艱難辛苦の戦巫女~全てを撃滅せし無双の少年は、今大厄を討つ~

作間 直矢 

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大厄と成りし兵編

十話

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 夜叉巫女の足音が響く。
 その音に急かされる洋助達は、判断を迫られる。

 「俺が夜叉巫女を食い止めます、皆さんは先に離脱してください」
 「ちょ、ちょっと洋助っ!?それはっ…」
 「――大丈夫です灯さん、俺なら突破できます」

 日緋色金を腰に携え、洋助は夜叉が来る出入り口を見据える。

 「芹さん、菘、……あなた方は篝火の残党勢力をまとめて、灯さんと動きがあるまで待機していてください」
 「一体…何を…」
 「この襲撃を撒いた後、俺は対策本部へ向かいます」
 「てめぇっ!!一人で突っ込むつもりか!?」
 「俺に何かあれば篝火には解体してもらいます、それまでは巻き込めない」

 天草姉妹はその覚悟に驚きつつも、切迫した状況も相まって納得する。
 しかし、灯は納得できずに食い下がる。

 「洋助、私は貴方と一緒に行動する、二度とあんな悲劇は繰り返さない」
 「……ですが、―――わかりました」

 すると、部屋の扉に斬撃音が轟く。
 同時に、夜叉巫女が鋼鉄製のそれを斬り開くと洋助達に立ち塞がる。

 ――怒りの面頬で顔を隠し、見知った巫女が刀を構えて神力を纏う。

 「洋助さん、私たちは貴方を信じ、その言葉に従います」
 「姉ちゃんっ!?」
 「菘、先に離脱して組織の体制を整えましょう」
 「―――っち…」

 芹は冷静に状況判断し、その場から離れる。
 菘は渋々納得すると、獲物である大鉄扇を拡げる。

 瞬間、壁を破壊して切り刻み、粉塵を巻き上げながら姉妹は離脱する。

 「っく…待てっ!」
 「――少し、話をしませんか」

 風圧で仰け反る夜叉巫女は、離れる天草姉妹を追いかけようとする。
 が、それを阻止して洋助は前に出て道を塞ぐ。

 「洋助っ!?」

 その行動に灯はたじろぐ。
 彼は迎え撃つどころか刀すら構えず、手を軽く振っては笑顔で対する。

 「――お前はっ…今や大厄となって人に仇名す存在だ、艱難辛苦として討ち取るっ…」
 「そう、ですか…確かに俺は大厄となり果てて今この世界にいます、それは事実です」

 夜叉巫女は二人を取り囲んで警戒する。
 その殺気に灯は気圧されながらも抜刀し、負傷した腕で構えをとる。
 しかし、その刃を洋助は優しく手で下げる、戦闘の意思は無いと示す様に。

 「ですが…俺は戦いたくありません、かつての戦友を斬るなんて出来ません」
 「…お前の討伐は朧様から直々に命令が下っている、大厄として切り伏せる様に、…と、なのに、なのになんでっ…!」

 先陣を切る夜叉巫女は、迷いを含む切っ先を向ける。
 洋助はそれを素手で受け止め、刀身を握った手から蒼い炎が滲みだす。

 「なんでっ…!?貴方は…大厄になっても変わらないんですかっ!!」
 「――変わりましたよ、ほら、流れる血もこんな物に変わってしまいました」
 「…どんなに見た目が変わっても、心の在り方は変わっていません…貴方は、本当にあの洋助さんなんですね…」

 向けた刀に込めた力は、徐々に弱まり離れていく。
 その夜叉巫女の姿と洋助の真意を見た巫女達も、戦意は削がれて構えが解かれていく。

 「この一か月間、すみませんでした…あなた方夜叉巫女の皆さんにも迷惑を掛けました、本当にすみません…」
 「一体何があったんですか…私達は事情も知らずに大厄だからとただ斬れと、…そう言われて任務に当たりました、けど、貴方は人間です、何も変わらない人なんです、斬ることなんてできません…」

 今の夜叉巫女を率いる彼女は、その面頬を取り外して涙を浮かべる。
 灯の離脱後、修羅である夜叉巫女部隊を率いてきた彼女だが、その心の在り方が揺らぎ、閉ざしていた感情が溶けて涙が溢れる。

 「――みんな、聞いてくれ、俺は朧を斬る」

 少女のすすり泣きが響く中、洋助は声を張る。

 「それは、決して許される事ではないし、間違った事かもしれない、それでも俺はその道を突き進むつもりだ」

 神力の蒼き光が瞳に宿り、大厄の蒼き炎がその手を包む。
 その姿に巫女達は息を呑み、洋助こそが正しいのでは、そう思った瞬間である。

 ガゴンッ……!!

 天井が瓦解し、壁が崩れ始める。

 「――なんだッ!?」
 「施設が…倒壊するっ…」
 「洋助さんっ…灯さん…すみませんっ…早く逃げてくださいっ…突撃の際に地下の支柱を爆破しました…間もなく施設は崩れます!」

 夜叉巫女が叫ぶと他の部隊員は駆けだして退避する。
 それに続く二人も後を追って走る。

 「っぐ…」

 地響きが鳴り、崩れ落ちていく瓦礫や破片が二人を襲う。
 それを風の速さで避けていく二人は、先行して地上に出る夜叉と合流しようとするその時であった。

 「―――ッ!?危ない洋助ッ!!」
 「―――え?」

 駆け上る階段に、大きな壁が崩れ落ちる。
 洋助に向かって崩れるそれは、身体に影を覆ってすり潰されるかに見えた。

 ドンっ…。

 だが、いつかの艱難辛苦の戦いを再現して灯は洋助を突き飛ばす。

 「――灯さんッ!?」

 吹き飛ぶ洋助は、その勢いで地上に出る。
 残された灯は、伸ばした手だけが空を切り、そのまま暗い地下に蓋をするように瓦礫に飲まれる。

 「―――灯さんっ…灯さんッ!?灯さんッッッ!!!!!」

 急いで戻ろうとその瓦礫を素手で掘り起こす洋助。
 しかし、細々とした破片から地面にめり込んだ鉄屑、それらを除けるのには時間が足りなかった。

 「そんな…そんなッ…!?灯さんッ!!灯さんっ…あ、かりさん…」

 呼んでも返らない返事に、現実を突きつけられる。
 何かを成すために、何かを犠牲にしなければならない、そんな事実に打ちのめされ、洋助は何度も涙を流す。

 「うぅ…どうして…こんなッ…」

 もはや血の流れないその手は、蒼い炎だけが爛れて燃える。
 その手の平にある瓦礫を強く握り締めて、彼は悲しみを押し潰したのであった――。
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