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シルバ・アリウム、剣聖と成る
五十二話
しおりを挟む『うぇ……うぇぇぇぇぇぇ!?えぇぇぇぇぇぇ!?
荒れに荒れた今大会ですがっ……まさかここにきて、
隣国の第二王子が参加していたぁぁぁぁ!!!??』
もはや何度驚いているか分からない実況を他所に、対峙する二人は神経を研ぎ澄ませる。
「―――さっきの戦い、黒い方はあんたの側近なんだろ?
俺が勝ったら、いつかアイツとも戦わせてくれねぇか?
あんな戦い見せつけられちゃ、剣士としての血が騒いでしょうがねぇぜ」
「それは……お断りさせて頂きますね、申し訳ありませんが貴方が今、
ここで勝つ可能性は一つとしてありませんので、約束できません」
「……っふ…随分と、気が強ぇお姫様だなぁッッ!!!!」
彼を縛る束縛が解き放たれ、お互いに本当の全力を出し合う。
大剣に紫電を纏わせ間合いを一瞬で詰められが、何も問題は無い。
冷静に軌道を見切って回避し、返しの剣戟を打ち込む、が、弾かれる。
バチィッ……!!
剣が交わる度に稲妻が爆ぜ、身体に電流が迸る。
すぐさま感電による違和感を察知し、剣による打ち合いから回避に徹して立ち回りを変えた。
「―――お、流石に俺の雷が効いてきたか、
並みの剣士なら既に立てないだろうに、魔法抵抗能力が高いのか?」
「……この程度、何の問題にもなりません」
「そうかい、なら……これならどうだいッッ!!」
王子は片腕を空けて、魔力を行使する。
感電による若干の気だるさがあるが、紫電に注意しつつ攻撃に転じた。
が、稲光が私を阻害して牽制と決定打を兼ねた一撃を浴びせてくる。
天災を再現するかの様な魔法は、尋常でない光と音を轟かせ会場を紫電で染め上げた。
「―――なるほど」
確信する。
ここまで紫電の魔法が行使されるまでに数秒程度しか経っていない。
それほどまでに紫電の魔法は光速で、苛烈であり、瞬間的な魔法。
だが、完全ではない。
紫電が墜ちるその一瞬、僅かな魔法陣が落下地点に展開されて目印になる。
ならば、目視で避けるのは不可能ではない、前進あるのみ。
「……っ!?お前ッッ!!冗談だろ!?」
紫電の雨を掻い潜り、事も無さげにシルバは進む。
鈍い、網膜を焼き付ける美しい紫電が、銀の彩によって上書きされる。
―――澄んだ銀の髪が、小さく揺れては見た者の視線を奪う。
それほど、彼女の姿は美しく勇猛。
英雄なぞに後れを取る要素など、一つとして、なかった。
『な、なんとぉぉぉぉぉッッ!?シルバ王女は雷の雨をものともせずに突貫したッ!?
このまま突っ込んで決着を付けるのかッ!!??凄まじい攻めだぁぁぁ!!』
尋常ではない紫電を、人外の動きで突破する。
そうでなくてはいけない、人と同じでは剣聖など務まらないのだから。
故に、決着も圧倒。
シルバ王女として、いや、剣聖シルバを見せ付けるために。
「っぐ……俺が、負けるかぁぁぁぁッ!!!」
「―――いえ、ここで貴方には負けて頂きます」
一気に畳み掛けるシルバに対抗し、レッドも己の全てを打ち出して抵抗する。
紫電の英雄は自身に雷を纏うと、その神速を以て剣を振るう。
もはや瞬間移動の類に似た速度は、レッドの軌跡をなぞって稲光が轟く。
しかし、そこまでやっても尚、シルバには届かない。
神速を以てしても、紫電を纏おうとも、英雄と呼ばれる力量を持ち合わせようとも。
―――シルバ・アリウムはそれらを軽々と越えて往く。
悲しいほど圧倒的に、シルバは己の本気を魅せ付けた。
「終わり、です」
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