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第二章 春休み(夢子の場合)
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「そっ、そういうこと言ってるんじゃないでしょ!お兄ちゃんが私を好きなのは今関係ないでしょ!」
関係大有りだ。むしろそれしか関係がないまである。
「ちゃんと見るようにするから。夢子のこと。だから許してくれないか?」
酷い。こんな力技が通用していいわけがない。だってそれなら私は、なんでこんなに悩んでいたの?
――うれしい。
私がどれだけ悩んで、どれだけ頑張って決めたと思ってるの。それをたった一言で。
――飛び上がってしまいそう。
そんなの、絶対許せない。
――私もって、今すぐ言いたい。
……。
ちゃんと見てくれるなら、私は他に何も要らない。
「わかってるなら最初からそう言えばいいじゃん。すっ、すっ、好きなのは関係ないでしょ」
もう一度言ってほしくて、だから自分で口にした。
「まあわかってくれたならそれでいいよ。もう気を付けてよね」
吐き捨てるようにそれを伝えて、私は自分の部屋に戻った。
次の日になるまで、私はずっと起きていた。いつまでたっても、私の心臓がうるさくて眠れなかったからだ。
その間考えて、たっぷり考えて辿り着いたのは。
「……優しくしたお兄ちゃんが悪い。だから私がお兄ちゃんを好きなのは、何も変な事じゃない」
一番最初に出した答えだった。結局ここに戻ってくるんだ。だったらもう、迷わない。
私は必ず、お兄ちゃんの恋人になる。
次の日、目が覚めてからはいつも通りに過ごした。昼間にはレンタルショップでDVDを借りて、いつもの三人でご飯を食べて、夕方には買い物を済ませて家に戻った。
夕飯を準備して、ソファに座ってテレビを見る。しばらくして、お兄ちゃんが帰ってきた。
明日にはお母さんたちが帰国する。ならばその前にもう一度だけしたいことがあった。
「今日も一緒に寝ていい?」
肩を寄せて、そう訊く。
明日の予定を決める会話の中で、さも当然のことのように口にしたその言葉。緊張はもうない。
「いいよ。きっと今日で最後になるだろうしな」
今日で最後。そんな先の見えない事を決めつけて理由にするお兄ちゃんが、どこかかわいく見える。きっと、今では私の方が大人だ。そんな面倒なことはもう考えない。私はもっとストレートに行く。
おかずを温めて、二人で食べ始めた。……不思議なことに、お兄ちゃんの食べる量が普通の量になっている。食べるスピードも、普通だ。
「どうしたの?具合悪いの?それとも、おいしくなかった?」
「そんなことない!体調は悪くないし、最高においしかったぞ!」
動揺している。今までは一度も、こんなことなかった。
お兄ちゃんはお皿を片付けると、私が食べ終わるのも待たずに自分の部屋に向かって、すぐに家を出て行ってしまった。
追って家の前を見ると、ストレッチをしている。その姿を見ていると、お兄ちゃんはすぐに走って行ってしまった。
スマホ。お兄ちゃんリビングに置きっぱなしだ。これでは連絡が取れない。
そんなことを考えていると、お兄ちゃんのスマホに一件のメッセージが入った。『さーや』という人からの連絡だ。でも、もう気にはならない。
それから三時間程経って、私が本格的に心配し始めた頃、ようやくお兄ちゃんは帰ってきた。
シャワーを浴びて、バスルームから出たのが音で分かった。私は脱衣所の扉の前に立って、質問を投げる。
「三時間以上も走ってたの?」
「いや、遠くまで走って、そこから歩いて帰ってきた」
「……さーやって誰?」
別に気になってないもん。
程なくして、お兄ちゃんが出てきた。ボディーソープの香り。
私は間髪も入れずお兄ちゃんに抱き着いた。(というより、飛びついたという方がきっと正しい)頭を撫でられて、ますます離れがたい。……本当は少し、心配してたから。
その後、私たちは映画を見た。見ている間、私はお兄ちゃんにべったりくっついて恋人を気取っていた。もちろん映画はちゃんと見ていた。(何故かお兄ちゃんは号泣していた。確かに悲しいお話だったけど、そこまで泣くほどだっただろうか?)
寝る前の準備を済ませ、そして私たちはお兄ちゃんの部屋に向かった。
先にベッドに滑り込んで、壁際を確保した。この方が、守られているような気がするから。
私の後を追ってお兄ちゃんがベッドに入る。背中を向けて、同じベッドに二人。
確かな熱を感じる。熱い感覚。間違いなく前にはなかった。そうはっきり言えるほどのモノ。
沈黙。頭に触れられて、私の髪が流れた。シーツと擦れる音がする。
……不意にその手の動きが止まった。
しばらくして、お兄ちゃんが笑った。寂しそうな笑い。
「……どうしたの?お兄ちゃん」
私が訊く。
「いや、どうにもしないよ」
嘘だと知っている。でも私は訊かなかった。
「そっか。映画、面白かったね」
「そうだな」
再び頭を撫でられた。
「真琴に感謝しないとね」
「あぁ、夢子のおすすめを教えてやれば、喜ぶんじゃないか?」
「そうだね、何にしよっかな」
私は笑って、体を少し反らせる。背中を向けたまま、お兄ちゃんに寄りかかった。
言葉は無かった。ただ、肌が触れて、そして。
「……っ」
お兄ちゃんに、抱きしめられた。
私の形を確かめるように、まるで縋るように。
その気持ちがわかって、だから私は胸の前にあるその少し震えた手を、強く握りしめた。
首元に柔らかい感触があった。思わず声が漏れる。それ以上は、踏み込まれない。
私は落ち着いていた。それはきっと、お兄ちゃんがどこか弱く見えたからだろう。離れていくと思い込んだ私と、重なっているように思えたのだ。
そんなことないのに。
遠くに見えたお兄ちゃんが、今では私の背中を見ている。振り返ってキスをしてあげたかったけど、今日まで散々心配させられたから、その罰としてご褒美はお預けにすることにした。
関係大有りだ。むしろそれしか関係がないまである。
「ちゃんと見るようにするから。夢子のこと。だから許してくれないか?」
酷い。こんな力技が通用していいわけがない。だってそれなら私は、なんでこんなに悩んでいたの?
――うれしい。
私がどれだけ悩んで、どれだけ頑張って決めたと思ってるの。それをたった一言で。
――飛び上がってしまいそう。
そんなの、絶対許せない。
――私もって、今すぐ言いたい。
……。
ちゃんと見てくれるなら、私は他に何も要らない。
「わかってるなら最初からそう言えばいいじゃん。すっ、すっ、好きなのは関係ないでしょ」
もう一度言ってほしくて、だから自分で口にした。
「まあわかってくれたならそれでいいよ。もう気を付けてよね」
吐き捨てるようにそれを伝えて、私は自分の部屋に戻った。
次の日になるまで、私はずっと起きていた。いつまでたっても、私の心臓がうるさくて眠れなかったからだ。
その間考えて、たっぷり考えて辿り着いたのは。
「……優しくしたお兄ちゃんが悪い。だから私がお兄ちゃんを好きなのは、何も変な事じゃない」
一番最初に出した答えだった。結局ここに戻ってくるんだ。だったらもう、迷わない。
私は必ず、お兄ちゃんの恋人になる。
次の日、目が覚めてからはいつも通りに過ごした。昼間にはレンタルショップでDVDを借りて、いつもの三人でご飯を食べて、夕方には買い物を済ませて家に戻った。
夕飯を準備して、ソファに座ってテレビを見る。しばらくして、お兄ちゃんが帰ってきた。
明日にはお母さんたちが帰国する。ならばその前にもう一度だけしたいことがあった。
「今日も一緒に寝ていい?」
肩を寄せて、そう訊く。
明日の予定を決める会話の中で、さも当然のことのように口にしたその言葉。緊張はもうない。
「いいよ。きっと今日で最後になるだろうしな」
今日で最後。そんな先の見えない事を決めつけて理由にするお兄ちゃんが、どこかかわいく見える。きっと、今では私の方が大人だ。そんな面倒なことはもう考えない。私はもっとストレートに行く。
おかずを温めて、二人で食べ始めた。……不思議なことに、お兄ちゃんの食べる量が普通の量になっている。食べるスピードも、普通だ。
「どうしたの?具合悪いの?それとも、おいしくなかった?」
「そんなことない!体調は悪くないし、最高においしかったぞ!」
動揺している。今までは一度も、こんなことなかった。
お兄ちゃんはお皿を片付けると、私が食べ終わるのも待たずに自分の部屋に向かって、すぐに家を出て行ってしまった。
追って家の前を見ると、ストレッチをしている。その姿を見ていると、お兄ちゃんはすぐに走って行ってしまった。
スマホ。お兄ちゃんリビングに置きっぱなしだ。これでは連絡が取れない。
そんなことを考えていると、お兄ちゃんのスマホに一件のメッセージが入った。『さーや』という人からの連絡だ。でも、もう気にはならない。
それから三時間程経って、私が本格的に心配し始めた頃、ようやくお兄ちゃんは帰ってきた。
シャワーを浴びて、バスルームから出たのが音で分かった。私は脱衣所の扉の前に立って、質問を投げる。
「三時間以上も走ってたの?」
「いや、遠くまで走って、そこから歩いて帰ってきた」
「……さーやって誰?」
別に気になってないもん。
程なくして、お兄ちゃんが出てきた。ボディーソープの香り。
私は間髪も入れずお兄ちゃんに抱き着いた。(というより、飛びついたという方がきっと正しい)頭を撫でられて、ますます離れがたい。……本当は少し、心配してたから。
その後、私たちは映画を見た。見ている間、私はお兄ちゃんにべったりくっついて恋人を気取っていた。もちろん映画はちゃんと見ていた。(何故かお兄ちゃんは号泣していた。確かに悲しいお話だったけど、そこまで泣くほどだっただろうか?)
寝る前の準備を済ませ、そして私たちはお兄ちゃんの部屋に向かった。
先にベッドに滑り込んで、壁際を確保した。この方が、守られているような気がするから。
私の後を追ってお兄ちゃんがベッドに入る。背中を向けて、同じベッドに二人。
確かな熱を感じる。熱い感覚。間違いなく前にはなかった。そうはっきり言えるほどのモノ。
沈黙。頭に触れられて、私の髪が流れた。シーツと擦れる音がする。
……不意にその手の動きが止まった。
しばらくして、お兄ちゃんが笑った。寂しそうな笑い。
「……どうしたの?お兄ちゃん」
私が訊く。
「いや、どうにもしないよ」
嘘だと知っている。でも私は訊かなかった。
「そっか。映画、面白かったね」
「そうだな」
再び頭を撫でられた。
「真琴に感謝しないとね」
「あぁ、夢子のおすすめを教えてやれば、喜ぶんじゃないか?」
「そうだね、何にしよっかな」
私は笑って、体を少し反らせる。背中を向けたまま、お兄ちゃんに寄りかかった。
言葉は無かった。ただ、肌が触れて、そして。
「……っ」
お兄ちゃんに、抱きしめられた。
私の形を確かめるように、まるで縋るように。
その気持ちがわかって、だから私は胸の前にあるその少し震えた手を、強く握りしめた。
首元に柔らかい感触があった。思わず声が漏れる。それ以上は、踏み込まれない。
私は落ち着いていた。それはきっと、お兄ちゃんがどこか弱く見えたからだろう。離れていくと思い込んだ私と、重なっているように思えたのだ。
そんなことないのに。
遠くに見えたお兄ちゃんが、今では私の背中を見ている。振り返ってキスをしてあげたかったけど、今日まで散々心配させられたから、その罰としてご褒美はお預けにすることにした。
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