天下無双の剣聖王姫 ~辺境の村に追放された王女は剣聖と成る~

作間 直矢 

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シルバ・アリウム、剣聖と成る

二十九話

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 「ヒース」


 しかし、優しげな響きで呟かれた彼の名が、死神に落ち着きを取り戻させる。


 「―――シュバルツ様、貴方のお願いは謹んでお受けします、
  街の……ひいては国にとって重要な行事です、協力できる事があれば全面的に
  お手伝いさせて頂きます」

 「ご協力、まことに感謝します」

 「シュバルツ様は、私を試したいのでしょう?
  表面的には王女の名を使った大会の余興を想定しているのでしょうが、
  ……もし、仮に、剣聖と言われた義父の姿を彷彿とさせる剣技があれば、
  貴方は私に助力を惜しまない―――違いますか?」

 「………お答え、しかねます」

 「ふふっ、その反応だけで上々です、……この短いやり取りで確信しました、
  貴方は合理的であるだけで、その本質はとても正しく素直です、
  常に王女としての務めを果たしていけば、自ずと仕えてくれます」


 呆気に取られるシュバルツは、その心を見透かされて視線をシルバから外す。

 帝都を離れて以来、彼女は人の心を読み取り、気遣い、そして成長してきた。
 
 彼にとって私が有益な人間であれば協力し続け、逆に失態を晒せば見放される事も、それら全てを汲み取った上で協力し、邁進する。


 「シュバルツ様、貴方に対して偽りのない信頼と期待、そして協力を約束します、
  これからは国のために尽力するアリウム騎士として、全力で責を全うしてください」

 「―――ッは」


 もはやその心中を悟られ、取り繕う必要の無いシュバルツは素直に応える。
 一連の取り決めをし、事なきを得たかと思われた今回の会合。

 しかし、一人だけ不服そうな顔をした死神が一石を投じる。


 「僭越ながら、シュバルツ様よろしいでしょうか?」

 「―――如何いたした、黒き死神?」


 わざとらしく名前を呼ばず、敵意に似た声色で返答してみせる騎士。


 「……ジニア村が抱える問題、そしてこれから話し合う剣術大会の事を進める前に、
  貴方はシルバ王女に婚約の件を謝罪するべきではありませんか?」

 「その件については既にシルバ王女とお話しておりますし、正式な手順を終えて済んだ
  案件です、ここで要らぬ時間を割いてまで口出しする身分ですか?」

 「騎士であるならば、ましてや、誉れ高きアリウムの名を冠する者であれば婚約まで
  した相手を裏切るなど言語道断、貴方はシルバ様の温情に甘えてのうのうと
  生きているに過ぎません、それに気付けず謝罪の言葉も無いとは無礼極まりない、
  私には到底考えられない愚かな行為です」

 「―――口が、過ぎるぞ、死神が」


 犬猿の仲、とはこの事なのだろうか。

 ヒースは普段から口うるさく私の事を心配し、小言が多く何かと言ってくる。
 が、この様に直接的な言葉で嫌悪感を示すのは初めて見る。

 その強固な姿勢にシュバルツも苛立ちを見せるが、彼もまた人前で感情をあらわにするのは決して無かった。


 ―――冷静沈着、才色兼備、文武両道。


 様々な例え方をされる程の秀才が、元暗殺部隊のヒースの言葉にいちいち反応するのは何故なのだろう。

 実際、彼との婚約破棄はお互いにあとくされの無い終わり方をしているので、それを指摘されても毅然と振る舞えば良いのに、妙にシュバルツは熱くなっている。


 ので、事態の収拾が付かなくなる前に私は二人に提案する。


 「そうだっ!せっかくですからお二人も剣術大会に参加されては?」


 「「―――は?」」


 間の抜けた返事が被さり、嫌な一体感を作りながら二人は気まずく口を閉ざした。
 
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