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常連さん
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アイルランドの冬は寒い、ブラックアニス(冬を告げる魔女)や冬の寒太郎(ジャックフロスト)達が、いそがしいそがしと冬を告げに走り…コノハトのコンが雪を降らせている。 その寒いアイルランドの北の小さい村「ドゥル」に一軒の本屋がある。小さい一軒家のような本屋、外は藁の様にザラザラとした壊れかけた木の赤い屋根、壁はアイルランド特有の白い壁に落書きのような字で「本屋、注文承ります」と書かれている。中は外から見れば嘘かと思うほど広く感じられ、綺麗に本が本棚に並べられ、ジャンル分けもしっかりされている。天井のてっぺんにはヴィクトリア朝の豪華なランプが一つポツンとつけられ、本たちを照らしている。 さて、この本屋に一人のバイトがいる、偉大なるミレ族(アイルランドご先祖様の名称)の子供にしては背が低くいが整った顔立ちに、たくましい腕、金髪で緑の瞳をしている、名前はトマスと言う。トマスは本屋に入った瞬間大口をあけて言った「おじさん生きてる?」。おじさんというのはこの本屋の店主ロルガンのことだ、大きな声が本屋中に響くと奥の扉が開いた、扉に巻き付くように掴みトネリコのような細い手、赤い髪は荒れていてゴワゴワと揺れている、牛のように優しい目に大きい眼鏡が明りに照らされて光る、そしてこの頭には古代の幻想世界の知識が詰まっている。扉の奥から猫背ながら2メートルを超える体がひょこひょこと姿みせた。「こらこら、トマス。物騒なことをいうんじゃない。」ロルガンは優しくたしなめた。「いつもの挨拶じゃないですかおじさん!それより注文の品を早く出さないと、マダム・リオッタが来ますよ、さぁ早く!」そう言い返してトマスはロルカンの背中を押しながら注文品の棚へ急いだ。マダム・リオッタとはこの本屋の常連だ、けだるい表情の物凄い美人でいつも紫の服に赤いブローチを付けている足まで届く黒髪に赤い唇に赤い瞳スペイン人のような滑らかな眉がある。 幾つもの名札だ並ぶ大きな棚の中からロルカンはさっと一冊の本を選び出した「うん、これだなあの人の求める本は表紙の綺麗なものだからすぐわかるね」ロルガンは笑いながら言った。「しかし、マダム・リオッタはよく本を注文しますね、これで今週で15冊ぐらいですよ。」「正確には17冊だよトマス。」トマスの言葉にロルガンは指摘をした。「まぁ、あの人は常連さんだし、ここにある本だけじゃ物足りないんだろ、本屋としては申し訳ないがね。」二人がそんな話をしていると、入り口から声がした、艶っぽく少しダルみのある声、マダム・リオッタだ。 ロルガンは長い足をひょこひょこさせながら売り台のとこまで来た。 「相変わらず可愛い歩き方ね、ロルガン。」マダム・リオッタが、笑みを浮かべている。「どうも、マダム・リオッタ、ご注文の本をどうぞ。」ロルガンは本を差し出した。「そんなに急がなくてもいいじゃない、ロルガン、少しお話をしましょうよ。」 「いぇ…話は…その…苦手で。」 ロルガンは人と話すのが苦手だ、というよりトラウマに近い、子供のころから大学まで内気で神話学に打ち込んでいた彼は変わり者で絶好の苛めの対象だった。それで人と話すのは彼にとって苛めの口火を切る合図のようなものと心に刻み込まれており、身内意外とはまともに話もできない様になってしまっていたのだ、なのでこの本屋の接客はトマスの仕事である。ロルガンの唇がカタカタと震え、手も震え出した。これを見たトマスはすぐさまマダム・リオッタに話しかけた「すいませんお客様、叔父・・店主はちょっと調子が悪くて、後の会計は私が…!」 マダム・リオッタはじっとロルガンを見た後すっと彼の手から本を受け取り 「今日もお相手をして頂けないのね…」と悲しい顔をして呟いた。そしてさっとトマスのほうを向き会計を済ませた。トマスはレジのお釣りを確認しながらフイとマダム・リオッタをチラ見したマダム・リオッタはロルガンの方をじっと睨み付ける様に見ていた、「おじさん、なんか彼女に悪い事したのかな、おじさんが対人恐怖症な事を村のみんなが知ってるのに、なぜか毎回この人はおじさんに話しかけてくるし、怒ったような顔をしてるし…」 釣銭を渡すとマダム・リオッタはトマスの手を掴んだ、マダム・リオッタはにっこりと笑って「悪いけど坊や、私今手を痛めていてね、長く本を持てないんだ、運んでくれると嬉しいんだけど…」 トマスは手を握られてドキッとしつつ運ぶことに同意した。本の運搬も彼の仕事のであるし、美人のお願いなら悪い気がしなかった。ロルガンに話をつけ、本を持ちながらマダム・リオッタの後を追った。「そういえば」トマスはふと思った。マダム・リオッタは村一番の美人だ、それは村の女衆もハンカチを食い破りながら認めている。しかし彼女の噂や住所、浮いた話一つ聞いたことがない、小さい村だから噂なんてすぐ広まるのに不思議な話だなと思いながら、彼女の声が聞こえた。気が付くと村のはずれの森への道をマダム・リオッタが歩いている、「あれ?あそこに家なんてあったかな」とりあえず彼女の後についていくトマス、森の中をぐんぐん進んでいくと霧が立ち込めてきた「ちょっと危なくないですかねお客さん、」トマスは聞いた。「あら?どうして?」マダム・リオッタが首を傾げた「いやだって凄い霧ですよ!前もよく見えないぐらい・・」「…あら、じゃあこうしましょうか」マダム・リオッタがクスッと笑うと、視界が晴れたように見えた・・・・いや…違う!霧どころか森、林、木まで見えない・・・・いやそうじゃない……!足元にある!「宙に浮いてるっ!?」 トマスは頭が追い付かなかった、そして自分の足が勝手に進んでいる事に気づいた。声を上げようとする「私うるさいの嫌いなの」 どこからかマダム・リオッタの声が聞こえた。そういえば彼女がいない! そして自分の口が元からなかったかのように口がなくなっているのだ、叫べない! どうにかしようともがこうとするが体の自由が完璧にきかない、「さわがしいわね」またマダム・リオッタのこえが聞こえたっと思ったら、ふっと体の自由がきき、その体は重力を思い出したように地面に落下した。バンッと地面に落下した! と思ったらトマスは暖炉の前で椅子に座っていたカントリー調の部屋に赤いトルコ絨毯が敷かれていた。 「気が付いた?」マダム・リオッタが隣の椅子に座っていた手には注文した本がおかれ20ページほど読み進めたのがわかる。 トマスはさっきまでの間隔をしっかりと覚えていた。そして口を震わせながら、椅子を飛び起きてこういった「ま・・!魔女」ロンガルの影響で幻想世界の知識を持っていたトマスは化学やら理屈やらを無視して、そう叫んだ。「あ、あなたは、まままままま、魔女!なんですね!そうでしょ!」 マダム・リオッタは静かに立ち上がりクスクスと笑っている…次の瞬間、トマスは彼女が天井を歩いているのを見た…いや違うトマスが天井にたっているのだ!部屋が反転したのだ! ゴンとかつて屋根だった床に頭をぶつけ、痛みにのたうちだすトマス 「私の正体を瞬時に理解するなんて最近の若者にしては頭の回転が速いわね、回転したのは部屋だけど」 マダム・リオッタはくすくす笑いながら答えた。トマスは頭を押さえながら怒鳴るように尋ねた「何が望み何ですか!叔父さんに聞きました!魔女は自分の望みがあるときじゃないと人を家に招かないって!そして客にその望みを無理やり叶えさせるまで帰さないって!」 マダム・リオッタはニヤリと笑った、すると彼女の周りに緑色の炎が舞い上がり、あちこちから悪魔のような笑い声が聞こえた。 「よくわかってるじゃないか、トマス坊や…そう私には今とても欲しいものがある、喉から手が出るほど、心臓を串裂いて悪魔を生み出しても欲しいものが!!!」 マダム・リオッタは口が耳まで裂け目は黒くなって瞳の赤だけが残り火花を出している、足はヤギの様になり腕は大きく牛のよう指は触手の様になり、頭に二本の槍のような角が剥き出した。その姿にトマスはさっきの威勢が吹っ飛びしりもちをついた。 マダム・リオッタは彼がしりもちをついた瞬間トマスに飛びついた! 「ひぃ!」と目をつぶってのけぞった瞬間、声が聞こえた「ロンガルの趣味 特技 好きな場所 好きな映画 愛読書 体の弱いとこ 好物 好みのワインと菓子 何を言われたら喜ぶのか どうすれば会話をしてくれるのか 全部私に教えなさい! さぁ 早く!!!!!!!!!!!!!!!」 「はっ?」 あまりにも意外な言葉に目を開けた、するとそこには、いつもの人間のマダム・リオッタの姿 いや いつものけだるさがなく必死な表情を浮かべ頬は少し赤くなっている。とてもかわいい、まるで乙女のようだ。 「どうした!早く答えろ」 マダムは必死にトマスの体をゆらしながら質問をしている。必死になりすぎてトマスの首が5に見えるほどだ、「ちょっちょっとまって、なんで叔父さん!?なんで叔父さんの事を知りたいんだ!?」 マダム・リオッタは顔を真っ赤にしながら答えた「ロンガルを愛しているんだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
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