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第17話 できること
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城が忙しさを帯び始めたのは、防衛体制に入ってからだった。
通路を行き交う足音が増え、書類を抱えた者たちが足早に動く。以前よりも、声が低く、短くなっているのが分かる。緊張というほどではないが、余裕が削られている空気だった。
ミレイアは、部屋の中からその気配を聞いていた。
扉の外で交わされる会話。階下から上がってくる物音。
誰も、彼女に何かを求めてはいない。それでも、じっとしていることが、少しだけ落ち着かなかった。
「……私も、何か」
言葉にしてから、思わず口を閉じる。
出しゃばりではないか。役に立たないのではないか。
神殿で染みついた感覚が、すぐに浮かぶ。
それでも、その日の夕方、ミレイアはアシュレイに告げた。
「……手伝えることが、あれば」
声は控えめだった。お願いというより、確認に近い。
アシュレイは書類から目を上げ、少しだけ考える素振りを見せた。
「城全体の業務には、関わらせられない」
否定ではない。事実の確認だ。
「だが」
一拍置いて、続ける。
「私の目が届く範囲で、力が及ぶことなら構わない」
条件は、明確だった。
「無理だと感じたら、やめる」
それも、付け加えられる。
ミレイアは、小さく頷いた。
「……はい」
その返事だけで、十分だった。
最初に任されたのは、簡単なことだった。
伝言の受け渡し。軽い物品の整理。人手が足りない場所への案内。
リリスの配下たちは、最初こそ戸惑った様子だったが、すぐに受け入れた。命令ではなく、申し出であることが伝わっていたからだ。
ある時、書類を運んでいたミレイアに、女性が声をかけてきた。
「お疲れさまです」
柔らかな声だった。いつも朝の世話をしてくれる人だ。
「……あの」
少し、言いにくそうに続ける。
「愛されていますね」
その言葉に、ミレイアは足を止めた。
「……え?」
意味が、すぐに理解できない。
女性は、慌てて言い直す。
「あ、いえ……言い方が」
一瞬、困ったように笑ってから、言葉を選び直す。
「陛下が仰っていました」
ミレイアは、思わず背筋を伸ばす。
「ミレイア様のお手伝いについて、陛下ご自身の力が及ぶ範囲で、何かあったときにすぐ助けに行ける場所なら良い、と」
淡々とした説明だった。感情を盛らない、事実の言い換え。
ミレイアは、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
愛されている、という言葉には、まだ戸惑いがある。
だが、守れる距離を示されている、という感覚は、初めてだった。
「……ありがとうございます」
自然と、そう口にしていた。
女性は微笑み、軽く会釈をして去っていく。
ミレイアは、しばらくその場に立ち尽くした。
役割だからではない。
価値があるからでもない。
ただ、無事でいられる範囲に置かれている。
その事実が、胸の奥に静かに残る。
ミレイアは、もう一度荷物を持ち直し、歩き出した。
城の中で、自分にできることを、できる分だけ。
それは、聖女の役割とは、まったく違う形だった。
通路を行き交う足音が増え、書類を抱えた者たちが足早に動く。以前よりも、声が低く、短くなっているのが分かる。緊張というほどではないが、余裕が削られている空気だった。
ミレイアは、部屋の中からその気配を聞いていた。
扉の外で交わされる会話。階下から上がってくる物音。
誰も、彼女に何かを求めてはいない。それでも、じっとしていることが、少しだけ落ち着かなかった。
「……私も、何か」
言葉にしてから、思わず口を閉じる。
出しゃばりではないか。役に立たないのではないか。
神殿で染みついた感覚が、すぐに浮かぶ。
それでも、その日の夕方、ミレイアはアシュレイに告げた。
「……手伝えることが、あれば」
声は控えめだった。お願いというより、確認に近い。
アシュレイは書類から目を上げ、少しだけ考える素振りを見せた。
「城全体の業務には、関わらせられない」
否定ではない。事実の確認だ。
「だが」
一拍置いて、続ける。
「私の目が届く範囲で、力が及ぶことなら構わない」
条件は、明確だった。
「無理だと感じたら、やめる」
それも、付け加えられる。
ミレイアは、小さく頷いた。
「……はい」
その返事だけで、十分だった。
最初に任されたのは、簡単なことだった。
伝言の受け渡し。軽い物品の整理。人手が足りない場所への案内。
リリスの配下たちは、最初こそ戸惑った様子だったが、すぐに受け入れた。命令ではなく、申し出であることが伝わっていたからだ。
ある時、書類を運んでいたミレイアに、女性が声をかけてきた。
「お疲れさまです」
柔らかな声だった。いつも朝の世話をしてくれる人だ。
「……あの」
少し、言いにくそうに続ける。
「愛されていますね」
その言葉に、ミレイアは足を止めた。
「……え?」
意味が、すぐに理解できない。
女性は、慌てて言い直す。
「あ、いえ……言い方が」
一瞬、困ったように笑ってから、言葉を選び直す。
「陛下が仰っていました」
ミレイアは、思わず背筋を伸ばす。
「ミレイア様のお手伝いについて、陛下ご自身の力が及ぶ範囲で、何かあったときにすぐ助けに行ける場所なら良い、と」
淡々とした説明だった。感情を盛らない、事実の言い換え。
ミレイアは、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
愛されている、という言葉には、まだ戸惑いがある。
だが、守れる距離を示されている、という感覚は、初めてだった。
「……ありがとうございます」
自然と、そう口にしていた。
女性は微笑み、軽く会釈をして去っていく。
ミレイアは、しばらくその場に立ち尽くした。
役割だからではない。
価値があるからでもない。
ただ、無事でいられる範囲に置かれている。
その事実が、胸の奥に静かに残る。
ミレイアは、もう一度荷物を持ち直し、歩き出した。
城の中で、自分にできることを、できる分だけ。
それは、聖女の役割とは、まったく違う形だった。
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