2 / 83
第二話
やぁ、ここは俺の新しいお部屋。
天井は至って普通。
ベッドはシングル。
壁にはカレンダー。
勉強机とその近くには本棚もある。
うん、小学2年生に与えるにはなかなかに素晴らしいお部屋である。
そんな俺、七海唯兎が気を失ってから割と経っているようで外はすっかり暗くなってきていた。
まだ夜という時間ではないにしても夕方ではあるのだろう。
ベッドの上からチラッと机にある時計を見てみれば18時をすぎていることがわかった。
「…本当に転生、したんだよな…?」
手の甲をつねってみてもピリッと痛みが走ったため、夢でないことが伺える。
俺は確かに受験に向かう道中、熱中症になり…ってそもそも受験時期に熱中症ってなんだよ?って思うのだがあの感覚は確かに熱中症のそれだった。
部活中たまに水分を取る事を忘れて動き回ったあと熱中症になりかけて怒られる、そんな経験があったからこそわかる。
何故、どうして、時期的にも…といろいろ考えることはあるにしても今考えたところで何も変わらない。
それよりも今考えないといけないのは今後についてだ。
俺の記憶からすると、俺は兄に嫌がらせを働く。それはもう様々な嫌がらせだ。
兄の靴を隠す、なんて生ぬるいことから始まり両親がいないのをいい事に兄が風呂中にブレーカーを消したり、兄の部屋に大量の虫を放ったり……見知らぬ男に兄を襲うように仕向けるなど、人とは思えないような事をしていたとゲーム内の説明で見た記憶がある。
流石にそんなこと俺はしない。
けど、よくある「物語の修正」なんて言葉。
悪役がどんなにいい事をしようとしても「物語の修正」が入り、いい事が裏目に出て悪事を働いた事になる。
なんて、転生ものの小説などではよくある話だ。
確かに俺は主人公を虐める気なんてないし、施設に入れられるような事をしようとも思ってない。
それに対して、この世界がどう反応するか…わからない。
どうしよう、俺が何もしてなくても起きた事全てが「俺がやった事」になったら
そう思うと怖くて怖くてたまらない
しかし、ずっとベッドの中にいるわけにもいかない
ゆっくりと身体を起こしてベッドから離れようとした時
コンコン
「えっと、唯兎くん…大丈夫?おきた?」
と控えめな声で心配するような言葉をかけながらゆっくり扉を開ける照史の姿があった。
「唯兎くん、急にたおれてびっくりしちゃった。大丈夫?」
ああ、なんて出来た子なんだ
まだ小学4年生、前世の俺なんかそのくらいの時ただただ走り回って母さんに怒られてた記憶しかないぞ。
「う、うん。もうだいじょうぶ。びっくりさせてごめんね」
「ううん、何もなくてよかった。お母さん達下にいるけど一緒に来れる?」
こくん、と頷くと照史はにっこりと笑って俺の手を握ってゆっくりと下に連れて行ってくれた。
急に「弟だよ」って紹介されて驚いてないはずがないのに、この子は本当に凄いな。
と考えた時胸の中に「もやっ」とした何かが生まれた。
なんだ?と考えるまでもない、これが原作の「弟の嫉妬心」なんだ
精神年齢高校3年だぞ、それなのにその嫉妬心を感じるって…
「唯兎くん、大丈夫…?」
思わず足を止めてしまった俺を心配して照史は下から覗き込んで俺の顔を見てくる。
はっとしてこくん、と頷けば良かったと微笑んでまた歩き出す。
俺、この嫉妬心を抑えながら生きていかないといけないのか
なんとか、この嫉妬をぶつけないようにしないと…俺は施設送りにされてしまう…。
実際にその嫉妬心を感じてしまう事に恐怖を抱き、照史の手をキュッと握ると照史もキュッと握り返してくれる。
それに対する不快感は、ない。
小さく息を吐いて、前を歩く照史の背中を見つめて「がんばるよ…」と声に出さずに口を開いた。
「おお、唯兎!大丈夫だったか?」
「唯兎くん、もう体調悪いところない?」
父さんも再婚相手である母さんも優しく迎えてくれた。
小さな声で「大丈夫」と伝えると優しく頭を撫でて椅子に座るように促される。
椅子に座って出されたジュースを飲んでると、真面目な顔をした父さんから声をかけられる。
「唯兎、実はな…再婚を急いだのは訳があるんだ」
今まで俺に何も知らされてなかった再婚についての話をゆっくり、小学生の俺達にもわかるように話してきた。
つまりこういう事だ。
父さんと再婚相手の母さんは職場が一緒
父さんが海外に長期に渡る出張してる間俺を母さんへ預けておく予定だったが、母さんも海外への出張が決まってしまった。
しかし俺は1度「海外なんか絶対嫌だ」と言ってしまっている為、無理に連れて行くのは正直嫌であり怖くもある。
それならこのまま再婚して子供達2人日本でお留守番してもらおう。
そうなったらしい。
いや、何も大丈夫な事ないねぇ!?
まだ小学生ぞ!?いや、俺は中身高校生だけど小学生ぞ!?
ただ、この話を聞いて「やっぱり海外行ってもいい」というなら連れて行こうと思うとも話している。
チラッと照史の顔を見てみると少し不安そうな顔をしている。
そりゃそうだ、しっかりしている照史だってまだ小学4年…不安しかないだろう。
しかも小学2年の俺を見ながら暮らさないといけない。
これは、物語が変わるとしても照史に選択してもらって俺はそれに従う形が一番かもしれないな。
「…うん、僕は日本にいるよ」
だよなぁ、やっぱり不安だもんなぁ…親元から離れるのはまだはや……ん?
「そうか、照史は日本にいてくれるか」
「唯兎くんもそれでいいかしら?」
「えっ、う、うん…」
てっきり物語が変わって照史と海外へ…なんてストーリーが生まれるかと思っていたがそんな事はなかったらしい。
そういえば妹が
「主人公は凄く弟想いでね、小さい頃から両親がいなかった分弟は守ってあげなきゃって気持ちが凄く強いの!」
なんて話していたのが思い出される。
なるほど、海外出張でいないからこそ自分がなんとかしないとって思ってたんだな…。
「海外に行くのは1週間後なんだ、勿論その間に何をするべきかいろいろ教えて行くつもりだ。特に照史には通帳やカード…銀行とかの使い方とかな」
「…うん、覚える」
「…ずっと家にいてあげられなくてごめんね…」
「大丈夫だよ、僕ももうお兄ちゃんだから」
小学生にしては綺麗な顔で笑っているが、無理してるのが目に見える。
ここは俺もいろいろ出来るってアピールして少しでも不安を減らしたいな…
「ねぇ、僕父さんと住んでた時からご飯作ったり洗濯したりしてたから僕も家事手伝うよ」
照史の服をちょんちょんと摘んで進言すると、驚いた様子でこちらを見た。
「そうそう、唯兎の飯は美味いんだぞー」
「まだ2年生なのにご飯作れるの凄いわね…でも火の消し忘れがないかどうかは照史、ちゃんと見てあげてね」
ゴミ出しも、風呂掃除も、お部屋のお掃除も手伝うよ。
そう言えば照史の表情からは少しずつ曇りが消えていき、俺の手をキュッと握り
「ありがとう、一緒に頑張ろうね」
と綺麗な微笑みでかえしてきたのであった。
あなたにおすすめの小説
主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい
発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』
そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。
そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。
あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。
「あ、こいつが主人公だ」
超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー
【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する
スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。
そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。
当て馬に転生した俺、メインヒーローに懐かれすぎて物語が崩壊しています ~最強の騎士様、俺じゃなくてヒロインを追いかけてください!~
たら昆布
BL
処刑される元貴族に転生していたので婚約破棄して雑用係になった話
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。