悪あがきには程遠い

秋野夕陽に照山紅葉

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6 俺の話

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彼女はとても華やかで、彼女を囲む友人達も活動的でいろいろな遊びを知っていて、毎日がとても充実しているように感じた。
彼らは驚くほど気まぐれで身勝手で、自信に満ち溢れていた。
根拠はないけれど断言する言葉には不思議な説得力があり、俺は彼らの仲間になるために必死だった。

両親からは毎日のように「ふらふら遊び歩いてないでしっかりしろ」と苦言を呈されたが、ふらふら遊び歩くのは未だ責任を持たない若者故の特権ではないかと反発した。

俺はまだ、「生涯の伴侶」に人生を縛り付けられたくなかった。








婚約が解消され、彼とは会う機会はなくなったが……俺は「生涯の伴侶」の結び付きは一生ものであるし、もっと大人になったら改めて関係を再構築できるものだと思っていた。
彼のことを嫌いになった訳ではない。
例えば、婚姻とは無関係に彼と知り合っていたのなら、俺は彼を一生大切にできたと思うのだ。
「魂を最も高めあえる関係」が、婚姻と直結する必要性が受け入れられないだけなのだから。


慣習を重んじる両親からは勘当されかけたが、結局一人息子である俺の代わりに養子にする親戚の目処が立たなかったのか、一年も経たずに家に戻された。
自宅に戻ってからは軟禁状態になり、跡継ぎとしての教育を一からし直すとして、外部との関係が絶たれた。驚いたことに、毎日のように遊んでいた件の令嬢やそのご友人からはいっぺんたりとも見舞いや状況伺いが来ることはなく、俺はあっさりと彼らから見切りをつけられたのだった。
所詮は若い頃だけの軽薄な付き合いであることは自覚していたので、虚しさはあっても悲しみや怒りはなかった。



20歳になると同時に、実務上で家督を継いだ。
人の上に立つという責任や、自身を律することが己の身を守ることに繋がると、深く実感した。
人間関係にはもれなく利害関係が発生することも、他人を信用するためにはそれなりの根拠が必要になることも知った。

だからこそ、貴族社会では「生涯の伴侶」という存在が唯一の気の置けない相手であり、癒しになるのだと気付いた。

あの静かで穏やかな笑顔を思い描く機会が増え、同時に、彼を傷付けたまま謝罪すらしていない己を恥じた。
正式な謝罪をしたいと彼の家へ申し入れたが、断られた。
曰く、「息子は半年前から行方が知れず、生死不明である」と。
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