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大厄と成りし兵編
九話
しおりを挟む狐のいた向こう側、そこから目が覚め洋助は身を起こす。
すると、見慣れぬ場所が視界に広がり、朧に切り伏せられた神社とは違う場所にいた。
「――ここは…」
辺りを見回すと、どこかの施設だと伺えるが外の様子は分からない。
上半身に巻かれた包帯をなぞり、朧に切られた傷を見ると呪詛が蠢き、身体を蝕んでいた。
「――よう、すけ…ようすけっ…洋助ッ!?」
そこに一人の巫女が、片腕に包帯を巻き、腕を固定して現れる。
「あ、かり…さん」
「洋助ッ!?目が覚めたのッ!?気分はッ?身体は?」
「灯さん…俺は大丈夫です、灯さんこそ――」
「大丈夫な訳無いじゃないッ!!!!」
灯は、激高する。
いつも人の事を気にして、自分をないがしろにする洋助に、灯は涙を流して否定する。
「あんた…真っ二つに斬られて…帰って来たと思ったら身体に呪いみたいなもの刻まれて…それでも…それでも大丈夫なんて言える訳ないじゃないッ!!もっと自分をッ…自分を大事にしてよッ!!」
悲痛な訴えは洋助に打ち付けられ、彼は己の未熟を反省する。
雪の死に我を忘れ、復讐に再度囚われては自身の命を投げ捨てた事を恥じ、目の前の灯に謝罪する。
「すみません…灯さん」
「そうだっ…反省しろバカっ…」
涙ぐみながら洋助の頭を力なく叩き、いつもの灯を演じる彼女。
そのせめてもの強がりに感謝しつつ、洋助は訊く。
「ところで…ここはどこです、俺が意識を失ってからどのぐらい経ちました?」
「――そ、それが…落ち着いて聞いてね」
シャツの裾で涙を拭う灯は、一呼吸置いて話す。
「――洋助が斬られてからもう一か月が過ぎた、そして貴方は行方不明となり捜索が続けられていた…」
「一か月ッ!?」
むこう側でのやり取りはそう長い物では無かった。
が、現実と向こう側では時間の経過に差異があり、洋助が過ごした一瞬は現実で一か月となっていた。
「……その間色々あったわ、朧様…いや、朧の行動は隠蔽され大厄の被害として雪ちゃん、そして洋助は行方不明として処理された…」
「そう、ですか…」
「私も重傷を負って目が覚めたけど、その場の真実を知るのは私しかいなかった、それが、私には、…耐えられなかったっ…」
灯は唇を噛み締めて言う。
その表情は苦悩し、暗く俯く。
「私はね…洋助、本部の考え、そして朧の行動に疑念を抱いて抜け出したの…」
「――え?」
「私達がいるこの施設、ここはね――」
その瞬間、部屋に二人の巫女が入り込む。
「久しぶりだな洋助」
「目が覚めたのですね、赤原さん」
そこには、神威の巫女の天草姉妹がいた。
「菘っ、芹さんっ…どうしてここにっ!?」
「おいおい、どうしてなんて野暮な質問だな、ここは篝火の隠れ拠点だぜ?」
「っえ…」
「数日前…突如貴方は篝火が秘匿する社に現れました…それも身体に呪詛を負って」
天草姉妹は淡々と話す。
戸惑う洋助を他所に、灯が続ける。
「あたしは…本部を裏切って天草姉妹を頼りに篝火に匿って貰ってる、そして行方不明の洋助が突然現れた、これが一か月で起きた大まかな出来事だよ」
「――灯さん…」
「篝火の目的は知らない、ただ、朧のやり方は間違っている、雪ちゃんや洋助の命を狙うなんておかしいよ…」
その怪我をした腕で、灯は壁を叩く。
「――それにだ、洋助?あんたは朧を斬ろうとしてるはずだ?」
「どうして、それを…」
「赤城様は仰っていました…、必ず貴方は朧を斬ろうと現れる、その時、私達篝火は貴方を支えるべく組織されました、これは赤城様が仰った言葉です」
「赤城が…?いったい…何故…」
「その理由はわかりません、ですが、この事態を予想し、今まで行動してきた赤城様に嘘偽りはありません、必ず巫女を取り巻く環境を変え、そして新しい未来を作らなければなりません」
芹は力強く言うと、瞳に神力の青色を宿す。
その覚悟は本物で、洋助の手助けを厭わない。
「篝火は…これから何をする?」
「そんなん決まってるッ!本部に乗っ込んで朧を斬るッ!!」
「本部との最終決戦を臨んでおります、現に灯さんの離反を機に寝返っている巫女はいます、それに…私達には洋助さん、貴方がいます」
最終決戦、その言葉を聞き洋助は反論する。
「俺は朧と決着を着ける、だが、そこに関係のない巫女を犠牲にはしたくない」
「――洋助…」
未だ皆を守る、その想いは消えない。
天草姉妹は洋助の甘さに困り果てる、その時であった――。
ドガァンッ!!!
突如、施設内で大きな爆発音がする。
衝撃が響くと、神力を纏った夜叉巫女の侵入を許す。
「夜叉巫女ッ!?こんな早くに洋助さんの目覚めを感知したッ!?」
芹が焦り、薙刀を構えると洋助はゆっくりと立ち上がる。
「皆さんは先に逃げてください、ここは俺が時間を稼ぎます」
大厄となりし最強の兵は、再び皆を守るため雪の得物、日緋色金を手に取った――。
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