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第二章 春休み(夢子の場合)
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気になって仕方なかった。妹として見られていないのだとすれば、それは喜んでいいのか、それともただ私に無関心なのか。
こういう時にポジティブに考えられればいいのに。どうして私はいつも悪い方へ考えてしまうのだろう。お兄ちゃんが私なんて眼中にないのだと考えると、胸の奥が苦しくなる。
二人が眠った後、私は独りで考えていた。
思えば、この恋は初めから歪だったのだ。
どうして、信じられる男の人が欲しいなどと願ってしまったのだろう。
結論から言えば、私はお母さんが羨ましかったのだ。
生涯を誓った男に振られて諦めて、私たち二人で生きていこうと誓ったはずなのに、私以外に生き甲斐を見つけた事が心の底から羨ましくて。信じることの美しさを目の当たりにして、そして嫉妬した。
その気持ちに気がついた時、私はこう思ってしまった。
私の生き方は、あれほどまで嫌ったあの男の姿なのだと。
……心の底から、私は私を拒絶してしまいそう。相手を自分に繋ぎとめておく術を、縋ることしか知らない自分が、嫌で嫌で。
嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で、仕方がなかった。
だから、嫉妬から目を背けた。それも、手っ取り早く、最も身近な場所にいた人を想うことで。
あの時お兄ちゃんに感じた予感。「好きになる」という思いは、あの男と同じように相手の優しさに依存して縋ってしまうという自分への警鐘だったのだのかもしれない。
わかっていたはずなのに。だから彼を、お兄ちゃんと呼んだのに。
縋っても離れて行ってしまう。彼は、私を見ていない。
それなら、なにも思われず埋もれていくのなら、私は妹でいい。だから。お願い。
私を、一人にしないで。
× × ×
この二人がいてくれて、本当に良かったと思う。目が覚めた時、真琴と理子は私に抱き着いて寝ていた。この状況は私を安心させてくれる。求められる事が嬉しいというのは、きっと女の本能なのだろう。
程なくして二人が目を覚ます。挨拶をして歯磨きをして、ご飯を食べる。
今日は二人とも予定があるのだそうで、そうと分かればここに長く留まることはできない。家に帰ろう。
「泣いちゃダメだよ」
真琴が言う。……ひょっとして、私は寝てる間にまた泣いたのだろうか。だとしたらここ最近の私は心が不安定すぎる。気を付けなければならない。
「うん。ありがとう」
「それじゃあ、またね」
途中まで送ってきてくれた理子に手を振り、私たちはそれぞれの道を往く。帰りに買い物をして帰った方がいいだろうか。……いや、料理をする気にはなれない。今日は適当でいいだろう。
家に戻っても、お兄ちゃんはいなかった。洗濯を済ませて掃除機をかけて、そしてお兄ちゃんの部屋でぼーっと過ごした。
何もない。ベッドと机とノートパソコンだけ。引き戸のクローゼットの中には、いくつかの蔵書や洋服がしまってあるのだろう。
いつでもここからいなくなってしまえそうな、そんな生活感のない寂しい部屋。
お兄ちゃんは、いつもここで何を考えているのだろう。まるで、空っぽな心をそのまま表しているみたいなこの部屋で。
……会いたい。会って、話がしたい。
外は既に夕焼け。私はスマホを手に取り、お兄ちゃんに『何時に戻るの?』と送った。すぐに返信があった。そう時間はかからないらしい。
私はリビングへ移動してソファに座ると、ただお兄ちゃんを待った。何か言うべきことを考えておこうと思っていたのに、頭はちっとも働かない。そんなことを思ううちに、玄関の方で物音が聞こえた。
「ただいま」
別に無視した訳じゃない。ただ言葉が詰まってしまったのだ。
なんか緊張する。いつもどうやって話していたっけ?
「どうした。何かあったのか?」
色々あったんだよ。別にお兄ちゃんのせいじゃないけど、でもお兄ちゃんに関わる事。
……私の事。
事の発端はどこにあっただろうか。それを探ると、一つの言葉を思い出した。
「お兄ちゃんが自分のこと、優しくないとかいうからあんなことになったの」
酷い言いがかりだ。私は銃を作った人間に、戦争を起こしたのはあなただと言っているようなものだ。
「あぁ、悪かったな、あれは」
「それそれ!それだよっ!そうやってすぐ謝るんだから!」
情緒が安定していない。もう私はダメだ。
「ちゃんと怒ってよ!お兄ちゃん全然悪くないでしょ!」
「こ……こらっ!」
「ふざけないで!」
ふざけているのむしろ私だ。何を言っているのか、もう自分でもわからない。
理由に理子のお姉さんを使って、私の本心を隠した言葉を吐いた。……気になっているだけだ。高校生の浅知恵。気づかれているに決まっている。
あぁ、何もかも諦めてしまおう。きっとこれ以上お兄ちゃんの事を考えていたら、本当に私は壊れてしまう。
だから、これで。
「お兄ちゃんがお兄ちゃんだって思わせてくれないと、嫌だ」
いいんだって、そう思う。
……。
…。
「そう言ってくれてありがとう。俺は夢子の事、大好きだよ」
……えっ?
今なんて言ったの?だって、お兄ちゃんは私のことなんて。
「はわわ……」
本当、お兄ちゃんは最低だ。
こういう時にポジティブに考えられればいいのに。どうして私はいつも悪い方へ考えてしまうのだろう。お兄ちゃんが私なんて眼中にないのだと考えると、胸の奥が苦しくなる。
二人が眠った後、私は独りで考えていた。
思えば、この恋は初めから歪だったのだ。
どうして、信じられる男の人が欲しいなどと願ってしまったのだろう。
結論から言えば、私はお母さんが羨ましかったのだ。
生涯を誓った男に振られて諦めて、私たち二人で生きていこうと誓ったはずなのに、私以外に生き甲斐を見つけた事が心の底から羨ましくて。信じることの美しさを目の当たりにして、そして嫉妬した。
その気持ちに気がついた時、私はこう思ってしまった。
私の生き方は、あれほどまで嫌ったあの男の姿なのだと。
……心の底から、私は私を拒絶してしまいそう。相手を自分に繋ぎとめておく術を、縋ることしか知らない自分が、嫌で嫌で。
嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で、仕方がなかった。
だから、嫉妬から目を背けた。それも、手っ取り早く、最も身近な場所にいた人を想うことで。
あの時お兄ちゃんに感じた予感。「好きになる」という思いは、あの男と同じように相手の優しさに依存して縋ってしまうという自分への警鐘だったのだのかもしれない。
わかっていたはずなのに。だから彼を、お兄ちゃんと呼んだのに。
縋っても離れて行ってしまう。彼は、私を見ていない。
それなら、なにも思われず埋もれていくのなら、私は妹でいい。だから。お願い。
私を、一人にしないで。
× × ×
この二人がいてくれて、本当に良かったと思う。目が覚めた時、真琴と理子は私に抱き着いて寝ていた。この状況は私を安心させてくれる。求められる事が嬉しいというのは、きっと女の本能なのだろう。
程なくして二人が目を覚ます。挨拶をして歯磨きをして、ご飯を食べる。
今日は二人とも予定があるのだそうで、そうと分かればここに長く留まることはできない。家に帰ろう。
「泣いちゃダメだよ」
真琴が言う。……ひょっとして、私は寝てる間にまた泣いたのだろうか。だとしたらここ最近の私は心が不安定すぎる。気を付けなければならない。
「うん。ありがとう」
「それじゃあ、またね」
途中まで送ってきてくれた理子に手を振り、私たちはそれぞれの道を往く。帰りに買い物をして帰った方がいいだろうか。……いや、料理をする気にはなれない。今日は適当でいいだろう。
家に戻っても、お兄ちゃんはいなかった。洗濯を済ませて掃除機をかけて、そしてお兄ちゃんの部屋でぼーっと過ごした。
何もない。ベッドと机とノートパソコンだけ。引き戸のクローゼットの中には、いくつかの蔵書や洋服がしまってあるのだろう。
いつでもここからいなくなってしまえそうな、そんな生活感のない寂しい部屋。
お兄ちゃんは、いつもここで何を考えているのだろう。まるで、空っぽな心をそのまま表しているみたいなこの部屋で。
……会いたい。会って、話がしたい。
外は既に夕焼け。私はスマホを手に取り、お兄ちゃんに『何時に戻るの?』と送った。すぐに返信があった。そう時間はかからないらしい。
私はリビングへ移動してソファに座ると、ただお兄ちゃんを待った。何か言うべきことを考えておこうと思っていたのに、頭はちっとも働かない。そんなことを思ううちに、玄関の方で物音が聞こえた。
「ただいま」
別に無視した訳じゃない。ただ言葉が詰まってしまったのだ。
なんか緊張する。いつもどうやって話していたっけ?
「どうした。何かあったのか?」
色々あったんだよ。別にお兄ちゃんのせいじゃないけど、でもお兄ちゃんに関わる事。
……私の事。
事の発端はどこにあっただろうか。それを探ると、一つの言葉を思い出した。
「お兄ちゃんが自分のこと、優しくないとかいうからあんなことになったの」
酷い言いがかりだ。私は銃を作った人間に、戦争を起こしたのはあなただと言っているようなものだ。
「あぁ、悪かったな、あれは」
「それそれ!それだよっ!そうやってすぐ謝るんだから!」
情緒が安定していない。もう私はダメだ。
「ちゃんと怒ってよ!お兄ちゃん全然悪くないでしょ!」
「こ……こらっ!」
「ふざけないで!」
ふざけているのむしろ私だ。何を言っているのか、もう自分でもわからない。
理由に理子のお姉さんを使って、私の本心を隠した言葉を吐いた。……気になっているだけだ。高校生の浅知恵。気づかれているに決まっている。
あぁ、何もかも諦めてしまおう。きっとこれ以上お兄ちゃんの事を考えていたら、本当に私は壊れてしまう。
だから、これで。
「お兄ちゃんがお兄ちゃんだって思わせてくれないと、嫌だ」
いいんだって、そう思う。
……。
…。
「そう言ってくれてありがとう。俺は夢子の事、大好きだよ」
……えっ?
今なんて言ったの?だって、お兄ちゃんは私のことなんて。
「はわわ……」
本当、お兄ちゃんは最低だ。
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