木瓜

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夕景の依頼人

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偶に、二人が帰って来ると、寝室で、何かやっている音が聞こえる。

その音を聞くたびに、あの時の事を思い出して、吐く。

何で、お母さん。

あんなことがあったのに、あいつと、そんな事が出来るの。

何で、二人とも、私を邪魔もの、みたいな眼で、見るの。

「…っ」

思わず、車内で吐き出しそうになって、口を抑えて、うずくまる。

喉元から込み上げてくる苦しさと、心をかき混ぜるような強い違和感に、涙が、薄っすらと、滲み出る。

そんな私の背なかを、秋乃の柔らかくて、大きい手が、優しく撫でた。

必死に、涙を堪えて、平静を装う。

「ごめんなさい。車酔い、しちゃったのかも」

一瞬、秋乃の優しい眼差しが、私を包んだ。

そのまま、前を向いた彼女は、私に向かってこう言った。
「家、泊まりに来る?」

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