本屋と魔女

冬目マコト

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小さい村「ドゥル」の隣には広大な森林が存在する。
そこには様々な魔法に関した伝説があり、馬の女神エポナの散歩道だとか、光の貴公子キアンの若かりし頃の剣の稽古場だとか言われている…
その森の奥、天を木々が覆い、光さえ通さぬ闇の園にアイルランドにはにつかわしくないアメリカ式の古ぼけたログハウスが立っている近くには沼があり腐った水はシュウシュウと泡を吐いている。そのログハウスに一人の青年と悲観にくれて顔を手で覆い泣きじゃくっている女性がいる。トマスとマダム・リオッタだ、マダムはトマスの叔父にして小さな本屋の店主ロルガンに恋しておりどうにかしてお近づきになりたいと画策していたのである。それでロルガンのバイトであるトマスに話を聞きロルガンについて聞き出そうとしたのだが彼はそれ以前に対人恐怖症だと聞いてまともに話す事の困難さにショックを隠せないでいたのである。
「あああ…なんてこと、あの方がそんなことになっているなんて、こんなことなら子供の時にさらっておけばよかった…あの時のあの人はいつも希望に満ちた目をしていたから…」 マダムが泣きながら口を開いた、涙は止まることを知らずボトボトと流れ湖を作り出している…  「叔父さんと昔会ってるんですか?」トマスが質問をした、彼女が魔女で魔法をかけられたときは面を食らったが、叔父への愛を知った時には後輩を励ます中学生のような心持になっていた。
「ええ…よく知っているわ、彼はね、昔、子供の頃、よくここに来ていたのよ、神話?とか言ってたわね、私達がよくお世話になる親愛なる大園主の昔話の事をそう言ってゆかりの地を探してたわ。私は彼より幼くてね…家で一族にしきたりやマナーとかしつこく教えられてたのよ、ホントにうんざりする位、カエルの解剖の仕方とか、ネズミをどう引き裂くと占いができるとか・・ホント!・・・・コホンっ  ともかく私は家でうんざりしてたのそれでよく抜け出して、この森で遊んでた、そして彼に出会ったの、今と変わらずハンサムな顔をしていたわ、心優しく紳士で…ボジョレーにも負けないくらい甘い声もしてた。」 「ハンサム?」トマスはツッコみたかったがマダムのうっとりした顔をみて口をつぐんだ、マダムの話はまだ続く「魔女なんて普通は気味悪がられるか、頭のおかしい人と思われて相手にもされないけど、彼は優しく笑顔で受け入れてくれたわ、それでよく一緒に遊んだの、遺跡探索とか…マシュマロやお菓子を持ってきてくれたこともあったわ、焼いてビスケットにはさんで食べるの!チョコを混ぜて、美味しかったわ…あの厳しかった家での修行も彼と一緒だったから乗り越えられたの、あの人はいつも言ってた「嫌な時間はジッと耐えていれば乗り越えられる」って…  あの人は耐えることで傷ついてしまったみたいだけど…」マダムの顔に涙が浮かんでいる、まるでロルガンの苦痛を自分が代わりに受けれればというような引き攣った涙だった。
 トマスは彼女をみて何とかしようと思ってはいるが何を言っていいかわからず手が踊っている。そしてやっとの事で口を開いた「いやしかし、叔父さんも結構なドジを踏んだりしてたらしくて、あの~からかわれらすい体質だったんですよ、大学の時なんて、試験の日を間違えて、第一志望を落としちゃったんですからね!ハハハ」
その言葉を聞くとマダム・リオッタは目つきを変えてトマスに言った
「違うのあの大学の間違いを起こしたのは私のせいなの!!!」
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