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シルバ・アリウム、剣聖と成る
三十八話
しおりを挟む「確認ありがとうございます、これで……私がこの大会に参加する意味が出来ます、
それに私が躍進する第一歩となりますので、楽しみにして下さいね?」
「我が主に訪れた待望の晴れ舞台、本当に楽しみですよ」
お祭りのためにラフな格好をしているヒース。
いつもと違う印象で明るい笑顔を返してくれる彼を見て、昨日の涙は決して無駄ではなかったと確信し、思わず空いていた右手を彼の左手に結ぶ。
「―――もう、大丈夫そうですか?ヒースが辛いのであれば、
今日の大会参加は辞退してもいいのですよ?」
「……シルバのおかげで、私は拭いきれなかった感情と向き合う事が出来ました、
だから、今日この日を逃げてあいつとの……シュバルツとの決着を投げ出す事は
できません、故に―――私は戦いますよ」
「ヒース……強く、なられましたね」
弱々しかったその手のぬくもりは、確かな決意と共に握られた。
王女と出会ったあの日から。
死神と出会ったあの日から。
動き出した奇妙な運命を共にした二人は、その運命を大きく変える大舞台へ歩き出し、共に手を繋ぐ。
そして、シルバ・アリウムが剣聖と呼ばれるに至る、その伝説的な時が、
―――今、動き出そうとしていた。
「―――遅い、何をしていたヒース」
闘技場の舞台裏、大会運営者のみが入れる通路からそこに向かうと、開口一番シュバルツが苛立ちながら言い放つ。
「シルバに言い寄る輩を追い払っていた、許せ」
「それにしたって限度があるだろう……指定した時間ギリギリどころか少し過ぎたぞ、
もっと王女様の御付きとしての自覚を―――」
「あー……シュバルツ様?大会が始まる前に何か私に用があったのでは?」
このままでは延々とシュバルツに怒られそうなので、すかさず話題を切り替える。
すると、すぐに意識を切り替えて彼はシルバにあるものを手渡す。
「そうでした、王女様の大会参加に合わせて、取り寄せていた剣があったのですが、
今朝ようやくそれが届き、お渡ししようと思っておりました、間に合って良かったです」
「わぁ……これは……」
受け取った剣はとても奇抜、かつ美麗。
剣であるはずなのに、重要な刀身が一切見当たらず、あるのは鍔と柄だけ。
しかし、華美でありながら自然な仕上がりで彩られたそれは、何故か剣だと認識できる造りであった。
「……これは、確か儀式や祭事などで使われる魔力剣、だったか……?」
「―――そうだ、お前は使った事が無いだろうが、これは使用者の魔力を基に刀身を
生成し、実体を持たない刃として使用する事の出来る特殊な剣だ」
受け取った魔力剣は、とても軽く、美しい。
試しに魔力を通してみると、私の魔法属性を表す銀色でその刀身は生成された。
「……この大会は真剣も魔法も、基本的には何でもありのルールですので、
常に怪我や死の危険が付いて回ります、王女様は殺生を嫌うと伺っておりましたので、
この大会では魔力剣が役立つと思い、僭越ながらご用意させて頂きました」
「この刃であれば、怪我をさせないのですか?」
「王女様の魔力量にもよりますが、仮に魔力剣で両断されても外傷は無く、
物理的な衝撃と相手の魔力を失わせる程度です」
「それは……シルバにとっては不利になるのではないか」
「―――いや、通常であれば使いづらいただの飾りの剣だが……
王女様であれば、シルバ王女であれば丁度良い剣だと確信しております」
人を斬れない剣。
だが、私の実力を魅せるのであれば実に都合の良い剣でもある。
魔力で生成されたこの刀身を眺め、ぼんやりとその光を浴びると義父の言葉を思い出す。
『シルバの剣は人を斬るにあらず、故に不殺の剣』
再度この言葉を胸に刻んで、受け取った剣をそっとしまった。
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