52 / 68
3話 挑発と挑戦
18
しおりを挟む事態が動きつつある中、バハから逃れたアリウムは屋敷を巡り逃げようとした。
「―――ここも、か」
警備が厳重となっている通路を避け、外に繋がる出口を探す。
アリウムは戦闘を極力避け、隠密行動で身を潜めていた。
「おいっ!!娘はいたかっ!!」
「ここは探した、上階に向かって逃げ道を塞いでおけ」
「わかった、ここは頼んだぞ」
警備兵のやり取りを流し見て、巡回ルートを観察し少しずつ移動すると書斎に辿り着く。
そこは警備が手薄くなっており、一時的に身を隠すのに最適な場所であった。
「……色々置いてあるなぁ、あの人がこんなに本を読むとは思えないけど」
傲慢なバハが様々な分野を取り扱う本を読むとは思えず、不思議に思いながら書斎を見渡すと、作業用の机が目に映る。
「何か、あるかな」
引き出しや机の上にある物を漁り、使えそうな物を探す。
作業用のペーパーナイフを見つけた彼女は、それを懐にしまって装備する。
と、引き出しの一つに沢山の資料が入っているのを見つけた。
「なにこれ……奴隷受け入れの名簿、と、価格が明記されている」
ペラペラとまとめられていた資料を流し見て、この屋敷で行われている非道な人身売買の履歴を確認した。
と同時に、この資料が違法な奴隷売買の証拠になりアリウムはこれをしまう。
そして、資料に記載されていた隠し通路の存在を見つけ、息を呑む。
「……」
本棚の一つ、その中にある特殊な本。
それは通路へのスイッチであり、引き抜くとレバーの役割となって本棚が動く。
吹き抜ける乾いた空気と不穏な気配。
追われている立場であるアリウムは、その危機を度外視して先へ進んだ。
コツコツと石の階段を降りてゆき、薄暗い視界が徐々に馴染む。
階段を下ると、魔法石で照らされた鉄格子が輪郭を表していく。
「―――ッ…!!!」
アリウムは絶句する。
鉄格子を介して見た風景は人間扱いされていない人達。
すすり泣く人、気が狂いうすら笑いを浮かべる人、絶望した人。
様々な負の感情が入り乱れ、地獄と化したこの場所にアリウムは吐き気を覚えた。
「い、今っ……助けますからッ…」
必死に冷静を保ち、なんとか絞り出した言葉。
だが、身体を動かそうとすると同時に、この状況で自分に何が出来るかを考えてしまい、躊躇と無力に止まってしまう。
そして、少女は騎士が言った言葉を思い出す。
『俺の力では、救えない人もいる』
あの時、彼が言った言葉が脳裏によぎる。
多くの人を救おうとも、自らの手から零れ落ちる命は確かに存在した。
彼はそれを知っているから、私に謝った。
目の前の奴隷の人達を救い出し、この状況から逃げ出して、バハの悪行を認めさせる。
これらを行う為には、力が必要であるはずなのに私はそれを持ち合わせていない。
故に、綺麗事だけで動いていた私が酷く惨めに思え、勇者になると言った約束すら霞んで眩暈を起こした。
「見つけたぞ、お嬢ちゃん」
「―――ッ!?」
後ろから呼びかける声は聞き覚えがあった。
0
あなたにおすすめの小説
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる