ひとりだけ転生したのが私です

秋野夕陽に照山紅葉

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世界平和の後に

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『突然呼び出しちゃってすまんかったね』

「……は、え?」

『あっちとこっちが繋がったから、ちょうどいいやと思ってさ』

「……はい」

 敵では、ないようだ。

『すっかり無口な大人になっちゃったね。キミにも悪いことしちゃったから、ちゃんとフォローしなきゃと思ってたんだけどさ。なかなかあっちとこっちが繋がる瞬間がなくてね』

「……」

『まずは、魔王討伐おめでとう。というか、ありがとう。お陰であと500年は維持できそうだ』

「……」

『キミに説明したかったのはね、あの日の……根津眞砂まさごちゃんの件』

「っ!」

 その名前が出た瞬間、俺は反射的に光の玉をわし掴みにしようとした。するりと距離を開けられ、逃げられてしまったが。
 心臓がバクバクし始める。

『あの日、彼女は死んだ。ごめんね、これは完全にミス』

 呼吸が乱れる。

『彼女はこっちで生まれ変わってるんだよ』

「……え」

『どうしても生き返らせるのができなかったから、彼女にお詫びとしてこっちで生まれ直してもらったんだよ』

「……眞砂が、こっちの世界で生きてる?」

『うん。キミたちの転移と同時に生まれたから、今6歳かな』

「6歳……」
 俺は、6歳の眞砂を知っている。
 生まれてからの付き合いだから、俺たちは友達というより双子の兄妹のようだった。
 俺が引っ越すと決まって、眞砂にだけどうしても伝えられなくて、結局ギリギリになってしまって、ケンカ別れみたいになってしまった。
 物理的に離れてみれば、彼女は兄妹ではなく「同い歳の、とても仲の良い女の子」だった。そして、女子との距離感に迷走する程度には、俺自身が性を意識する年齢になっていた。
 ただただ気恥ずかしくて、今さら連絡もできなかった。そのくせ矛盾したことに、俺の中で彼女は「人生で一番仲良しの、大事な女の子」のポジションにあり続けた。
 

「眞砂」

『彼女に確認とってないから居場所までは教えられないけども。キミ、完全に彼女のことがトラウマになってるし、お詫びってことでね』

「眞砂……」

 
 光の玉は俺の周りをくるりと一周し、消えた。

 人の気配と音が戻ってくる。
 どうやら、帰還組は無事に帰ったようだった。別れを惜しんで泣いてる居残り組を見回して、俺は久しぶりに自分の心が動くのを感じていた。









…………………………………………………………



 俺は、王様にしばらく放浪することを告げて王都を出た。
 すっかり慣れた馬を駆って、もう一度この世界を端から端まで巡る。魔王を討伐するためにあちこち立ち寄った時、俺は何にも興味を持たなかった。特産品にも、街人の生活様式にも興味がなかった。

 でも、ここは眞砂の生きる世界だ。
 眞砂が生まれ、赤ん坊からもう一度生き直している世界。
 活気のある街を見ているうちに、「死」と直結してしまっていた眞砂の記憶が、懐かしい、彼女と生きた11年間の思い出に戻っていく。

 王都から魔王のいた場所へ向かうのはほぼ北へ進む道だったが、何年もかけて、王都の西に広がる砂漠地帯にも、南に広がる王都の次に大きな港町にも立ち寄った。
 ひとつの街に入るたびゆっくりと腰を据え、姿の変わった幼馴染みの気配を探した。


 大きな商船が停泊する桟橋を眺めている時、ふと風向きが変わって、懐かしい香りが鼻を擽った。
 強烈な、甘い匂い。

 誘われるように、匂いの元へ足を向ける。
 それは、海岸線にいくつも出ている屋台のひとつから漂っていた。同じように匂いに釣られた人々が集る屋台を覗くと、そこに並べられていたのは。

「……キャラメル、ポップコーン」
「おや、兄さんポップコーン知ってるのかい!」
「えぇ」

 この世界にもポップコーンがあるのか、と思っていると、店主は「あの東の辺境伯のお嬢様は、本当に面白いことをいろいろと考えるよね」と笑った。

「東の辺境伯」
「まだお小さいのにさ、よくこんな特殊な食べ方を思い付くもんだよ」




 俺の心臓が、どくりと鳴った。
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