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第24話 失われた力
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朝、鐘の音が街全体に響き渡った。
低く、重なり合うような音だった。屋敷の窓を震わせ、王都の空気そのものを揺らす。ミレイアは、その音を聞きながら身支度を整えた。用意された服は白く、質は良いが装飾は控えめだ。聖女としての正装に近い。
「一緒に行きましょう」
聖女マリアが、そう声をかけてきた。
表情は穏やかで、迷いはない。
断る理由はなかった。
王都の中心に建つ聖堂は、圧倒的だった。
高く伸びる尖塔。幾重にも重なる石のアーチ。色硝子から差し込む光が床に模様を描いている。人々が祈りを捧げてきた歴史が、そのまま形になったような場所だった。
ミレイアは、足を踏み入れた瞬間、無意識に息を整えた。
ここは、知っている場所だ。
神殿国家のそれとは違うが、同じ空気がある。
祭壇の前に立つ。
背後の広さが、否応なく意識に入る。
多くの視線と祈りを受け止めてきた空間。
ミレイアは、手を組んだ。
久しぶりだった。
聖女として祈る、という行為そのものが。
呼吸を整え、目を閉じる。
祈りの言葉は、自然と口をついて出た。
神殿で、何度も繰り返したものだ。
だが――
何も、起きない。
光も、熱も、身体の奥を満たす感覚もない。
静寂だけが、そこにあった。
もう一度、息を吸い、祈る。
意識を深く沈める。
それでも、変化はなかった。
胸の奥が、ひどく空白になる。
ミレイアは、ふと思い出す。
最後に力を感じたのは、いつだったか。
それは、ずっと昔だった。
魔王軍が進軍してくるよりも前。
神殿が、まだ今ほど苛烈ではなかった頃。
祈りが義務になる前。
応えなければ罰がある、という空気がなかった頃。
その後、力は「使え」と言われるようになり、
いつの間にか、感じなくなっていた。
ミレイアは、ゆっくりと目を開けた。
「……ごめんなさい」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
聖女マリアが、すぐ隣に立っていた。
表情を見て、察したのだろう。
「……いいのよ」
声が、震えている。
「大丈夫」
そう言って、ミレイアを抱き締めた。
強くはないが、逃がさない腕だった。
「できなくても、いいの」
涙が、頬を伝っている。
「あなたは、もう……十分なの」
ミレイアは、腕の中で動けなかった。
慰めの言葉を、受け取る準備ができていない。
神殿では、力が出なければ責められた。
理由など、聞かれなかった。
だが、ここでは違う。
許されている。
泣かれている。
それが、胸に重くのしかかる。
ミレイアは、声を出さなかった。
ただ、指先が僅かに震える。
祈りは、戻らなかった。
力も、戻らなかった。
それでも、抱き締める腕は、離れない。
荘厳な聖堂の中で、
二人はしばらく、そのまま立っていた。
高い天井から差す光が、
静かに床を照らしていた。
低く、重なり合うような音だった。屋敷の窓を震わせ、王都の空気そのものを揺らす。ミレイアは、その音を聞きながら身支度を整えた。用意された服は白く、質は良いが装飾は控えめだ。聖女としての正装に近い。
「一緒に行きましょう」
聖女マリアが、そう声をかけてきた。
表情は穏やかで、迷いはない。
断る理由はなかった。
王都の中心に建つ聖堂は、圧倒的だった。
高く伸びる尖塔。幾重にも重なる石のアーチ。色硝子から差し込む光が床に模様を描いている。人々が祈りを捧げてきた歴史が、そのまま形になったような場所だった。
ミレイアは、足を踏み入れた瞬間、無意識に息を整えた。
ここは、知っている場所だ。
神殿国家のそれとは違うが、同じ空気がある。
祭壇の前に立つ。
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多くの視線と祈りを受け止めてきた空間。
ミレイアは、手を組んだ。
久しぶりだった。
聖女として祈る、という行為そのものが。
呼吸を整え、目を閉じる。
祈りの言葉は、自然と口をついて出た。
神殿で、何度も繰り返したものだ。
だが――
何も、起きない。
光も、熱も、身体の奥を満たす感覚もない。
静寂だけが、そこにあった。
もう一度、息を吸い、祈る。
意識を深く沈める。
それでも、変化はなかった。
胸の奥が、ひどく空白になる。
ミレイアは、ふと思い出す。
最後に力を感じたのは、いつだったか。
それは、ずっと昔だった。
魔王軍が進軍してくるよりも前。
神殿が、まだ今ほど苛烈ではなかった頃。
祈りが義務になる前。
応えなければ罰がある、という空気がなかった頃。
その後、力は「使え」と言われるようになり、
いつの間にか、感じなくなっていた。
ミレイアは、ゆっくりと目を開けた。
「……ごめんなさい」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
聖女マリアが、すぐ隣に立っていた。
表情を見て、察したのだろう。
「……いいのよ」
声が、震えている。
「大丈夫」
そう言って、ミレイアを抱き締めた。
強くはないが、逃がさない腕だった。
「できなくても、いいの」
涙が、頬を伝っている。
「あなたは、もう……十分なの」
ミレイアは、腕の中で動けなかった。
慰めの言葉を、受け取る準備ができていない。
神殿では、力が出なければ責められた。
理由など、聞かれなかった。
だが、ここでは違う。
許されている。
泣かれている。
それが、胸に重くのしかかる。
ミレイアは、声を出さなかった。
ただ、指先が僅かに震える。
祈りは、戻らなかった。
力も、戻らなかった。
それでも、抱き締める腕は、離れない。
荘厳な聖堂の中で、
二人はしばらく、そのまま立っていた。
高い天井から差す光が、
静かに床を照らしていた。
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