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迷いと、後悔

三話

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 ここからは正々堂々、何も取り繕う事は無い。

 正面から村の入り口へ向かい、ヒースが行動し易い様に兵士達を引き付けながらなるべく陽動する。


 「ん?おい!!そこのお前止まれッ!!」

 「―――失礼ですが、ここを通してもらえますか」

 「っ!?貴様は報告にあった―――」


 瞬間、警備をしていた兵士が宙を舞う。

 シルバは兵士を軽々と弾き飛ばすと、表情すら変えずに進む。
 続々と警備兵が集まり、シルバを取り囲んだ。


 「なッ……!?貴様はシバ公爵の言っていた偽物かッ……!!」

 「偽物……?その話、詳しく訊かせてくれませんか」

 「ええいっ!!お前の戯言など聞く耳持たぬッ!!」


 この現状がどのようにして作られたのか、その真実を知る暇なく一斉に襲われる。
 
 いずれも上級兵であり実力は本物。

 連携の取れた斬りかかり、しかし、既に剣聖と称された彼女の技量には届かない。
 
 シルバは剣すら抜かずに体術を駆使して捌き切ると、彼らを次々となぎ倒しながら先へ進んでゆく。


 「つッ……強いッ…!?」


 少女一人止められず、シルバは村の中央まで突破した。

 その途中、炎によって燃え広がりつつある村に目を背け、彼女は過去の惨劇に苛まれるのであった。

 あらゆる物を振り切って、歯を食いしばり、彼女はそこに辿り着く。


 「ほう……堂々と現れるとは、少々意外であったな」


 兵を付き従え、待ち構えていたのはシバ。

 彼は紳士然とした趣で振る舞い、ただ冷静に話す。


 「―――お久しぶりです、シバ公爵……
  と言いたいところですが、まずこの状況の説明を求めます」

 「ハハハっ……これはこれは、御冗談が得意な偽物のようだ、
  人を騙すのも大概にして頂きたい、君の正体はわれているのだ」

 「いったい、なにを……」


 理解できない会話の内容。

 一方的に伝えられる言葉に、シルバは確かな怒りを覚える。


 「いかにシバ公爵といえど、ここまでの狼藉は到底許されるものではありません、
  ……加えて、村人に危害を加え村に火を付けるなど言語道断」

 「ふむ……詭弁はスラスラと話せるようだ、
  いいだろう、少し機会を与えようか、私も事を穏便に済ませたい」


 あくまで紳士的に振る舞う彼は、ゆっくりとこちらに近付く。

 周りの兵が狼狽して止めようとしていたが、シバはそれを遮りシルバの目の前まで距離を縮めた。


 ―――緊張感が、場を包む。


 シルバを警戒する兵たちは、今にも襲いかかる寸前。
 それを察してシルバもまた構えを取り、一触即発の空気が流れ始める。

 しかし、シバ本人は自身の優位性を確信して顔色すら変えず、周囲に聞こえぬ様に語り始めた。

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