チートレス転生者の冒険記

沼米 さくら

文字の大きさ
30 / 48
迷宮回生編

最後の敵

しおりを挟む
 また攻略の日々が始まった。しかし、それほど難しくなく、二日に一階層攻略というハイペース攻略が進められた。あのレッサーオーガが強すぎただけで、ほかのボスはさほど強くなかった。あれ以降、封印を使うことはなかった。
 俺は全階層のボス攻略レイドに参加。大人数でボスを攻略して行った。人付き合いが苦手な俺は苦労したが、戦闘においては、二刀流の攻撃範囲や攻撃速度などの利点で大きな功績を挙げ続けた。おかげで犠牲者もほとんど出なかった。
 攻略は一ヶ月続いた。
 そして。
「やっと30層か~。長かった~」
「確かにな。もうフロアが狭くなってきたし、そろそろラスボスだぞ」
 俺と冒険者仲間は、29階層から30階層に向かう階段を下りていた。ボスを倒した直後である。俺はこのアレーの町に少しずつだがなじんでいた。
 ちなみに、ダンジョンは下に行くほどフロアが狭くなり、最下層は一面ボスフロアになっているそうだ。
 階段を下りた先には異形の怪物がいた。でっかいのが一体。その先は……何もないようだ。
 巨大な異形が俺を見た。いや、俺たち二人を見た。俺は仲間を一人連れていた。それを失念していた。
 俺たちは恐怖に襲われる。本能からの恐怖。俺は逃げようと構える。しかし、俺の仲間は違った。
「なに逃げようとしているんだよ。戦って、今倒しちまおうぜ」
「馬鹿か! できるはずがないだろう! 死にたくなければ早く逃げるんだ!」
「大丈夫だ。今の俺たちで戦って勝てねぇ相手じゃねぇはずだ。今までだって散々倒してきただろ。できるはずだ」
「……この馬鹿がっ!」
 彼は今までの戦績から調子に乗っていたらしい。ボスは少人数で倒せる代物ではない。これまでのボス戦も大人数でやってやっと倒せたという状況。最小数人数での撃破となったレッサーオーガも、実際には倒したわけではない。
 二人で倒すなど、不可能に近いことであった。
 彼は果敢にもボスに向かって行った。俺は止められなかった。彼は両手剣を使って突きを入れた。しかし――
「何だと!? 馬鹿な!」
 その剣ははじかれた。そして、そのまま折れてしまった。
 俺は(やっぱりな)と思いつつ、顔をしかめる。この先の出来事が明確に想像できてしまったから。
 彼はあわてた。自分の剣が通じなかったことが予想外だったのだろう。
 それをボスが何の感慨もなさそうに摘み上げる。
「おい、やめろ! こら……ッ! やめt――」
 そして、ボスは、彼を、何の躊躇いもなく――
 ぶちゅっ
 ――握り潰した。
 命は理不尽に潰された。
 彼の体は破裂し、血と肉片が辺りを汚す。
 俺は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
 心が苦しくて、どうしようもなかった。
 ダンジョン最終ボスの存在が明らかとなった。
 そして、久々の犠牲者が現れてしまったのだった。

 **********

 ――それから間も無く俺は逃げ、ギルドに行き、ダンジョン最終ボス――ラスボスの存在を報告した。それから、仲間の死も伝えた。その後、宿屋に戻り、早めに休んだ。
 翌朝、ラスボス討伐レイドが組まれた。当然俺やライケンたちも含まれた。
 ラスボスとの戦闘は苦戦を強いられた。仲間が何人も死んで――いや、殺されていった。
 剣ははじき返され、拳からは血が流れ出る。飛び散る血は辺りを鮮やかに染め上げた。
 殺されていく、仲間たち。無力感。俺は何ができる?
 何も出来なかった。何も出来ずに、ただ、仲間たちが血と肉片になっていくのを見ていることしか、できなかった。
 俺は、誰よりも弱かった。

 **********

 死闘の末、俺たちが勝利した。正真正銘、俺たちが倒した。しかし、犠牲は膨大だった。レイドメンバー84人中、最後まで立ちつづけたのは俺を含めて6人だけだった。
 92,85714%の人間が死んだ。
 死亡率だけで言えば過去最悪のものだった。
 その事は噂として伝わり、伝説と化した。
 “アレーダンジョンの悲劇”と呼ばれる伝説となった。

 **********

 純也はラスボスから紅の魔石を入手した。しかし、純也の表情は晴れやかなものではなかった。

 **********

 何で俺だけが生きているんだろう。
 俺のほかにも異世界転生者はいた。どう考えても彼らのほうが強くて、役に立つはずだったのに。
 俺はダンジョンの階段をゆっくりと上っていた。生き残った6人で。
 警戒はしていなかった。というより、できなかった。気を抜いたらそのまま倒れて死んでしまいそうだったから。比喩ではなく本当に。
 いや、そのまま死んでしまってもいいかな。でも、報告だけはしなきゃ。死に場所はその後で探そう。この世界なら死に場所はいくらでもあるし。
 ん? この世界? 何かがおかしい気がする。そもそも俺は何でここにいるんだっけ。
 まあ、そんなのどうでもいいや。
 俺は何もかもがどうでもよくなった。
 思い出せるのは血、肉、赤。頭に浮かぶは惨劇、恐怖、悪夢。孤独、無力感、絶望感。
 ただただ俺は階段を上がり続けた―――。

 しばらくたった。
 俺は宿屋にいた。何も考えずに窓の外を見ていた。
 宴会の声が風に乗って聞こえた。何も知らずに。あの惨劇を知れば、ああは騒いでいないだろう。
 俺は誰も守れなかった。守る力がありながら。後悔が渦巻く。
 守る力……いや、そんなのなかったな。何を思い上がってたんだ。馬鹿みたいだ。
 俺が殺されなかったのはただ単に殺すだけの価値が無かっただけなのかもしれないな。まさに虫けらだ。
 自己嫌悪が最大に達する。生きる理由など何も見出せない。抜け出すことのできない闇の迷宮。それは心の中で広がり、精神こころを破壊していった。
 夜は更けていった―――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...