義理の妹が結婚するまで

夏目くちびる

文字の大きさ
30 / 54
第三章 二つの傷

しおりを挟む
「あんた全然食べてないんじゃないの?紗彩の肉分けてあげよっか?」



 気が付くと、皿の上にたっぷりと肉を乗せた中根が夢子の隣に座っていた。



 「あぁ、ありがとう」



 「夢子も食べなよ」



 そう言って中根は夢子にも皿を向けた。



 「……ありがとうございます」



 意外にも夢子はそれを受け取った。まあ考えてみれば彼女たちは俺にキレていたのであって、互いに喧嘩をしていたわけではない。話してみれば普通に、特に今の中根であれば打ち解けるのはさほど難しくもないのかもしれない。ただ、夢子の方は少しバツが悪そうだった。



 「何ふてくされてんの」



 「いえ、別にふてくされていません」



 「夢子」



 名前を呼ぶと、「だって」と言って俺を見た。そのやり取りを見て、中根はため息を吐いた。



 「紗彩そういうダルいの嫌い。別にそれはそれでいいじゃん」



 何がとは言わなかったが、きっと夢子にも伝わっていると思う。



 「俺としても、二人には仲良くしてもらいたい」



 それに、あんなに怖い思いはもうしたくないからな。



 「……わかった」



 そういうと、夢子は中根の皿をひったくって肉をガツガツと頬張った。



 「あんた、童貞の癖に言うときは言うよね」



 急になんだこいつは。



 「今俺が童貞なの関係ないよね?」



 夢子の箸が止まった。



 「夢子知ってる?あんたの兄貴、童貞なの」



 モラルの欠片もない話題だ。しかしこれは中根なりに夢子に気を使ったのだろう。案外年上としての頼りがいのある奴なのかもしれない。



 「どうしてそんなこと知ってるんですか?」



 別にそこ掘り下げる必要はないんだぞ?



 「この前さ」



 その会話を皮切りに、二人は俺をいじくり倒して盛り上がっていた。仲良くなったようでよかったが、代わりに男として大切な何かを失っているような気がする。というか、女子ってそういう話あんまり好まないものなんじゃないの?



 その間の俺はというと、やはりトラと那子さんが気になっていた。かなり親しげに見えるが、一体どこで出会ったのだろうか。彼女の見た目からは全く想像は出来ないが、実はとんでもない不良少女だったのかもしれない。



 そんなことを考えていると、トラがこちらを指さして二人で向かってきた。夢子と中根もそれに気が付いたようだ。



 「こんにちは」



 俺は軽く会釈をする。



 「初めまして、望月那子です。東都大学の四年生よ」



 東都大学。日本で最も有名な大学の名前だ。



 「新目文也です。こちらは同期の中根紗彩」



 中根が隣で「どうも」と言った。



 「よろしくね、中根さん。夢子、今日はお酒飲んでないわよね?」



 那子さんは優しく微笑みながら言った。恐らく春休み中の出来事を指して言っているのだろう。



 「もちろんです。あの時はすいませんでした」



 「その節はすいません。妹がご迷惑をおかけしました」



 深く頭を下げた。



 「いいのよ。興味があるのはわかるもの。でも夢子、あまりお兄さんに心配かけちゃダメよ?」



 言うと、彼女は眼鏡の位置を指で直して、また微笑んだ。俺は不覚にも、少しドキッとしてしまう。



 その口ぶりから、夢子と那子さんは割と仲がいいように思える。きっと遊びに行くたびに、何度か相手をしてもらっているのだろう。



 「それじゃあ、別の奴らにも紹介してくるからまた後でな」



 そういうと二人は別の集団の元へ向かった。



 「すんごい美人」



 中根が肉を食べながらそう言った。食べるか喋るか、どっちかにしなさいよ。



 「そうだな」



 「あんた、あぁ言うのが好きなわけ?」



 すぐに俺の趣味を探ろうとするな、こいつは。



 「まあ、男で嫌いな奴はいないと思うけどな」



 無意識に夢子と中根の顔を見る。彼女たちは年齢相応というか、当たり前の話だがまだ幼さの残る顔立ちだ。きっと美少女という表現が合っている。しかし、対照的に那子さんは完成された美しさがある。美女というべきだろう。憧れる容姿と性格をしているのは誰の眼にも明らかだし、トラが叶わないと言い出すのも少し納得できる。



 「ふぅん。そうなんだ」



 夢子が呟いた。彼女の自虐めいた言い方は、正直少しかわいいと思う。中根もそれを感じ取ったのか、夢子の頭を撫でていた。夢子の方が背が高いのだが、不思議とその光景は自然なものだった。



 そんな様子を見ていると、何やら向こうの方が騒がしいことになっていることに気が付いた。



 俺たちは雁首揃えて野次馬になりに行った。だがそこには、予想外に知った顔があった。



 「……お兄ちゃん。あの人」



 「あぁ、間違いない」



 あの金髪は、俺の顔面を殴りつけた彼だ。



 「お前、どの面下げてここ来てんだよ!」



 トラが吠えている。



 「なんだよてめぇ、俺は誘われたからわざわざ来てやったんだぞ!つーか意味わかんねっつーの!」



 向こうも負けじと声を荒げる。そりゃそうだろう。俺とトラの関係を彼が知っている訳がないから、本人からすればいきなり怒鳴られて意味が分からないのは当然だ。



 互いに胸倉を掴むようなことはしない。手はぶらつかせて、いつでも戦えるようなスタンスを取っている。トラが喧嘩慣れしているのはもちろんの事、さすがいきなり顔面に拳を叩き込めるだけあって、金髪の彼も相当争いに慣れているようだった。



 「文也、あんたの出番よ」



 簡単に言ってくれる。だが。



 「あぁ、任せろ」



 トラを止められるのは、俺しかいないからな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

処理中です...