チートレス転生者の冒険記

沼米 さくら

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ゴブリン大討伐・後日談編

この気持ちは何だろう

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 さあ、宴会だ。誰と話そうか。
 俺は冒険者仲間に酒を注いでもらい、胴上げまでされ……なんかとても照れ臭い。
 ちなみに、異世界での飲酒は、未成年でも許可されている。というか成人年齢も16歳なのでこの世界では成人ということになっている。むろん、飲酒は自己責任で、常識をわきまえた上でだが。現実世界での未成年の飲酒は、ダメ・ゼッタイであることは言うまでもない。
 暇だ。食べ物も大体食べたし、やることがない。
 もういっそ帰って寝ようかと思ったとき、ちょうど、アリスが「ジュンヤ君」と話しかけてきた。
「え、なに?」
 俺は酒によっているのと、少し照れているのとでちょっと顔が赤くなっていたが、アリスは耳の端まで赤く染まっている。
「ね、ねぇ。ちょっと話したいんだけど、いいかな」
 そこで顔が異常なほど赤くなっていることを指摘する。
「うん。いいけど……顔真っ赤だよ。大丈夫か?」
 しかし、彼女はかわいい微笑を浮かべ、「平気だよ。大丈夫」と答える。
 そして、話題を変えた。
「それよりも、さっきのすごかった。ありがとう」
「こっちこそ。あの時は君がいないと、死んでたよ。本当にありがとう」
 感謝の言葉を交換した。お互いに本心からである。
 そして、そういえばと思い。
「あと、今度“ワンダーランド”と一緒にクエストをすることにしたんだ」
 ワンダーランドとは、アリスが所属している冒険者パーティーである。
「え、ほんと? 嬉しい!」
 アリスは言葉通り、とてもうれしそうに笑う。
「え? なんで?」
「わからない。でも、嬉しいんだ」
「そうなんだ。君が喜んでくれて、俺も嬉しいよ」
 その笑顔がめちゃくちゃかわいいんだよな。ああ、眼福っ!
 でもその顔がさっきよりも赤くなって、さらには湯気を吹き出したではないか!
「ところで、ほんとに大丈夫なのか? 頭から湯気が出ているけど」
「……はうう。ごめん、ちょっと頭痛くなってきた」
 大変じゃないか。
「家まで送り届けようか?」
「いい……。これ以上しゃべり続けたら……ううん。じゃあ、またね」
「そ、そうか。じゃあお大事に」
 意味は分からなかったけど、とりあえずしっかりした足取りで会場を出ていく彼女を見送り、俺もぶらぶらと歩いて行った。

**********

 この気持ちはなんだろう。
 私、アリスはいま、とても不思議な気持ちにさいなまれている。
 いつもと同じはずなのに、頭にずっと、ある人のことが浮かんでいて、彼の顔が見えると、どきどきして、胸が痛くて、苦しいんだ。
 病気かなぁ。でも、おなかはいつも通りにすいているし、ただの疲れかな。
 でも、一度彼の顔が見えなくなると、とっても不安になるんだ。
 何でかはわからないし、ちょっとおかしいのかも。だけど、悪いこととは思えない。
 さっきから……さっき私たちを助けてくれたときから、君と話したい気持ちでいっぱいなんだ。君の話を聞きたい。君の声を聞きたいの。
 あ、あの人が近づいてきた。ちょっと話そう。
 そういって歩いてきた彼に近づいていって、「ジュンヤ君」と話しかけた。
「え、なに?」
 彼はちょっと顔を赤くさせて振り向いた。私は、顔が熱くなるのを自覚しながら話した。
「ね、ねぇ。ちょっと話したいんだけど、いいかな」
「うんいいけど……顔真っ赤だよ。大丈夫か?」
 えっ。妙に顔が熱いと思っていたらそんなになっていたの? やっぱり私おかしいのかなぁ。でも、
「平気だよ。大丈夫。それよりも、さっきのすごかった。ありがとう」
「こっちこそ。あの時は君がいないと、死んでたよ。本当にありがとう。あと、今度“ワンダーランド”と一緒にクエストをすることにしたんだ」
 ――ワンダーランドとは、彼女たちが加入している冒険者パーティーで、紳士的な騎士クラスの少年、リーダーのラビ、気まぐれ猫系女子の僧侶、チェシャ、そして町で一、二を争うほどの美少女でだいぶ強い魔法使い、アリスの三人パーティーである。
「え、ほんと? 嬉しい!」
「え? なんで?」
「わからない。でも、嬉しいんだ」
「そうなんだ。君が喜んでくれて、俺も嬉しいよ」
 そういって微笑むジュンヤくん。
 どうしよう、キミのことを見ているだけで、胸が高鳴っていく。
 もっともっと、話してたい。
「ところで、ほんとに大丈夫なのか? 頭から湯気が出ているけど」
 えっ。大丈夫なはず……あっ、やばいかも。顔がものすごく熱い……。
「ごめん、ちょっと頭痛くなってきた」
「大丈夫か? 家まで送り届けようか?」
 どきりとした。ジュンヤ君といっしょにいえまで……。
 少しだけ考えて。
「いい……。これ以上しゃべり続けたら……」
 どきどきして、もっとおかしくなっちゃう。でも、余計に心配されちゃうから。
「ううん。じゃあ、またね」
 そう言って、私は会場の出口に向かった。
「そうか。お大事に」
 しかし、ねぎらいの言葉をかけられる。そんなやさしさに、またドキッとして。

(この胸のどきどき、今まで14年間生きてきて初めて。この気持ちはなんだろう)

 これが恋という気持ちであるということを、その時はまだ知らなかった。
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