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シルバ・アリウム、剣聖と成る
五話
しおりを挟む国王アリウムの突然の病死から二週間。
帝都はその死を深く嘆き、盛大な規模で王を弔った。
その際、シルバは別れを惜しむ時間すら与えられず、ジニア村への赴任準備と現状の政務引継ぎ作業に追われていた。
「……えっと、この書類はここで……この案件は済んでいて……ぇぇと、
って、ヤバ!?もう出発の時間じゃないっ!?」
ふと、時計を見上げると時刻は出立の時間五分前。
私は準備していた荷物を片手に、慌ただしく部屋を出る。
「なんでギリギリまで政務作業しなくちゃいけないのっ……!!
私がいなくなっても大丈夫かな……この城…」
なんて、自意識過剰かもしれない想いが過るがそれ以上考えるのをやめる。
今はそれより時間に間に合う様に走らなくては、これ以上騎士団たちの心象を悪くするのは得策ではないだろうし。
(帝都での暮らしも今日まで、ジニア村で結果を出していつか必ず戻ってこなきゃ)
城門で待っているであろう馬車に駆け足で向かうと、その途中に見知った顔が一人。
彼は私と目が合うと、にこやかな笑顔を向けて声を掛けた。
「これはシルバ王女、お急ぎでしょうか?」
「シュバルツ殿……ええ、今日がその…ジニア村への赴任の日ですから……」
「……そうでありましたね、これは引き止めて申し訳ない事をしました」
「いえ、問題ありません……それでは」
どのような意図で声を掛けたのかはわからない。
だが、婚約の破棄を言い放った彼にどんな言葉を語るべきか、私には分からない。
故に、軽い会釈のみしてその場を立ち去ろうとした。
「―――シルバ王女、私はシバ殿の御令嬢と婚約を結びました……
それだけ、伝えさせて頂きます……」
「……そうですか、お幸せになってくださいね」
「ありがとう、ございます……」
去り際に語られたそれは、複雑な感情を呼び起こす。
元々、義父であったアリウム国王が私の立場を考慮して結ばれた婚約。
シュバルツの家名を利用して、騎士団を認めさせようとしたこの政略結婚は歪であり、義父の死を機に破棄されたのはお互いにとって良かったはずだ。
「では、御達者で」
別れの言葉はシンプルに、だが親しみを込めて言った。
怒りも悲しみも無い、ただなるようにしかならず、私は現状を受け入れる。
そして束の間、早足で辿り着いた城門には移送の馬車が待機していた。
「お待たせ致しました、シバ殿」
「これは王女様、お待ちしておりましたぞ」
「出立の日であるのに遅れて申し訳ありません、すぐに荷物をまとめます」
「いやいや、そのような雑務は兵にお任せください」
せかせかと荷物を持ってくれる衛兵に感謝しつつ、雑務と言う名の政務作業もこれぐらい積極的に手伝って欲しかった、などと口が裂けても言えない。
秘した想いを胸に忍ばせ、準備を整え辺境の地へ向かう馬車に乗り込もうとする。
―――その間際、シバは語り掛ける。
「シルバ王女、改めてジニア村への赴任の件ありがとうございます、
貴方の御決断はこのアリウム国にとって、最良の結果となりましょう」
「いえ、国の為、そして亡き王の為とあらばこれぐらい当然です、
……それに、騎士団の総意である私の力不足に対する懸念も、
かの地にて必ず補って見せます、それまで、どうかお待ちください」
「―――そうですか、まこと、強い人でありますな、シルバ王女は」
そう言って深くお辞儀をすると、暗い笑顔でシバは私を見送る。
彼の野心は尚も絶えず、その心中は計り知れない。
だが、私は聞いてしまった。
振り向きざまに呟いたその一言を。
―――本当に、愚かだ、と。
様々な不安を抱え、私は帝都を出る。
ジニア村での道中、えも知れぬ感覚を覚えて旅路を歩んでいった―――。
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