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日常
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しおりを挟む「メリークリスマス、兄ちゃん、奥さん」
「あら?メリークリスマス田口さん、今日のサンタさんは田口さんだったんですね」
「おいおい、何やってんだよおっさん、コスプレプレイの訪問営業かよ」
「テメェ洋助、奥さんの前で何て言葉使いやがる、
この日の為に衣装用意して、あいちゃんのプレゼント準備したんだろが」
「……そうなのか?」
赤と白のサンタ姿の情報屋。
彼は元々の無精ひげを隠して白いおひげを付け加え、大きな袋を持っていた。
「―――ようくん、そろそろ始めようか」
大きな赤い靴下を手に持ち、織田が一つの用紙を取り出して部屋に戻る。
彼は丁寧に折りたたまれたそれを開くと、洋助に手渡した。
「どうやら、あいくんのサンタさんは君にしか出来ないみたいだ」
「は?何言って―――」
受け取ったそれに目を通し、彼は息詰まる。
『洋助が、幸せでいられるように』
そう一言、純粋な願いが綴られていた。
「これを、あいが……?」
「そうだよ、謙虚で君想いのいい子だよ、本当に」
「泣かせるじゃねぇかよっ……!!こんなアホにこれだけの事を言ってくれるとは」
「……おっさん、その姿で泣いてるとキツイぞ」
男泣きをする情報屋を横目に、折り目に沿って用紙を畳んでそれを胸ポケットにしまう。
大抵の物を乱雑に扱う洋助が見せた珍しい行動に、織田だけが気付いた。
「奏、あいくんと楓は寝ているかい?」
「はい、楓ちゃんのお部屋で一緒に寝てましたよ、
……枕もとに、プレゼントを置くんですか?」
「そうだね……煙突か暖炉があれば良かったんだけど、
そっと彼女達の横に置いておこうか」
「ふーむ、それじゃちょっとありきたりだな、
せっかくおっさんが気合入れてんだ、何か凝った事をしてぇな」
「けど、どうすんだ兄ちゃん?」
「―――そうだな、俺に考えがある」
にやりと悪ガキが笑い、大きな袋を持ったサンタの肩を叩く。
そして、夢を諦めた嘘つきのロマンチストが、一役優しい詐欺を演じるのであった。
子供部屋の雰囲気が残る女の子の部屋。
織田の娘、楓の部屋の前で息を殺す詐欺師、赤原洋助がそこにいた。
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