義理の妹が結婚するまで

夏目くちびる

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第三章 二つの傷

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 中根と酒を飲んだあの夜から二週間後。今日は件のサークル主催のバーベキューの日だ。



 早くに着いてトラや初期のサークルメンバーと現場で準備をしていると、時間が進むにつれて人がどんどん増えてきて、予定時刻になる頃には三十人以上の人間が集まっていた。……こんなにいたっけ?



 「今日は勧誘も含めた懇親会のようなもんだから、新しい部員やサークル外の奴も多い。ゲストを連れてきた奴はみんなに紹介してやってくれ」



 トラが場を仕切る。訊けば俺がそうしたように、他の部員も仲間を連れてやってきたようだ。中には他大学の奴もいる。インカレサークルにでもするつもりなのだろうか。



 みんなにプラのカップや皿、割り箸を配りバーベキューコンロに火を点ける。その間に紹介が始まった。これなら黒子に徹する事が出来る。そう考えながら、話を耳に入れつつクーラーボックスに氷水を張って、ドリンクを冷やした。



 しばらくして準備も終わったころ、ほぼ同時に俺が紹介する番が回ってきた。皆が俺に……いや、俺の両隣に注目している。



 「もしかしたら知ってる人も多いかもしれないけど、俺と同じ学科の中根紗彩さん。それと」



 もう一人。



 「えっと、妹の新目夢子。まだ高校生だからお酒は控えさせてくれ」



 二人が挨拶をする。美少女二人の登場で会場(五分の四くらいは男だ)は更に沸いた。あのテンション、さては既に飲んでいる奴もいるな。……まだ午前中だぞ。



 夢子がここにいる理由を語るには、三日前の出来事を説明しなければならない。



× × ×



 「あぁ、わかった。まあそのうち来ると思ってたぜ」



 中根のサークル加入の件を話すと、トラはすんなりと受け入れた。元々知った顔だし、特に異論はなかったようだ。ただ。



 「ルールって程じゃねえけど、うちのサークルは男の方が多いんだ。下手に掻き回されねえように気を付けておかねえとな」



 「それに関してなんだけどさ」



 俺は中根がどうして前のサークルをやめて、次はどうしたいと思っているかを伝えた。



 「……ふーん。まあフミがそう言うんなら信じるか」



 話が早くて助かる。



 俺は当日の移動手段として借りるレンタカーや、大型のバーベキューコンロ、テントの手配をしていた。今は何でもインターネットで申し込みが出来るから楽だ。作業は終わったから、あとは取りに行くだけ。借りた車は型落ちのミニバンだ。



 「悪いな、いっつも雑務させちまって」



 トラが俺に缶コーヒーを手渡す。



 「いいよ。気にすんな」



 俺はそれを受け取ると、礼を言ってからプルタブを開けた。結局のところ、俺がサークルに貢献しようと思ったらこういう業務的な部分しかない。場面を盛り上げたり、組織をデカくするために動くのは向いていないからな。



 そういえば、こうしてトラと二人で話すのは久しぶりだ。サークル活動が盛んになって、トラはバイトのシフトを減らしているからだ。



 「そういや夢子ちゃんはどうなったんだ?」



 トラはそう言って部室の窓を閉めた。



 「色々あってな、今は俺の家に住んでる」



 事の経緯を説明した。



 「そりゃなんとも。大好きなお兄ちゃんと住めてうれしいだろうな」



 「茶化すなよ」



 今は一応収まってはいるが、いずれ時子さんとのわだかまりを解かなければならない。



 ワリ、と笑ってトラはコーヒーを飲んだ。



 「バーべキューさ、夢子ちゃんも連れてくれば?」



 提案の意図がよくわからなかった。



 「いや、サークルのイベントに妹連れてくるか?普通」



 「彼女連れてくる奴とかもいるし、別にいいんじゃね?」



 陽キャってなんでこうもウェルカムなんだろうか。



 「まあ向こうが暇だったらだよ。休みの日に一人で居たら寂しいだろ」



 その通りかもしれない。夢子も少し、寂しがり屋なところがあるからな。それに、俺がこうして話をしたものだから、トラは夢子に会ってみたいのかもしれない。ならば夢子にも少し協力してもらってもいいだろう。



 「わかった。誘ってみる」



 了解して、二人で部室を出た。その後はゲーセンでゲームをしていたが(格闘ゲーム。俺はトラに一度も勝ったことがない)、そのうちトラに連絡が入った。どうやら外せない緊急の用事が出来たようだ。さては女だな?



 頑張れよ、と見送って俺は帰路についた。



 最寄り駅で降りると、偶然にも夢子がいた。どうやらちょうど、俺が何時に帰るのかを確認して、返事次第で買い物をして帰るかどうかを考えていたようだ。ちなみに父が送ってくれる生活費は全て夢子に一任してある。



 「お兄ちゃん何食べたい?」



 今日も作ってくれるらしい。



 「今日はサンマが食べたいですねぇ」



 秋らしいメニューがよかった。どうせなら炊き込みご飯も食べたい。



 「いいよ。じゃあたけのこご飯も作ってあげる」



 夢子の料理スキルの向上は凄まじい。つい先日は俺が名前も知らないような北欧の料理を作っていた。味はもちろんうまかった。



 買い物を終えて道を歩く。エコバッグ(レジ袋を持ち歩けば?と提案したらかわいいのがいいと言われて購入した)の中には割と多い食料が入っている。ここから減るにしても、あの備え付けの小さい冷蔵庫に全て収まるだろうか。



 「そういえばさ、今週末サークルでバーベキューやるんだよ」



 「へぇ、そうなんだ」



 夢子は俺の少し前を歩いている。



 「それでさ、部長がよかったら夢子もどうかって」



 「うーん。でもそれって私が行ったら変じゃない?」



 やっぱりそう思うよな。



 「そう思うなら強制はしない。忘れてくれ」



 煮え切らない態度で「うん」と言った。きっと迷っているのだろう。しかし知らないところへ、しかも年上ばかりの場面に行くのは少し勇気が必要だと思う。変にかしこまっても居心地が悪いだけだしな。



 悪いなトラ。夢子は無理そうだ。



 家に帰ってから夢子はすぐに料理を始めた。切ったたけのことしいたけ、調合した出汁を入れて炊飯器のスイッチを押す。次に秋刀魚を焼いて、味噌汁を作った。ついでにとほうれん草のお浸しを加えて、今日は純和食、と言った面々だ。ちなみに俺はというと、テーブルを拭いて、大根おろしを擦っていた。幼稚園児でももう少しマシな働きをする気がするが、まあ仕方ないだろう。



 出来上がって、それを運ぶ。最高にいい匂いがする。



 「いただきます」



 手を合わせて箸に乗せ、それを食べる。思わず「ゥンまああ~いっ!」と叫んでしまいそうな味だった。こういう時、食べる量が減ってしまったことを悲しく思う。その代わり、しっかり味わって食べよう。



 その夜、食事を終えて皿を洗っていると来客があった。



 「出てくれ」と夢子に頼む。彼女は大人しく俺に従って玄関に向かう。扉を開ける音。夢子が扉を開けたという事は配達業者だろうか。しかし、そんな俺の予想に反して部屋に入ってきたのは。



 「やっほ~。来ちゃった」



 そういって憎たらしく笑う中根だった。
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