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シルバ・アリウム、剣聖と成る

ヒースとシュバルツ 1

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 そしてあらゆる思惑が交差する中、大きな起点日となる剣術大会まであと一日と迫り、シルバは机に突っ伏して魂が抜けていた。


 「―――ようやく……終わった」

 「お疲れ様です、これで全ての確認作業と事前の準備が済みましたね、
  あとは明日を待つばかりです」

 「……改めて、ご協力感謝致します、まさかここまで大会運営の準備をしてくれるとは
  思いませんでしたよ、……正直、とても助かりました」

 「いえいえ、私が言い出したことですし、これぐらいは当然ですよ」


 せめてもの王女の威厳を見せようと、虚勢を張って控えめな言葉で返す。
 が、その表情は連日の作業で酷く疲れており、シュバルツに逆に心配されてしまう。


 「とりあえず今日はお休みください、明日の大会に響いてしまいます」

 「すみません、そうさせて貰いますね……あ~髪がぼさぼさだぁ……
  ……ヒースさーん……髪、お願いできますか?」

 「―――御意」


 そう言って近寄るヒースは、自前の櫛を準備する。

 静かに後ろに座ると、彼は慣れた手つきで乱れたシルバの髪を解きほぐし、綺麗な銀の色をすいていく。


 「……何をしている、死神」

 「―――その問いに答える必要がありますか?シュバルツ殿?」

 「帝都の兵を震え上がらせた死神が、よもや王女様の世話係を率先してやるとは、
  黒き刃も地に落ちたものだな……、なぁ?ヒースよ?」

 「……仕事が済んだのなら早々に消えて頂けますか?目障りです」


 口調は荒く、だが手に取る櫛と髪は優しい手つき。

 そのちぐはぐな感覚がなんだか可笑しくて、つい笑ってしまう。


 「あははっ……!!二人ともおかしい、本当に仲が良いのですねっ」

 「「なっ……!?」」


 何度目かになる息の合った被り。

 ここ最近二人が仕事で一緒になると、必ずと言っていいほどいがみ合い、口論となってはそれを仲介して同じ反応を見せる。
 
 最初こそ本当に仲が悪いと思っていたが、ここまで飽きずに喧嘩しているともはや友達以上に仲が良く見える。


 「シルバ……どのように見たら我々が仲良く見えるのですか、
  流石に心外です、撤回して頂きたい」

 「今回ばかりはそこの死神と同意です、決して仲が良いなどと……」

 「ほら、今だって同じ意見で息ぴったり、やっぱり仲良しですよ」


 口を開けば意図せず同調してしまう二人、彼らは何も言えず押し黙ってしまう。
 そんな二人の関係が気になり、仕事が落ち着いたこのタイミングで訊いてみる。


 「そういえば、ずっと気になっていましたが二人はどんなご関係なのですか?
  最初にこの城に来てから、知り合いという事はなんとなく察していましたが……」

 「王女様……この男から何も伺ってないのですか?」

 「ええ、仕事で忙しく、関係性を訊く機会もありませんでしたので……」

 「―――それでも、最低限の説明ぐらいはするべきだったのでは、ヒース?」

 「……そう、かもしれないな……申し訳ありませんシルバ」


 少し暗い声で、後ろ髪を丁寧に梳かすヒースは私に謝る。
 なぜ謝るのか、その意味が一瞬わからず振り返ろうとするが、ヒースは続けて言う。


 「……シルバ、簡単に説明しますと私と彼は昔馴染みのようなものです、
  と言っても、シルバと同じ年ぐらいに彼の家でお世話になった程度ですが」

 「へぇ……意外ですね」

 「妹と一緒に匿って貰い、その際にシュバルツ家の彼と出会って、
  共に剣や魔法の習熟に励んでおりました、それが始まりです」

 「その頃から二人は言い争っていたのですか?」

 「―――いいえ、当時は、まぁ……お互いに、尊敬していたと思います」


 その言葉を、口を挟まず黙って聞くシュバルツ。
 どうやら当時は本当に仲が良かった彼らに、いったい何があったのだろうか。

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