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決意・トランスセクシャル(2)
しおりを挟むハル。伊東 ハル。僕の幼馴染で、親友の少女である。
「……ハル、なんでここに?」
「心配だから……学校も休んで……って、なに言わせるの!? あなたには関係ないじゃない!」
だめだ、僕のことを全く信用していない。でも、もともと結構うざかったんだ。もうこれでいいや、と思おうとしたところで。
「……大変ですお姉ちゃん。このハルさんとやら、認識改編が通用してません!」
「にんしき、かいへん? なにそれ。というか、シキに妹なんていなかったはずよね。どういうこと? この女シキ」
「女シキって何さ! ああもう、お茶入れてくる!! 座っとけ!!」
「へぇ、嘘にしてはよくできてるじゃないの」
「残念ながら嘘じゃないんだよなぁ……」
ハルは静岡産の緑茶をすすりながら僕たちをジト目で見つめた。こいつ、口では不機嫌そうにしつつも、僕しか知らない完璧なチョイスに目を白黒させている。面白い。
……ちなみに、頬をつねったら痛かった。嘘じゃないし夢でもない。夢ならばどれほどよかったでしょう。
現実改編のことしか話してないから理解されてるかどうかすらもわからないけど、ひとまず納得はしてくれたと思う。思いたい。
「で、ひとまずあんたがシキだとして」
ズズっとお茶をすすって、彼女は言った。
「昨日のアレ、なに?」
「昨日の?」
「うん。なんか……ああ、うん。シキってばこの妹ちゃん? を抱いて、次の瞬間光に包まれて、女の子が出てきて、なんかエビみたいなのをやっつけたじゃん。アレなによ」
要するに前章で描いた一連のアレである。
「……見てたの?」
「うん」
見られてた。
「あんた、突然出てくから……探しに行ったらこんなの見せられて。……びっくりした。かっこよかったよ」
そう言ってハルは僕の頭を撫でる。
「や、やめてくれ!」
「あんたいま女の子なんでしょー。ならいいじゃーん」
「そういう話じゃなくて!」
こほん、と咳払いをして。
「オッケー、アキちゃん、あれって何だったの」
「いやあんたも知らんのかい!!」
ツッコミの上手い幼馴染である。というのはさておき。
「はい。わかりました」
アキちゃんはまじめな顔をして言った。
「あれは、わたしの……精霊の力を完全に開放した姿になります」
「それって……」
「あなたのフルパワー、というわけです。もう少し詳しく説明しましょうか」
そう言ってまた長ったらしい説明である。要約しよう。
この体は精霊、すなわちアキちゃんと一体化していることは先述の通りだ。だが、その精霊の力を完全に発揮できるわけではない。何故なら、このまますべての力を発揮すると体が自壊してしまうからだ。
故に、その力をある程度以上扱うときは、体が壊れないように精神体――クッションとか梱包材みたいなものだと思う――で包むのだそうで。
「その精神体を身にまとった姿があれです」
「へぇ……プリキュアみたいなやつ?」
「そですね。似たようなものです」
ああそうか、と僕はため息を吐いた。
「魔法少女か……というか思い出したら恥ずかしくなってきた」
顔を赤らめた僕を見て、ハルは「あーかわいいー」なんて言ってまた僕の頭を撫でた。
「あんの不愛想な馬鹿がこんなに可愛くなるなんてねー。正直まだ信じらんないわ」
「不愛想な馬鹿で悪かったな……ってか可愛いとかやめてくれ」
「かわいい。めっちゃかわいいわあんた。あーもうもっとかわいくしたい。アキちゃんもそう思うよねー」
「はい。わたしの姿をある程度反映させてるとはいえ、とても可愛らしく仕上がってます。つまるところ、わたしかわいい。故にお姉ちゃんもかわいい、です」
そう自信満々に言うアキちゃんはやはり無表情だった。
「そんなにかわいいとか言わないでくれ……」
ちょっと嬉しいじゃないか。そんな風に思ってしまう自分とは対照的に、少女に表情はなかった。
「じゃ、公園にでも行きましょうかね。シキ、着替え方とかわかる?」
この場の雰囲気を完全に掌握したハル。その言葉に、僕は少し切れ気味に返す。
「ガキ扱いすんな。このくらいわか……わ、か……」
タンスを開けて絶句した。うん。まったくわからん。
というか、中学時代のクソダサいジャージに着替えたのも、これ以外に着れそうな服がなかったからであったことを失念していた。
故に、僕は頭を下げるほかなかったのである。
「……わかりません。ハル様どうかこの私に服の着方を教えてください……!」
「よろしい。じゃあここ座って。脱がせたげるから」
「脱がせ!? 口頭だけで大丈夫だから……」
「だーめー。というかいまは同性なんだしいいでしょー」
「です。ハルさん、手伝います」
「おお、アキちゃん助かる! じゃあ、脱ぎ脱ぎしようねー」
「うあぁぁぁぁぁ――!」
そして、強引に脱がされた――。
「……なんかスースーして恥ずかしいんだけど……。胸きついし……」
「次第に慣れるわよ!」
そう言われても、さすがにすぐには慣れないものだ。まして、女物の服なんて着たことがないのだから余計に。
「うぅ……女装してるみたい……。こんなに可愛いやつ、僕には似合わない……」
「めちゃくちゃ似合ってるのになに言ってんの、シキ」
「お姉ちゃん、すごくかわいい」
顔面がオーバーヒートしそうだった。おかしくなりそうで、恥ずかしくて、でも嬉しくて。
僕、どうしてしまったのだろうか。
黒い水玉のワンピースを翻しながら、照れを隠すように叫んだ。
「ほら、行くんだろ! 早く行こうよ!」
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