雨の降る日は。

日々野エッセイ

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緩く、乾かず。

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雨、アメ、あめ。
また今日も雨。

耳を傾けて、無音の中の音を聴く。
シャァーァアアッ!
チロチロチロ~。
パタパタパタパタパタパタ、、、
こういう日は僕は決まって睡魔に肩を叩かれる。
出来ることならばこのまま布団に体重を預けていたい。重力に負けていたい。
だが、そういうわけにもいかない。
義務教育でもないのに高校へはなんとなく行かなければいけない雰囲気に情勢的に成っている。
支度をしようと思い、脳死に近い状態でスマホを見る。
別に気になって眺めているわけではない。なんとなくだ、なんとなく。

「お~い、乗るなら早くしろよ~」
「、、うぁーーーぃ。」
気怠そうな僕の返事。
ったく、今準備してたよっ。
小声で言う。嘘つけ。今さっきまで用事のないクセにスマホ見てただろうよ。
しゃーねぇ、準備するか。
仕方なくなんかないクセに仕方ないと思って準備を始める僕は傲慢だ。

出来れば父に車には乗りたくない。
乗りたくないと言うか、送迎されたくない。
だって、自覚のある反抗期だから。
しかしそんなことも言ってられない。
濡れるのはもっと嫌だ。

形容し難い緑色なのか灰色なのかよくわからない色のズボンを穿き、白いワイシャツに袖を通す。赤と白と黒のバランスのいいボーダーのネクタイ、3年目になるともう慣れたもんだ。
今時サラリーマンもネクタイなんかしないのに、僕の高校ではしなくてはいけないらしい。高校は前例がないものを認めない風潮があると思う。枠から外れようとしない。公立なら特に。
ブレザーは要らない。夏服だから。じゃあネクタイも、とは思うが、鏡を見た時にネクタイがあった方が何故かしっくりくるから別に嫌いではない。形を整えて、キメて行く。
そういえば昔、ワイシャツの語源は、江戸時代の人が「ホワイトシャツ」を「ワイシャツ」って聞こえたことから、ワイシャツって名前なんだよって父から教えてもらった。無駄に物知りなんだよな、あいつ。

自分の部屋を開けると、朝の匂いがした。
お弁当と外の雨の匂いと洗濯物の匂い、あと父のコーヒーの匂いが混ざって、朝だ、って脳に自覚させられる。
父に目を配ると湯気の出ているカップ手にしている。よくも大人はあんな苦いものを飲めるな。しかもこんな蒸し暑い朝にホットで。代謝がイカれてると思う。
「早く食べて行きなよ!」
心配性の母。まだ7時半。学校は8時40分からだから、1時間以上もあるって言うのに、無意味に焦らせてくる。
「わかってるってば」
用意された朝食を前に合掌する程良くできた息子ではないため、箸を持ちながら、いただきまぁす、と口から漏らす。
今日のニュースは16歳の男女4人グループが四輪車を無免許運転して橋から転落、運転手以外が死亡、運転手は重症、といった具合のニュースでもちきりだ。
「あたし自分の息子がこれで死んだら生きていけないし、一生呪うかもな~。」
人は死んで償えないということか。
死ねば責任を転嫁することも出来ないし、残されたものたちは想像の中だけで責任をなすり付け合い、悲しみに暮れるだろう。
運転手ってだけで、無理矢理運転させられたかもしれないけど、責任は重くのし掛かり、償い方もわからず、勝手に敷かれたレールの上をトボトボと歩くしか許されない、そんな人生を送るのだろう。馬鹿だと思う。僕ならやらない、だから心はそこまで傷まなかった。

口に放り込んだ弁当の残り物と白米たちを麦茶で流し込み、っあっしたー、と意味のわからない、多分ご馳走様でしたと言っただろう言葉と共に食器を流しに持っていく。その足で洗面台に向かい、歯ブラシに体に悪そうな色合いをした歯磨き粉を付け、咥える。
シャコシャコと音を立てながら、雨音が少し静かになったと感じて外に目をやる。小雨だ、ラッキー。最初から小雨ならば送迎ではないけれども、先程まではしっかりと雨が降っていたから楽できる。だから、嫌だけどラッキー。
あ、ここ気持ちいいな。入念にシャカシャカする。
少し前に好意を寄せられていた女の子と電話していた時に、僕は恋愛的な感情がなかったから、気にせず歯ブラシをしながら話していたことがある。
「歯ブラシしてるの??」
「なんでわかったの?」
「だって、シャカシャカ言ってるもん(笑)」
「ほっか、ほりゃほーか」
ぺっ!!
「終わった??」
「全部筒抜けだな。今日も気持ちよかった~。」
「歯ブラシ気持ちいいの??」
「うん、気持ちいいよ。面倒臭いけど。」
「そういう人って口が性感帯なんだよ。」
「ふっ、なんだそれ(笑)」
ドキッとした。そんなこと言うタイプじゃないと思ってたから。
それから毎日電話するわけでもなく次第に疎遠になって、連絡しなくなった。
少し連絡を待っていた自分がいたけど、しなかった。多分あっちに彼氏が出来ていた。
モヤっとしていたからきっとあの件以降僕の中の天秤は好意に傾いていたんだと思う。
バイ菌も吐き出した時に見えればいいのに。そうすればきっと虫歯なんて出来ないはずだ。なんて考えながら白い唾液を吐き出し、流す。
「ってきまぁす。」
「いってらっしゃい!今日もがんばってね!」
「うぃ」
僕は母は嫌いじゃない。愛されているって感じるから。たまに鬱陶しくて話しかけないで欲しい雰囲気を出してるのに、ねえねぇと何回も話しかけてくる時は流石に振り払いたくなる程イラッとするが。
そして僕はジトっとした空気の溜まった父の車に乗り込み、体を外側に向け、空を見た。分厚い灰色の雲は際限なく広がり、地球上全てで曇天だと思わせるには申し分ない量だった。

無言の車内は能天気な運勢ランキングによって多少なりとも救われている。
小雨機関銃ガトリングを浴びながら疾走する高校生は、少し濡れて色気を放ち、車に守られた僕に悠々と抜かされていく。
今日も1日が始まる。
こうやって送ってくれるんだもん。僕の父は、思ってる以上に悪くない人なのかもしれない。
なんとなく毛嫌いしているだけなのかもしれない。
しょうがないなぁ、今日は「いってきます」って言ってみるか。
その反応次第で「ありがとう」の追加オプションも準備してやろう。
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