木瓜

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少女は白い菫に夢を見る

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「考えたよ!何度も、何度も。
それでも、分かりやしない。
彼女が、何を想って、どんな世界を見てたかなんて!」

「そんなの、誰だってそうだ。
他人の心なんて、分かりやしない」

葵の態度は相変わらずだ。

けれど、彼女の声は、どこか震えていて、何かに、怒っているようにも思えた。

「それでも、そんな中で、皆必死に生きてるんだよ。見えないなりに、相手を理解しよとして、見えない中で、辛うじて見えたものを愛して、人は生きてるんだ」

「それでも、私は、その見えないものが、知りたい。知らなくちゃ、いけないんです!」

あの日々に、意味があったと、思えるように。

彼女が、私の名前を呼んで、私に触れて、笑いかけて、その全てが必然であったと、そう、信じられるように。


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