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シルバ・アリウム、剣聖と成る

四十四話

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 『対する相手はっ……おおっとッ!?なんという事でしょうッ!!
  先ほど突然現れましたシルバ王女の側近、その噂は皆さまもご存知でしょうか!!
  帝都で死神と恐れられたアサシン、ヒース・ライトだぁぁぁ!!!』


 疾風とは打って変わり、重く、ゆっくりとした動きで闘技場に現れるヒース。
 噂を知っている人間はその姿に畏怖し、彼を初めて見る人間はその不気味さに恐れる。

 しかし、その瞳に灯る意思は主であるシルバを想う気持ち。

 見た目に囚われない面構えで、黒き騎士はホックと対峙する。


 「っふ……あの黒き死神が、死んだと噂されていたシルバ王女に仕えているとは、
  どうにも……何が起こるか分からんな?ヒース・ライトよ」

 「―――そうだな」


 交わる言葉は少なく、二人は構えを取って視線を外さない。
 
 ―――少しでも気を抜けば決着が付く。

 それを互いに感じ取っているため、集中して息を殺す。


 『場も整いましたのでっ、早速始めて行きたいと思いますッ!!
  Bブロック第一戦……――――始めッ!!!!』


 切って落とされた戦いは、その場にいた全ての観客の目を疑わせた。


 「―――終わりだ」


 既に、決着が付いていたのだ。

 開始の号令が下された瞬間、黒騎士は刹那の如く消えて疾風の背後を取っていた。


 「……………は?」


 あまりの事態に、速さを売りにしていたホックですら口を開いて動揺する。


 (―――なんだ、何が起こった、どうして俺は背後を取られて、
  首に刃を突き付けられている?まさか俺が……速さで負けたのか……?)


 冷や汗を一つ流し、ホックは何も出来ずに敗北を実感する。

 彼の敗因は実に単純であった、それは目の前のヒースに気を取られ過ぎて、死角である背後、自身の影に注意を向けていなかった事。

 いかに疾風を自負しようとも、瞬間的に消え入る影の転移術には歯が立たず、ホックはがっくりと膝を落とした。


 『………き、決まったッッッーーーー!!!!!
  なんと一瞬!!なんと刹那!!これがシルバ王女を守る新たな死神、
  いや……黒騎士の力かぁぁぁーーー!!!』


 静寂から熱狂。

 静かだった会場は一転して盛り上がり、この一瞬の試合は大盛況となった。


 「……シュバルツ、必ず、お前との決着をつけよう」


 小さく呟くその言葉は、歓声に紛れて誰にも届かない。
 そして、ゆっくり刃を仕舞って舞台裏に下がると、彼の姿は闇に溶けて消えていった。

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