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第五十一話
「……はぁー、ダメだ」
俺はアレから寝る事なく机に向かい、ゲームでの出来事や可能性。
藍田和彦に起こり得る事を予想してみたが、どう線を繋ごうにも存在が消える可能性というものに繋がることはなかった。
そもそも、ゲームそのものがファンタジーではない。
キャラが何処かに行ってしまうことはあれど、存在が消えるなんてことがあってはいけないものだ。
…バグか…?
そんなバカな。
俺たちが生きてる今、ここはゲームとして考えられない世界だ。
現実だ、と思っているこの場所でバグなんてあってたまるか。
そう思ってはいてもどんなにゲームの内容と照らし合わせても意味を成さず、辿り着く答えのほとんどはあり得ないものばかり。
だんだんと頭の中で糸と糸が絡まっていくのを感じて大きく息を吐いて目を閉じ、今日出来るのはここまでか…といろいろと書き殴った文字を眺めた。
唯兎君が中心のこの世界はゲームのストーリーとは全く違うものとなっている。
つまりは俺の知識は当てにならない、これからは自分自身の脳で攻略していかないといけないんだ。
それがどれだけ難しい事なのか、これからのことを考えるとゾッとしてしまう。
一つでも間違えたらどうなるのか。
ゲームでは間違えたらそれは七海照史の…そして、当然のように七海唯兎の不幸に繋がった。
この世界でもそれはきっと当然のように付いてくるだろう。
凝り固まった肩を回しながら再び息を長めに吐くと、緊張していた身体が少しだけマシになる気がする。
今日はもう休もう、と身体をグッと伸ばしていると後ろから名前を呼ばれて大袈裟にビクゥッ!と身体が跳ねた。
「へ、な…っ!佐久間…っ!?なんで家…!」
「お前が前に鍵渡したんだろ、いつでも来ていいって」
「あ、え、あ…あぁ…そっか。でもなんで今?」
今日は両親は共に出掛けていて家にはいないとは言え、佐久間が家にいると悪いことをしているようで少しソワソワしてしまう。
とりあえずまずは目の前の疑問を、と佐久間に投げかけてみると何も言わず手に持っていた袋を手渡され更に疑問が増える。
「…なにこれ」
「軽い飲み物と食い物。明日も仕事だって言ってたろ、なのにお前忙しそうだったから買ってきた」
「あ、ありがとう…」
なんとなく目の前にいるコイツから前の佐久間を感じ取り、懐かしさに頰が緩む。
素直にお礼を伝えて袋の中を見ていると、俺はこれでとさっさと玄関に向かって歩き出す佐久間に慌てて俺もついていく。
予想外だし、正直どうして急にこんなことをしてくれたのかはわからないけど嬉しかったし、まだ夕食も食べていなかったから助かりもした。
さっさと靴を履き、帰ろうとする佐久間の腕を掴みこちらを向かせる。
「ありがとう、腹減ってたから助かったよ」
「…何を忙しそうにしてるかはわからないけど、無理すんなよ」
「…ん、わかってる。また連絡するから」
ソッと佐久間の腕を離し、その手でヒラヒラと手を振ると何がおかしかったのかフッとほんの少し笑ってから今度こそ佐久間は玄関の扉を開けて帰って行った。
本音を言えば、もう少し一緒にいたくはあったが…今はそんな我儘を言ってる余裕はない。
佐久間が持ってきてくれた袋の中を見れば、中には片手で食べられるようなパンや飲み物…そして林檎のゼリーが入っていた。
前のような摺り下ろしりんごではないにしても、また林檎かと懐かしさにクスクス笑ってしまう。
小腹が空いていたのは事実であるため、俺は有り難く林檎のゼリーをいただくことにした。
ゼリーの中に林檎が2欠片入ったゼリーは思っていたより甘く、その味が更に前の世界を思い出させた。
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「兄さん!こっちこっち!」
「わかったよ、待って唯兎君」
次の日、俺は兄さんを連れて栗河さんのいる映画館へ来ていた。
昨日偶然栗河さんと再開できたから本当は来なくてもいいんだけど、何かあった時に兄さんが栗河さんの存在を知っていたら都合が良い。
ある意味、今回の映画は栗河さんと兄さんの顔合わせのようなものだった。
前と同じように映画を観終え、前と同じソファに座り少し休んでから帰ることにした俺と兄さんは映画鑑賞中に飲み終わらなかった飲み物をゆっくり飲みながら映画の感想を話していると、少し離れたところに栗河さんの姿を発見した。
「兄さん、ちょっと待ってて!」
「え、うん」
館内では走らないように、となるべく早歩きで栗河さんに近寄ると俺に気付いた栗河さんが優しく笑みを浮かべながら俺に数歩近寄ってくる。
…うん、同じ転生者でも栗河さんはさすが攻略対象って感じ…素敵な笑顔だ。
「こんにちは、栗河さん!」
「こんにちは、今回もあの映画?」
「はい、俺は前に観たけど兄さんは観てないから」
久しぶりに感じる穏やかな気持ちに緩む頬を素直に緩ませたままにしておくと、少し離れたところから兄さんの声が聞こえてそちらを向くとゆっくりと兄さんが俺達に近寄ってきていた。
今回の目的はすぐに達成出来るな、とすぐ隣に来た兄さんを見上げながら栗河さんを紹介する。
「兄さん、こちらこの映画館で働いてる栗河さん。いつもお世話になってるんだ」
「こんにちは、お兄さんですよね?栗河といいます、はじめまして」
「あ、こちらこそはじめまして。唯兎君の兄の七海照史です」
お互いにこやかに会釈をしながら挨拶しているのをなんとなく緩む頬をそのままに眺めていると、少し離れたところに私服の佐久間さんがいるのに気が付く。
俺達に遠慮して栗河さんから離れてるのかな、なんて思いとりあえずじっと見てるのも変だしまだ知り合ってるわけでもないのに頭を下げるのも変か…と思考は自己完結し佐久間さんからソッと目を逸らす。
そのタイミングで挨拶が終わっていた2人が俺に声をかけてきた事もあり佐久間さんの目がどんな表情を浮かべていたのか、気付かないまま佐久間さんに背を向けた。
「唯兎君、明日は栗河さんの家にお泊まりするんだって?」
「え?あ、うん。兄さんのご飯カレー作っていくから安心して」
「その心配はしてないけど、もし帰りたくなったりしたら連絡してね。僕迎えに行くよ」
「大丈夫だよ、兄さんは心配しすぎ」
クスクス笑って見せると、兄さんは少し安心したのかソッと俺の髪を梳いてくれる。
うん、本当最初の頃に比べたらかなり関係は良くなったな。
かなり怯えられてた頃を思い出すとなんとなく脳内の俺がホロリと涙を流す。
ニコニコと優しく俺を見てくる兄さんは本当に変わってくれたなって、俺を受け入れてくれたんだなと改めて嬉しく思う。
「……じゃあ、俺は仕事に戻るね」
「あ、はい!あの、また夜連絡します!」
「うん、待ってるね」
ヒラヒラ、と軽く手を振りながら自分の仕事に戻っていく栗河さんを見送ると、兄さんにそろそろ帰ろうかと声をかけられ素直に頷く。
帰りにスーパー寄って買い物して、今日の夕飯は…と考えながら出口に向かって歩いていると、ふと佐久間さんの事を思い出し目線を佐久間さんのいた方に向けてみるとそこには既に佐久間さんはおらず栗河さんについて行ったのかな…なんて首を傾げながら兄さんの後を追った。
そして次の日、俺は栗河さんの家にいる。
元々栗河さんと約束をしていた泊まりではなく、昨日栗河さんが兄さんついた嘘だったが俺はそれに対して何も言わずに承諾した。
おそらく何かわかったことがあったのか、もしくは俺に確認したいことがあるのか…そのどちらかだろう。
今日は栗河さんのご両親は帰らないらしく、ゆっくり話せると思うと栗河さんは言っていた。
一昨日座っていたソファに再び座り、栗河さんが用意してくれた飲み物をチビチビ飲みながら栗河さんを待っていると、ノートを1冊と筆記用具を持った栗河さんがリビングに戻ってきてテーブルにそれらを置いた。
「…栗河さん、このノートって…」
「あぁ、俺が覚えてるゲームの内容とか唯兎君の話をまとめてみたんだよ。俺もゲームは100%攻略できてるわけじゃないし、あまり深くやってなかった部分はこっちにいる間に忘れちゃったりしてたし」
そう言いながらパラパラめくったノート中は誰の攻略でどうイベントがあったのか、誰の攻略の中で七海唯兎の行動はどうだったのかなど細かく書かれていた。
その中には見慣れた名前の中に見知らぬ名前もあり、出会っていないキャラもいるのか…と当然な事を考えた。
だって、俺は主人公じゃない。
主人公にしか出会えないキャラがいても不思議ではないだろう。
1人納得しながらノートを見つめていると、隣に座った栗河さんが藍田さんの名前の箇所を指差しながら一つ一つゲームの内容を説明し始めた。
つまり、簡単にまとめてしまえばこの世界はゲームでの出来事は何も反映されていない、全く別物の世界である事。
だからゲームでの知識はほとんど役に立たない、お互いに相談し合いながら原因を探していく必要があるという事。
「唯兎君はもちろん、俺も何か変わった出来事があったらすぐに連絡する。何があるかわからないから、本当に小さなことでも連絡して」
「…それは、攻略対象や兄さんのことだけ…ですか?」
「…お友達の事も連絡していいよ、心配だもんね」
ふと不安になった箇所を確認しようとソッと栗河さんを見上げてみると、わかってると言わんばかりに優しく目を細めて俺の頭を撫でた。
撫でられた後を自分の手で押さえながらコクン、と頷くと満足気に頷き返した栗河さんにこの人には勝てる気がしない…と自分に苦笑してしまった。
「つまり、ゲームと違って攻略出来る選択肢がなんなのかもわからないし、どうして藍田和彦が消えたのかもわからない。とりあえず今伝えられるのはここまでなんだ。何もわかってなくてごめんね」
「いえ、ゲームの流れと全く違うとわかっただけでも助かります。ゲームの流れそのままだと、結局抗えないのかもと落ち込んでしまったかもしれないんで」
「…大丈夫だよ、唯兎君を助けるために俺はいるんだから。不安になったり、気になることがあればすぐに頼って」
さて、と立ち上がった栗河さんはキッチンに向かって両手を洗うと夕飯何食べる?と聞いてきた。
お昼を食べてからこちらに来たが、あっという間に夕飯の時間になっていたようだ。
カーテンの開いている窓を見てもまだ陽が高く、時間というものを忘れてしまっていた。恐るべし、夏。
俺は栗河さんに一言伝えてから窓のカーテンをシャッと閉めると、キッチンに立つ栗河さんの方へ向かう。
今日は何食べるか、なんて言いながらも切った野菜を冷たい水に浸していく栗河さんは作り慣れている事が伺える。
「特にリクエストがなければ肉じゃがとか、煮物とか…あとは生姜焼きとかもいけるよ」
「あ、俺!煮物得意なんで作ります!キッチン使っていいなら、ですが…」
「それは勿論いいけど、申し訳ないよ」
「いえ!今日泊めてくれる訳ですし、それくらいは俺にやらせてください!」
魚は昨日使っちゃったんだよね、なんて冷蔵庫を覗く栗河さんにパンっと両手を叩いて今思いついた事を提案すると優し気な瞳が驚きに変わる。
1人でやらせるのは…と首を振りそうな栗河さんにお願いします!と頭を下げるとクスクスと優しい笑い声が聞こえて顔を上げる。
「わかった、じゃあお願いしようかな」
「は、はい!あの、作ってる間お風呂とか…横になっててもいいですしゆっくりしてください!」
「ん、ありがとう。じゃあ先にお風呂入らせてもらおうかな」
どこか微笑まし気に俺の頭を撫でた後、火には気をつけてねとだけ残してリビングから去っていった。
テレビの音が残るリビングで1人よし、と気合を入れてみるとそのまま煮物を作るためにキッチンへ戻った。
慣れないキッチンではあるが、必要なものを先に出しておけば問題はない筈。
もう一度よし、と胸の位置で拳を作ったあと鍋や調味料を並べていった。
美味しそうな匂いがし始めた時、パタパタと栗河さんがスリッパを鳴らしながらリビングへ戻ってきた。
髪はまだ濡れていて、軽くタオルで拭きながら入ってきたが手にはドライヤーなど何も持っていない。
「栗河さん、風邪引きますよ?」
「大丈夫、いつもこうだけど風邪なんて引いてないよ」
「…前の時、佐久間さんがやってくれてましたね?」
「あー…ははは…」
気まずそうに頬をぽりぽり掻きながら笑う栗河さんにドライヤーを持ってきてください、と言うと素直に洗面所まで戻っていった。
俺も人のこと言えないけど、前の時兄さんにやってもらってたし…。
でもこの世界に来てからは今の兄さんの髪もやってあげていることから、なんとなく髪はしっかり乾かさないとと考えるようになった。
俺は鍋に火をかけたまま蓋をしてしっかり具材に味が染みるように暫く置いておくことにした。
ドライヤーを持って戻ってきた栗河さんをソファに座らせると、後ろから髪を乾かしていく。
サラサラであるが、ほんの少し癖っ毛なのか乾かした側から跳ねる部分がありなんとなく可愛く思えてくる。
くふくふ笑いながら髪を乾かしていくと、振動で気付いたのか不思議そうに栗河さんが首を傾げていた。
俺もお風呂を借り、ご飯を食べた後はそろそろ寝ようかと栗河さんの部屋に通された。
明日は栗河さんは仕事があるらしく、午前中には家に帰るつもり。
…そもそも、兄さんが『早めに帰って来て欲しい』って栗河さんに伝えていたらしく、栗河さんの仕事がなくても早めに帰らないといけなかった。
「栗河さん、すみません…ベッドお借りしちゃって」
「いいのいいの、唯兎君が使ってくれないと誰も使わないからね」
「…一緒に床で寝ます?」
「それも良し」
クスクス笑い合いながらブランケットを身体にかけると、栗河さんが電気を消した。
薄暗くなった室内で寝やすい位置を探してモゾモゾしていると、たまたま栗河さんと目が合う。
「…俺、栗河さんに会えてよかったです」
「うん、俺も唯兎君に会えてよかった。やっぱり不安なものはあるからね」
「栗河さんも、佐久間さんとのこと…不安いっぱいですよね」
「流石にね」
あはは、なんて苦笑いしているものの目が揺らいでいるのが暗い室内でも見えてしまう。
栗河さんは俺に弱音は吐かないし、何かを聞こうとしても上手くはぐらかされてしまうから上手く聞き出して悩みを聞こうなんて事も難しい。
栗河さんが唯一弱い部分を見せられるのは、佐久間さんだけなんだ。
既に寝る体制に入って目を閉じている栗河さんを見つめてから俺もソッと目を閉じ…早く栗河さんと佐久間さんが幸せになれますように…と心の中で願った。
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次の日、俺は仕事のため映画館に向かっていた。
朝は昨日唯兎君が作ってくれた煮物を2人で食べ、早いうちに唯兎君は家を出た。
どうやら今日はご両親が一度帰ってくる事になったそうで、七海照史からも早めに帰してほしいと頼まれていた。
どのみち俺も仕事があり、早めに帰す予定ではあったからそれに関しては無問題であったし、また会う事や何かあればすぐに連絡する事を約束したからまた近々予定を組もうと思っている。
…正直今回の泊まりの目的は唯兎君の心のケアだったから、目的自体は達成出来ている。
唯兎君の話を聞いて、弱音を吐かせて、気持ちを落ち着かせる。
そして、前の世界と変わらない雰囲気を感じさせてケアをする。
実際、唯兎君も帰る頃には表情が明るくスッキリした様子でいたため今回の泊まりは大成功だったと言えよう。
仕事の時間となり、ホールに出ながら次はどうするか…と考えていると向いから佐久間が向かってきている事に気が付かずそのままぶつかってしまった。
「わ、ごめん佐久間」
「…この前、ここで話してた子は誰?」
「…へ?」
ぶつかってよろけた身体を支えてくれている手にほんの少し力が入っている。
何か、緊張してる…?
佐久間の顔を見てもいつも通り、何も変化のない表情であったがなんとなく身体が強張っている気がした。
「…あの子はただの知り合いの子だよ、最近ずっと落ち込んでたから手助けしたくて…」
「あの子が好き、とかではないんだな?」
「好きだとしても、友愛の方だよ。俺が好きなのは佐久間。知ってるだろ?」
強張っている佐久間の手に俺の手を添えて、しっかり目を見てそう答えると少し落ち着いたのか俺の身体を支えていた手からゆっくり力が抜ける。
信じてくれた、のかな?
目を閉じて何かを考えている佐久間は何を思っているのかは分からないが、一つコクンと頷いた姿で俺はホッと息を吐いた。
とりあえず、今は信じてくれるようだ。
改めてホールに向かって歩き出せば、佐久間もそれに着いてホールに向かって歩き出す。
「…な、今日仕事終わったらうち来るか?」
「え?…んー、今日はちょっと難しいかも」
「…そうか」
断れば少し残念そうに引き下がる佐久間になんとなく一つの単語が脳裏をよぎった。
…けれど、おそらく違うだろうと頭を振ると少し乱れた俺の髪をソッと佐久間が直してくれる。なんとなく、懐かしい感覚。
「…ありがと」
「おう、あまり無理するなよ」
「…ん」
佐久間、違う…よな?
その態度や表情を表に出し始めている佐久間を思い出しながら今の佐久間を見上げる。
“嫉妬”
先程よぎった単語。
もしそうだとしたら、佐久間は俺のことを…もしかしたら…。
そう思うと胸が熱くなり、緩みそうな頬を我慢しながら胸を押さえてみる。
ドキドキと高鳴る胸は懐かしいあの感覚、そして………。
気分が浮いているからか、足が軽い。
身体が浮いているような、そんな軽さ。
俺…ふわふわしてる。
そこまで考えてハッと足を止める。
「栗河?」
「…っ、あ…」
今の感覚はなんだ?
浮ついた気持ちからのものじゃない、本当に…ふわふわと、今にも飛びそうな感覚。
足が、足につかないような…身体が浮いていくような…。
自分の存在が、浮いていくような。
そこまで考え両腕を摩った。
何が原因だ?何が起こった?
わからない、少し考えをまとめたい。
静かな場所で、頭をスッキリさせたい。
「栗河、大丈夫か?」
「さ、くま…俺、帰ってもいい?」
「…他の人には伝えとく、帰れ。顔色酷い」
震える身体をギュッと押し込むように自分の身体を抱き込むと、佐久間はソッと俺の身体を支え更衣室の方へ向かい始めた。
先程の感覚が抜けず、佐久間の腕に任せていると向いから丁度ホールリーダーが歩いてくるのが見える。
「栗河くん、どうしたの?」
「体調悪いみたいで、今日帰らせようと思うんですけど大丈夫ですか?」
「え、平気?家まで送ろうか?」
「…、だい、じょうぶです…」
身体の震えがリーダーにも見えたのか、心配そうに声をかけてくれる。
申し訳ない気持ちと、早く帰りたい気持ちでフルフルと頭を振ると佐久間が俺の身体を支えながらリーダーに俺が送るので、と伝えてるのが聞こえてくる。
リーダーもじゃあお願い、と返しているのが聞こえ佐久間を見上げると行くぞと更衣室に向かって身体を押された。
リーダーのお大事に、と言う言葉に軽く頭を下げるとそのまま更衣室へ入った。
「着替えられるか?」
「…ん、ありがと…佐久間は戻っていいよ。1人で帰れる」
「そうもいかないだろ、ほら上着。着替えしんどいならベストだけ脱いでカーディガン着て帰るぞ」
大丈夫、なんて言葉はもう佐久間に効かないのか甲斐甲斐しく俺の着替えを手伝ってくれる佐久間に全てを任せる事にした。
着替え、荷物、タクシー全てを佐久間に任せるとあっという間に家に着いており俺はホッとしながらタクシーから降りた。
「あ、お金…」
「俺はこのまま戻るから金はいい。体調気をつけろよ。身体冷やすな。具合悪化したらすぐに呼べ」
「う、うん…あり、がと…」
じゃあな、とだけ残してタクシーで戻っていく佐久間を見送ると俺はヨロヨロと玄関を潜りリビングのソファに横になった。
…あの感覚は一体なんなんだ。
ふわふわとした、気持ちが浮いた感覚なんて生易しいものではない。
…本当に身体が浮いたような…もっと、何かあと一押しあれば…自分が消えていたんじゃないかと思うようなあの感覚。
先程の感覚を思い出すと、何故か身体が震える。
一体なんだ、何が原因だ。
考えても何が原因なのか、曖昧だ。
直前まで考えていたのは…佐久間が嫉妬してくれたかもしれない?胸がドキドキした?
改めて同じことを思ってみても、何も変化はない。
…わからない、なんだアレは。
出勤してすぐに早退なんて事になってしまったため、時間はまだお昼時。
…流石に、家族団欒の時間に連絡するのは…可哀想だよな。
スマホをソッとテーブルに置くと、俺は自分の身体を抱えるようにソファで丸まった。
…また、後でゆっくり考えよう。
今はこの身体の震えを止めたい。
フルフルと震え続ける身体を抱え、俺はソッと目を閉じた。
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