愛と詐欺師と騙しあい

作間 直矢 

文字の大きさ
上 下
34 / 43
日常

14

しおりを挟む

 「メリークリスマス、兄ちゃん、奥さん」

 「あら?メリークリスマス田口さん、今日のサンタさんは田口さんだったんですね」

 「おいおい、何やってんだよおっさん、コスプレプレイの訪問営業かよ」

 「テメェ洋助、奥さんの前で何て言葉使いやがる、
  この日の為に衣装用意して、あいちゃんのプレゼント準備したんだろが」

 「……そうなのか?」


 赤と白のサンタ姿の情報屋。

 彼は元々の無精ひげを隠して白いおひげを付け加え、大きな袋を持っていた。


 「―――ようくん、そろそろ始めようか」


 大きな赤い靴下を手に持ち、織田が一つの用紙を取り出して部屋に戻る。

 彼は丁寧に折りたたまれたそれを開くと、洋助に手渡した。


 「どうやら、あいくんのサンタさんは君にしか出来ないみたいだ」

 「は?何言って―――」


 受け取ったそれに目を通し、彼は息詰まる。


 『洋助が、幸せでいられるように』


 そう一言、純粋な願いが綴られていた。


 「これを、あいが……?」

 「そうだよ、謙虚で君想いのいい子だよ、本当に」

 「泣かせるじゃねぇかよっ……!!こんなアホにこれだけの事を言ってくれるとは」

 「……おっさん、その姿で泣いてるとキツイぞ」


 男泣きをする情報屋を横目に、折り目に沿って用紙を畳んでそれを胸ポケットにしまう。

 大抵の物を乱雑に扱う洋助が見せた珍しい行動に、織田だけが気付いた。


 「奏、あいくんと楓は寝ているかい?」

 「はい、楓ちゃんのお部屋で一緒に寝てましたよ、
  ……枕もとに、プレゼントを置くんですか?」

 「そうだね……煙突か暖炉があれば良かったんだけど、
  そっと彼女達の横に置いておこうか」

 「ふーむ、それじゃちょっとありきたりだな、
  せっかくおっさんが気合入れてんだ、何か凝った事をしてぇな」

 「けど、どうすんだ兄ちゃん?」

 「―――そうだな、俺に考えがある」


 にやりと悪ガキが笑い、大きな袋を持ったサンタの肩を叩く。

 そして、夢を諦めた嘘つきのロマンチストが、一役優しい詐欺を演じるのであった。


 子供部屋の雰囲気が残る女の子の部屋。

 織田の娘、楓の部屋の前で息を殺す詐欺師、赤原洋助がそこにいた。

しおりを挟む

処理中です...