいと伝えることに決まった。
……決まってしまった。
『それじゃ、また明日ね』
それを最後にスマホの画面を暗くすると、私は自分の爪の形を確認してからお風呂をでた。体を拭いてドライヤーで髪の毛を乾かす。
スキンケアまで済ませて、自分の部屋へ戻った。
それから数時間、私は部屋でドラマを見ていた。眼が冴ていて、寝落ちする気配は全くない。きっと、さっき飲んだコーヒーのせいだ。ちょうどいい。これを言い訳にしよう。
覚悟を決めて、お兄ちゃんの部屋に向かった。ノックはせず、ゆっくりとドアを開ける。部屋の電気は点いていない。
やはり、お兄ちゃんは眠っていた。申し訳なさもあったが、この際妹の立場を存分に利用することにした。都合のいい時だけ妹になるけど、別にいいでしょ。
ぼうっと、小さな明かりが灯った。お兄ちゃんが起きたのだ。もう、戻れない。
「お兄ちゃん……」
「どうしたの」
「寝れないよ」
思ったより甘えた声が出た。それに対し、少しだけ溜めてからお兄ちゃんは「うん」といった。
お兄ちゃんが電気を点けて座ったから隣に座る。色々訊かれたから、適当な答えを言っておいた。意味のない嘘をつくタイプ。
こんなやり取りをするくらいなら早く隣で眠りたい。そう思うと、言い出せない自分が情けなくて、思わず顔を歪めてしまった。
「体を温めると眠れるんじゃないか?ホットミルクとか飲むか?」
「うん、飲む」
数分後、お兄ちゃんがカップを持って戻ってきた。そして私にそれを渡すとしれっと布団にもぐった。
「ちょっと。まだ寝れないよ」
「うん。でもお兄ちゃん眠い」
この言葉は、もしや誘っているのでは?そう思うと、何か勇気が湧いてきて。
「……じゃあ一緒に寝る」
やっと、言えた。
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