チートレス転生者の冒険記

沼米 さくら

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ゴブリン大討伐編

悪魔憑きの狂戦士

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 祝宴を挙げそうなほど盛り上がっていたのを鎮めたのは。
「盛り上がっているところすまないけど、まだ終わってないですよ」
 いつの間にか前に出ていたユウだった。
 どういうこと――そうだ。まだ、ゴブキングをまだ倒していない!
 でも、それはどこにもいない。どういうことだ。
 しかし、その疑問も、次の瞬間消え失せた。
「ギュイォォォ」
 突然、キンコツゴブリンがユウの背後から襲ってきたのだ。
 大剣を振り下ろすゴブリン。
 やばい、このままじゃユウが斬り殺される!
 その瞬間のこと。ユウが振り返り、ゴブリンが飛んでいった。
 ユウが小さく拳を出していた。
 恐らく、ユウは振り返りざまにボディブローを放ったのだろう。
 そして、ぶっ飛んだゴブリンは、壁面に叩きつけられていた。そして、潰れる。
 ユウ強っ。恐ろしい……。
 さらに、驚くべきことに、ゴブリンが叩き潰れていた壁が、消え失せた。
 そして中から超巨大な体を持つ厳しい顔のおっさんが現れる。
「我が名はベルセルク。多くのゴブリンを統べしゴブリンの王、我こそがゴブキングなり!!!」
 こいつがラスボスか。
 それなりの貫禄と恐怖感を俺たちに浴びせるゴブキング、ベルセルクは口を開き。
「我が造りし強固なる結界、破壊せし者は誰ぞ」
 強いプレッシャーを感じさせる目で睨みつける
「僕ですけど、何か」
 ユウが笑いながら前に出る。というかよく怖気づかねぇなこいつ。
「認めよう、つわものよ。そして、我が手により、散るがいい」
 そして、ベルセルクの突き出した手に光が収束し――光の弾が、放たれた。
 それは光弾はまっすぐな軌跡を描き、やがてユウの胸に当たる。そして、彼は吹っ飛ばされて、俺たちの目の前に。 
 しかし、ユウはぼろぼろになりつつも普通に立ち上がった。しかも笑顔のままで。
 ……大丈夫だったんだ。なんかもう怖いとしか頭に浮かばない。
「ほう、我が攻撃を受け、平気でいられるか」
「まぁね。いい攻撃だったよ」
 つい声をかける。
「本当に大丈夫なのか」
 ユウは、こくりとうなづいて。
「大丈夫。後、ここから離れて。危険だから」
「わかった。無理はするなよ」
 笑顔を崩さぬまま、前に進み出た。
「仲間との別れの挨拶は済んだか」
「いいや。別れの挨拶じゃないよ」
「そうか。未練はないか」
「それも違うね。ただ、死ぬ気がないだけだよ」
「ほう。では、その考えを改めろ。そして、死ぬがいい」
 そんな言葉のラリーを交わし、ベルセルクは再び光弾を放った。今度はユウの横をかすめ、洞窟の天井にぶつかる。
 それは、ユウにはあまり効果がなかった。ダメージもそれほど受けていないだろう。そのはずだった。
 しかし――彼は、変化する。

 ――かつて、凶悪な冒険者がいたという。
 悪魔を宿したような黒いオーラ、黒い闇を持った妖剣、狂ったかのように切り刻み、惨殺を好む。
 彼は、半年前に、見られなくなった。
 その戦いぶりなどから、いつしかこう呼ばれるようになっていた。
 悪魔憑きの狂戦士デモニック・バーサーカー、と。

 光弾がユウの横を通り抜け、かすり傷を作ったとき、何かが切れる音がした。
 ぶつりと、太い綱が切れるような音が聞こえた、気がした。
 ユウの背後から闇の色をしたオーラが、あたかも間欠泉のように吹き上がる。
 よく見たら、いつも笑顔だったのに、真顔になっている。いや、無表情といった方が正しいだろうか。
 地震。暗い洞窟の中は一段と暗くなり、恐怖がこの場を支配する。
 暗く曇り今にも雷が鳴りそうな、と言うより、折れた電柱や壊れた建物などの瓦礫が転がり、命を喰らう化け物たちが蔓延る世紀末を幻視させる雰囲気がユウを中心にして放たれているようだった。
 やばい。本能が危険信号を発している。
 周りを見渡すと、ある人は泣き崩れ、ある人はカタカタと震えながら失禁し、ある人はユウのかけたバフが切れないうちに猛ダッシュで逃げていた。中には、気を失った人もいた。
 ベルセルクもただならぬ気配に武者震い……びびっているようだ。
 そこで、ユウが口を開く。とても低い声で、
「いでよ、我が刃。悪魔妖剣“死邪シジャ”」
 闇のオーラがユウの手に集まり、闇の色をした両手剣――死邪が現れる。
 恐ろしい。何で性格も変わっているんだ。もうほぼ別人じゃないか……。

「ふ、ふん。所詮闇を纏っただけのもの。変わるはずがない。死ぬがいいわ」
 ベルセルクは、震えながらも、三度放つ光弾。さっきよりも大きいそれは、ユウに直撃、したようだった。
 しかし、ユウは無傷。実は直撃寸前でユウが叩き壊していたのだが、それは彼を除き誰も知ることはない。
 俺たちは驚愕と恐怖でもう声が出なかった。
 そう、いつか聞いた悪魔憑きの狂戦士デモニック・バーサーカーは――――ユウのことだったのだ。
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