TS転生廃妃さんが文芸無双で皇帝様を射抜くまで。

沼米 さくら

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第一章 そうだ、デートしよう

#14 EGG&HYPOCRITE

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「寄付、ですか……?」

 白銀は困惑したような表情で俺を見ていた。
「うん。寄付」
「なんでです?」
 即ツッコミが入った。それも当然か。
 ――『私』はあくまで身分の高い公人だから。
 でも、『俺』は違う。

「……知り合いにさ、孤児院で育ったやつがいるんだよ」
 孤児院ってか児童養護施設だけどな。ほぼ同義だけど。
 その知り合いってのは、俺である。『奉景』ではない、『俺』のことだ。
「あいつもすっごく大変な中で育ってきててさ。孤児院って金がないだろ? だから、さ」
「……だからって何ですか。金がないから恵んでやろうってだけですか?」
「何もそんなイヤミな言い方しなくても……」
「ふざけないでください!」
 なだめようとする俺に、対峙する青年――白銀は叫んだ。
「そうですよ。僕たち孤児院にはお金の余裕なんてない! だから僕が暗殺でどうにか支えているんです! 過去に何度も国家に訴えました。子供たちへの――孤児院に限らず、子供のいる世帯への給付や支援策をもっと増やしてほしいと。けれど――」
 この国はどうも成果主義的なきらいがあるようで、未来への投資という面に欠けている。
 要するに、彼らの訴えに国が――皇帝が耳を貸すことはなかったのだ。
「それが、今更寄付だなんて。金持ちの道楽ですか? 嫌味なのはどう考えても――」
「やめなさいよ白銀! この人だって――」
「朱紅! 地位を持った人間が、ただの善意で金や物を動かすと思うか?」
 暗い大人の世界で揉まれ生きてきたのであろう彼は、どうやら悪意に過敏になっているようであった。
 きっと、たくさん裏切られて、たくさん騙されてきたのだろう。
 俺を見ているみたいで、つくづく胸が痛い。
「どうせ、何か裏があるに決まっている」
 そう話す彼に、俺はため息をついて言った。
「……私はあくまで『廃妃・奉景』ではなくて『私というひとりの人間』として、あなたたちと話しているんだ」
「はあ」
「タメ口で構わないって言っただろ? ――今の俺は、『廃妃』じゃないからさ」
 胡坐あぐらをかいて座りにこやかに笑いかけると、白銀のほうも不承不承といったように座る。
「奉景さん。……あなたの、本当の目的はなんだ?」
「本当って……さっき言ったことも事実だぜ?」
「それだけではないでしょう?」
「まあ、な」
 周りの子供たちや朱紅、が固唾をのんで見守るなか、俺は口を開く。
「さっき言ったこと――孤児院で育った知り合いがいるって話が前提。あいつさ、子供のころにあんまり遊べなかったんだ」

 孤児院――施設には金がない。
 うちの施設は小規模で、良く言えばアットホーム。悪く言えば、ド貧乏で何事も我慢を強いられる環境だった。
 小学校で流行りだった漫画雑誌は買えないから、図書館で周りの子に横取りされながらも読んでたり。
 それならまだいいほうで、旅行も行ったことないから海や山なんて見たことなかった。
 ゲーム機なんてもってのほかで、当時最新のおもちゃもない。小学校での話題には当然ついていけない。
 ……テレビは見れたのが救いか。でも、好きな番組はかけてもらえず、昼間にやってる再放送のドラマばっかり見せられてつまらなかったのは覚えている。
 当然のように友達からはハブられて、施設内の友達と退屈な遊びに興じるしかなかった。

 子供にとって、『遊び』というのは大きなウェイトを占める要素の一つだ。
 遊びで得た知識が今後の役に立つことも多いし、社会性を身に着ける大きな一歩になりうる。しいては今後の人格形成なんかにも大きな影響をもたらす。
 ――しっかり遊べなかった俺が――そしておそらく白銀もであろう――こんなに歪んだ性格をしているのがその証拠だ。
「だから、せめて次世代を担う子供たちにはしっかり遊んで、様々な体験をしてほしいんだ。俺の寄付は、そのための投資さ」

 そんな話を(さすがに転生前の話は少しはぐらかしつつも)したら。
 え、なんかドン引かれてんですけど。
 正確には、ドン引きしている白銀とリュスアくん。あまり理解してなさそうに口を半開きにしている朱紅とフェンちゃん。
 そしてランちゃんは目をウルウルさせて「せんせー……しゅごい……」とうっとり口にしてた。かわいい。
 それはともかく、初めに口を開いたのはリュスア。
「……にいさん。この人、異常者っすよ」
「まさかほぼ完全に善意で動く人間がいるとは」
 ドン引きというか、信じがたいものを見たという顔であった。
 ただ、これだけは訂正させてほしい。
「善意、というか個人的感情のたぐいだぜ? わざわざ孤児院を探して寄付したのも、さっきのエピソードがあったからだし」
「……それでも、まだ信じられない……です」
 白銀が眉をしかめていると、いつの間にか俺の目の前にちっちゃい影。

「このひとはわるいひとじゃないよ!」
 そう、目の前にいたのはフェンだった。
「おいフェン! 近寄るなって!」
「やだ!」
 リュスアが慌ててフェンを捕まえようとするが、そのフェンはというと俺にしがみついて離れない。
「なんでそんなにこの女を信じる!」
 少年の問いに、その少女は無邪気に叫んだ。
わたしフェンのカンがそうゆってるの! だから、しんじられるの!」

「何やら騒がしいところですわね……ここにいらっしゃるかしら、奉景お姉さまっ!」
 外から声がした。……嫌な予感がする。
 がちゃ、と扉を開ける音がした。どうやらここは防犯という概念が希薄らしく、鍵が掛かっていないドアが多いようで。
「……なにやってますの、お姉さま」
 愕然とした表情で、子供たちと戯れる俺を見る朔月。
「なに臭いし汚らわしい下賎の野ガキと戯れてますの、お姉さま」
「おい、さすがに言っていいことと悪いことがあるぞ朔月」
 俺が低い声で叱ると、彼女はなおも食い下がり。
「……こんなところで何してますの。こんな×ッ×きたない××だらけの×××あばら家ぬけて、とっとときれいな後宮に帰りましょう? お姉さまっ」
 俺はキレた。

「ンな軽々しく差別用語使ってんじゃねぇよ、成金のボンボンお嬢様がよぉ」
「正しいこと言って何が悪いんですの? 他人の体乗っ取って貴族の暮らしさせてもらってるお偉い寄生虫さん!」
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