5 / 5
転生者と転移者のこれから
しおりを挟む新しく作ったお惣菜パンの専門店は大成功だった。
パンは主食って世界だから、サンドイッチみたいにバラけないので持ち運びやすく、それ単体でおかず要らずなパンはみんなに喜ばれた。
商業ギルドが、東の辺境発祥の食文化として領の外まで持ち出しているらしいが……王都の移転組にまで届いたら、転生者がいるってバレるかもしれない。
別に隠してるつもりもないので構わないけど。
「お嬢様!た、大変ですぅ」
「どうしたの?」
バタバタと部屋に駆け込んできたメイドが外を指差す。
「王都の、ゆ、勇者様がいらしてるんですよぅ」
「あら」
「王家印の移動許可証お持ちですから、ほ、本物ですよ!」
勇者たちはどこの領地にも自由に立ち入りできる許可証を携帯しているという。
思ったより早い接触だ。
「お嬢様と、お会いしたいと」
「そう。お父様は?」
「まだお帰りになってません!」
「私がお出迎えするわ」
…………………………………………………………
「………………ようこそ、エルクレア領へ。わたくし、エルクレア辺境伯三女、マーサ・エルクレアと申します」
応接室に入ったとたんに立ち上がった姿を見て、一瞬息を飲んでしまった。それでも、どうにか貴族の定型挨拶文を言い終える。
使い古されたシンプルな革鎧を身に纏っているが、黒髪黒目……久しぶりに見た、完全な日本人の青年。
(というか)
身体は大きくて、ざんばら髪だし無精髭も生えてるし、日に焼けた顔には大きな傷跡もあるけれど。
(りっくんキターーーーーー!!!!)
間違いなく、育ちに育ちまくった姿の、私の幼馴染みだった。
「…………眞砂…………」
「へ?」
「眞砂!!」
「うぐっ」
ふらふらと近付いて来たと思ったら、突然抱き締められた。
こっちの世界にハグの文化はない。勇者の突然の暴挙に慌てる護衛や、使用人たちにはどうにか手を振って落ち着いてもらい、私は締め付けられて詰まった息を整えた。
「りっくん落ち着いて。鎧が痛いって。ドレスの袖が鎧の溝みたいのに挟まって動けない」
「眞砂」
「うん、眞砂だよ。すごいね、よく私だってわかったね」
ぎゅうぎゅう締め上げてくる腕をタップし、弛めてもらう。
やっと隙間ができたので、私はまじまじとりっくんを見上げた。
私の頭みっつ分くらい大きい身長は、彼の両親にはないものだ。きっと肉食文化なこの世界で鍛えた結果なのだろう。
頬の傷跡は古く、引き吊ったりする後遺症はなさそうに見えるが、相当痛かったに違いない。
髪はパサパサに傷んでいて、雑に切ったままほったらかしにしているようだ。旅の多い生活だとそういうものなのか、それともりっくんが大雑把なだけなのかはわかりかねる。
ちなみに、今世の私は赤っぽい茶髪に緑色の目。髪と目の色の組み合わせだけで誰のことなのかわかるくらい、この世界の色は多種多様だ。
顔立ちは美少女というほどではないが、そこそこ上品にバランスが整ってて、丸顔童顔だった前世の面影はない。共通点は小柄なことくらいだ。
「光の玉に、眞砂が生まれ直してるって聞いた」
「あの玉に会ったんだ」
「居場所は教えてくれなかったけど、旅先で、東の辺境伯の娘がポテチとかポップコーン作ったって聞いて。さっき町で買った酢豚コロッケマカロニパン、昔眞砂が夏休みの自由研究で開発したヤツだったね」
「あ、食べてくれた?やっぱりあれは名作なんだよ!」
「顔は違うけど……歩き方も、立ち姿も、眞砂のまんまだ」
「あっれー?お嬢様としての振る舞い、頑張って身につけたのになー」
「眞砂」
「りっくんはすっかり大人になっちゃったね。魔王退治からは結構経ってる?大変だったんでしょ?」
「魔王なんかより、眞砂が……おれ……眞砂が死んじゃったかと思ってて……ぅぇ……」
14の私から見れば、お兄さんからおじさんに片足突っ込み始めた年代の男性が、涙声ですがり付いてくるという、貰い泣きより苦笑いが先に浮かんでしまうシチュエーション。
「私もいきなり死んじゃってびっくりしたけど、すぐに生まれ変わったよ。私は姿かたちも変わっちゃったし、また赤ん坊からだったし、王都まで遠いしで、今まで連絡できなくてごめんね」
「眞砂」
「今はマーサっていうんだよ。ふふ、超おしいでしょ?」
「マーサ」
「うん。りっくん、こっちに転移してからのこと教えてよ。クラスメートの人とかさ、私は挨拶もできなかったから」
巻き付いたまま離れない拘束からどうにか身体を引き剥がし、私はりっくんの手を引いてソファに誘導した。
アイコンタクトでメイドにお茶とお菓子を用意させる。
スンスンと鼻を鳴らしながら、りっくんは大人しく座ってくれた。ガチムチな大人になってるのに、泣き顔は全然変わってない。
私が笑いかけると、りっくんは半泣きのままフニャリと笑った。
勇者様の突然の暴挙を聞いて慌てて帰ってきたこっちの世界の父と母が、私と寸分も離れていられない病を発症した勇者様から「俺、マーサと結婚する」と爆弾発言を受けるのは1時間後のことだ。
(どういう事だって聞かれても……いや、一番びっくりしてるの私だから……)
「王女様と結婚したのってりっくんじゃなかったんだね」と言ったら、「俺の一番仲良い女の子は、昔からずっと眞砂だけだ」と真顔で返された。
せっかくチート能力持ちで異世界転移したのに全然異世界を楽しんでないっぽいのは、やはりアレのせいだよな……と思うと、責任をとらなくてはならないだろう。私も被害者だけど。
「この世界生まれな現地人の私が、これからのりっくんの異世界生活を、目一杯楽しいものにしてあげようじゃないの!」
笑顔で胸を叩いて見せる。
傷だらけの勇者りっくんは、それはそれは晴れやかに笑ってくれた。
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして
犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。
王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。
失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり…
この薔薇を育てた人は!?
悪役令息の婚約者になりまして
どくりんご
恋愛
婚約者に出逢って一秒。
前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。
その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。
彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。
この思い、どうすれば良いの?
年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました
チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。
そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。
そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。
彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。
ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。
それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)
妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付
唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
あれ?、マーサの年齢は「もらい事故でした」で、14さいとでてますが「世界平和」の章では、6さいとなってますがどっちですか?
コメントありがとうございます。
マーサ主観の章と、りっくん主観の章で、それぞれ転生(転移)から順に時間を追ってます。
最終話のマーサ14歳と、りっくん28歳時点で二人が交わるので、魔王を倒したりっくん20歳の頃、マーサはまだ6歳となってます。