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第四十話
しおりを挟むガラッと教室の扉を開けると、そこには懐かしい顔が並んでいた。
そして、大好きな2人も…俺を見ていた。
「…うわ、きた」
「シーッ、聞こえるよ!」
「…照史先輩も可哀想だよね、あれが弟なんて」
この感じも、懐かしい。
前世と変わらず、兄さんの弟というだけで比べられていてそれは男女問わず陰口や嫌がらせに繋がっていた。
前の時は兄さんが精一杯守ってくれて、兄さんが卒業した後は大原と桜野がずっと守ってくれていて…俺、迷惑ばかりかけてたんだな…。
後になって気付く事はあるけど、それを実体験させられるとは思わなかった。
小さくため息を吐いてから自分の席に座ると、反応がない事に苛立ったのかとある女子グループの1人が俺の席に向かって何かを投げた。
「うわ!何それー!」
「ごっめーん!手が滑ったぁ!」
「マジやばー!早く片付けなよ七海ぃ!」
キャハハっと大きな声で笑うソイツらが投げたのは温泉卵。
給食にでも出たのか、それとも部活前に食べようと思ってたのか知らないけど…いや、後者なら危ないだろ。自分のお腹の心配して欲しい。
なんにしても、俺の机は温泉卵で酷い有様になっていてこのまま勉強なんてどう足掻いても無理そうだった。
俺は自分のカバンからポケットティッシュとウェットティッシュ、ゴミを入れる用に持っていた袋を取り出して黙々と片付け始めた。上に乗っかった卵は全部回収したし、あとはアルコールスプレーで除菌してウェットティッシュで拭いて…あとは乾けば完璧。
卵の入った袋を入り口近くにあるゴミ箱に捨ててまた席に戻ると、反応しないまま綺麗に掃除したのが気に入らないのか女子達が騒ぎ始めた。
「床も掃除しろよ!」
「ちょっと!こっちまだ汚れてんですけどー!」
「こいつの周りくっさ、勘弁してよ!」
ぎゃーぎゃー煩いソイツらに、俺は盛大にため息を吐いた。
前世では兄さん達が牽制してくれていたからこういう目立った虐めみたいなものはなかったけど、ゲームの唯兎がこういう扱い受けてたらそりゃ歪むよな。
周りが騒いでるのを無視して教科書やノートを出す。
唯兎はまともにノートも取っていなかったらしく、教科書も何も書き込まれていない新品同様のままだった。
そんな綺麗な教科書に少しワクワクしてると、気に入らないらしい女子が俺が手に持っていた教科書を取り上げ教室の一番後ろにあるゴミ箱に投げ捨てた。
「ほら、取りに行けば?使うんでしょ?」
クスクス笑いながら俺の様子を見る女子達に呆れてしまい、何も言えないまま頬杖をついてジッと見る。
そっか、中一といえばほとんど小学生か。
そりゃまだ精神年齢も育ってない、よな?
なら仕方ない、のか?
と、1人首を傾げていると落ち着いた様子が気に入らないらしい女子がノート、参考書、更には鞄と次々にゴミ箱へ突っ込んでいく。
こら、今バキって聞こえたぞ。
「必要ならさっさと拾えって言ってんでしょ!」
「本当気持ち悪いなぁ!なんなのアンタ、消えろよ!」
「んー…刑法261条、だっけ?」
「…は?」
急に刑法とか言い始めた俺に騒いでいた女子は嘲笑うようにクスクスと笑い始めた。
そんな女子達に指折り前世で兄さんが言っていた記憶を掘り出していく。
「えーと、刑法261条。器物損壊罪。刑法222条…脅迫罪?」
「何言ってんの?子供同士のやり取りに警察は介入しないよ!」
「笑って終わりでしょ?マジ面白い」
前の兄さんはいくつか刑法出してたと思うんだけど、ダメだ…思い出せない。
簡単なその辺しか思い出せず、項垂れると馬鹿にされたと勘違いしたのか女子は自分の筆箱を投げつけてきた。
「あ!刑法208条!暴行罪!…に、なる?」
「なんなの本当…きも…」
「何条…だっけ、侮辱罪とかあった気がする…」
なんにしても、たくさんの罪が浮上して思わず笑顔になる。
何故か笑顔になっている俺に気味悪さを覚えたのか、俺から少し離れた女子達はお互い身を寄せ合った。
…なんで?
被害者俺なのになんで女子達が被害者みたいな顔してるの?
まぁいいや、今思い出した刑法をメモしよう…と思って机の上を探ったら筆箱が見当たらない。
…そっか、後ろのゴミ箱だ。
俺があそこまで取りに行くの?俺が?
…俺がぁ?
なんか嫌だな、なんて眉間に皺を寄せてみると急に教室の後ろの扉がガラッと音を立てて開いた。
懐かしいささえ覚える、女子の色めき立つ声。
「…唯兎君、いる?」
「あ、兄さん」
ただこれだけの会話なのに変に周りが騒つく。
おそらく、俺と兄さんの不仲具合は周りもよく知っている事なのだろう。
けど、それももう終わり。
俺と兄さんは不仲なんかじゃない、これからはもっと…前程とは言わなくても仲良くなるんだ。
教室内まで入ってきた兄さんは手に持っていた一つの筆箱を俺に差し出す。
…あれ?俺のは鞄の中に…。
「家出る時に荷物落としちゃったでしょ?その時に入れ替わっちゃったみたいで…えと、僕のがそっちにあると思うんだ。貰っていい?」
「……ぁ」
俺の手に渡されたものは確かに俺の筆箱。
つまり、さっき女子達がゴミ箱に詰めた込んだものの中に…兄さんの筆箱が…?
俺は何も答えず、チラッと後ろのゴミ箱を見た。
その視線に気付いたのか、兄さんもゴミ箱を見る。
クラスメイトは誰も声を発しようとせず、ただ俺たちの…特に兄さんの動向を見ているようだった。
ゴミ箱に突っ込んだ女子に関しては顔を青ざめさせ、胸元で手を組んで不安そうにしている。
いや、不安になるような事を自分でやるなよ。
誰も話さない異様な状況に眉を顰めた兄さんはゆっくりゴミ箱に向かって歩いていく。
そしてゴミ箱の中を見たのか、そのままゴミ箱を見つめてその場から動こうとしない。
そんな沈黙を破ったのは、俺への[イジメ]を率先して行っていた女子達だった。
「あ、照史先輩!七海くんったら急に鞄をゴミ箱に捨て始めて…!」
「そ、そうそう!私たち止めたんですけどぉ、怖くて止めきれなくて…」
1人が保身に走り始めると周りの女子も同様に保身に走り、俺が異常なのだと兄さんに対してアピールを始める。
急に鞄を捨てる。
急に怒り始める。
急に机を叩く。
この世界の七海唯兎はもしかしたら、本当にそういう事をしていたのかもしれない。
そう思うと、変に否定も出来ずただ立ち尽くしてしまう。
否定して、他のクラスメイトから『嘘つき』と言われてしまえば事実俺は嘘つきになってしまうのだろう。
どう、兄さんに伝えるべきか悩んでいると兄さんは女子達の声を無視して俺の鞄をゴミ箱から取り出し俺の机まで持ってくる。
中身を広げると、俺の教科書やノートは押し込まれた時についたであろう折れ目が強く付いていて、兄さんの筆記用具はケースは布製だったから無事なものの、中身はほとんど折れてしまっていた。
あのバキって音は兄さんの筆記用具の音だったんだ。
「唯兎君、説明」
「…えっと、何を気に入らなかったのかあの女子達が俺に温泉卵を投げつけたり鞄やノートをゴミ箱に捨てられたり、あと消えろとか暴言を沢山言われた?」
「なんで疑問系なの?全部事実?」
「う、嘘です!全部嘘!騙されないでください照史先輩!」
まだ兄さんに信じてもらおうと必死になって声を上げる女子達に溜息しか出ない。
俺は静かに溜息をつきながらノートに付いた折れ目を撫でて少しでもまっすぐになるように奮闘してみる、けど無意味である。
ノートの折れ目を睨みながら眉間に皺を寄せると、兄さんは優しく俺の頭を撫でて周りで傍観していたクラスメイト達をジッと見た。
「…事実?」
兄さんが再度聞くも、近くにいた男子達はどう答えていいのか悩んでいるようでお互い顔を見合わせていた。
「事実でーす、七海は最初から被害者でーす」
「七海の言うことに嘘はないです。そもそも何もしてない七海に喧嘩売ったのはその女の子達だし、鞄を捨てたのも女の子達。そして温泉卵を投げてたのも事実ですよ」
聞き慣れた、けどどこか温度が違う声に目を向ける。
そこには予想通り…大原と桜野が睨むようにして女子達を見ながら座っていた。
2人の姿を、また俺を守ってくれるような発言をしているのを見ると1度壊れた涙腺がまた壊れそうになるのを感じる。
ジン、と鼻が痛むのを感じながら泣きそうな顔を隠すように下を向くと何を勘違いしたのか兄さんが優しく俺の頭を抱えた。
「…唯兎君は僕の大事な弟だけど、そんなこの子に君たちはいじめを働いたの?理由を聞かせてくれない?」
「あ、あの…違うんです、だから…」
「それは…だって…」
言い淀みながらモジモジと両手を弄るだけで何も言わない女子達に兄さんは大きな溜息を吐いて俺の頭をひと撫ですると自分の筆記用具を持って教室から出ようと歩き出す。
その姿に明らかにホッとしていた女子達に、兄さんは地獄の一言を残した。
「僕は、いじめは嫌いだよ。ご両親含めてお話するから放課後までに言い訳でも考えておいて」
ピシャッとわざと音を立てて扉を閉めた兄さんは、時間も時間だからかパタパタと走り去って行った。
と、同時にチャイムが鳴りそれぞれが安堵のため息を漏らしながらそれぞれの席につく中、顔色悪く身を寄せ合っていた身体をゆっくり離しヨロヨロとふらつきながら席に戻る女子の姿が目立った。
チラッと大原と桜野を目で追うと、大原の席に遊びにきてた桜野が自分の席に戻っていくのが見える。
…後で、お礼しなきゃ。
それで、出来ればまた…前みたいに友達に…。
ガラッと教室の扉を開けた教師が生徒達に声をかけるのを見ながら次のトイレ休憩の時間が楽しみで少しだけソワソワした。
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