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プロローグ2
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「あ、早速メール便が来てる」
今日も近藤守と都築理沙に一重ネタでディスられ、更に客の子供に泣かれ、と散々な一日だった……。いや、いつものルーティーンと呼ぶべきか……。しかし一日の安息はやはり家だ。
マンションの入り口の集合ポストで長方形の厚みのないダンボールを発見し心の中でガッツポーズする。
――送料無料の割には、届くのが早いじゃない。
私はお宝手に入れた盗賊のごとく、ダンボールを小脇に抱え口笛を吹きながらエレベーターに乗る。
チン、と私の住む4階でエレベーターが止まる。
405号室に向かい、猫のキーホルダーが付いた鍵を鍵穴に差して回す。
チャコちゃん、今日も元気かな、ママのお帰りだよん♪
ガチャッとノブを掴んで回す。鉄扉を開くとみゃぁ、っとチャコちゃんの鳴き声が聞こえてくる。
「ママのお帰りだよん。今日も自宅警備ご苦労様」
みゃあっ! と元気の良いお返事が返ってくる。けれど、これは多分……腹減った早く飯! と言っているのだと思う。
はいはい、ちょっとお待ちを。
カバンとアイプチが入っているであろうメール便を机に置いて、チャコちゃんの御飯作りに取り掛かる。
冷蔵庫からオーガニックキャットフードの袋と、海外から取り寄せたラム肉の缶詰を取り出す。
猫は魚が好きだと思う人が多いけれど肉食だ。ネコ科の動物で有名なのはライオンだけど、何を食べるかお考え頂ければおのずと答えが出てくる。
私がキャットフードを冷蔵庫で保管しているのには訳があって、酸化を防ぐ為だ。勿論空気に触れた時点で酸化していくので完全に酸化を防ぐ事は出来ないけれど、手を打たないよりはマシである。
少しでも新鮮な御飯を口にしてもらいたい。そして長生きしてもらいたい。この子だけが私の生きる理由になっているから……。
チャコちゃんのいない生活を思うとゾッとする。ディスられ否定される日々……そんな地獄の日々に存在する清涼剤、それがチャコちゃんなのである。
キッチンの流し台の上で、トラ柄、黒白柄、サビ柄と様々な柄の猫がプリントされた陶器の御飯皿にオーガニックキャットフードを流し込む。
そこに、スープ状になっている羊肉の缶詰めをスプーンで流し入れる。それを混ぜ混ぜしてチャコちゃんの御飯は完成だ。
チャコちゃんが流し台の下から背伸びして、今か今かと御飯を待っている。
「はい、チャコちゃんお待ちどう様」
6畳のダイニングの隅っこがチャコちゃんの食事スペースになっている。
そこにお皿をそっと置いて、猫の顔を象った陶器のお皿を持ち上げ再びキッチンに向かう。
これはお水を入れるお皿で、毎日帰って来るたびに残りの水を捨て、撫でるようにして水洗いする。
新しい水を注ぎ、再びダイニングに戻るとチャコちゃんが凄い勢いで私の特製『オーガニックキャットフードの羊肉添え』にがっついていた。
「美味しそうに食べておるねぇ。良く食べるのだぞチャコちゃん」
チャコちゃんにそう声をかけて、私は自分の夕食をそっちのけで例のメール便に手を伸ばす。
ダンボール箱は思っていたよりも軽く、降ってみるけど何も音はしない。
――ほんとに中身入ってんのかしらこれ?
まぁ、いいや。開けてみよう。
バリバリッとガムテープを豪快に剥がす。
小ぶりなダンボールを開くと中にはプチプチに包まれた細長い箱が入っていた。
箱の表面には金色の文字でデカデカと"スーパー二重DX"と書かれている。
その文字の下には"強力接着成分配合""一塗りでくっきり二重に!"の文字。
まぁ、よくあるアイプチ(二重まぶた接着剤)の触れ込みが書いてある。
でも、今回は私の分厚い一重瞼に良い変化が現れるかも、と期待してしまう。
その度に裏切られる結果になるのだが、期待してしまうのはやはり私の中にも乙女が存在しているのだろう。
箱を開け説明書を見る。
「どれどれ、フムフム」
やっぱり従来のアイプチと同じ仕様か。
私は早速プラスチック制の容器を確認する。蓋を開けると、中には接着液が入っている。
蓋の先には蓋と一体型になっている細い筆が取り付けられていて、この筆に付着した液体を二重にしたいラインに沿って塗る。
箱の中にはプッシャーと呼ばれる先が枝分かれしたプラスチック製の棒が入っている。
爪楊枝より気持ち大きいその棒を、接着液を塗った瞼に押し当てて瞼を織り込む。
アイプチ(二重瞼接着剤)とはそういう原理で出来ている。
早速やってみるかとアイプチの蓋を開ける前に、念のために説明書の注意事項に目を通してみる。
――瞼のかぶれや、目の腫れが生じた場合は直ちに係りつけの医師にご相談下さい。また本液は強力な為、塗りすぎると瞼がくっついて目が開かなくなる恐れがあります、過度な使用はお控え下さい――
んな馬鹿な。目が開かなくなるって、瞬間強力接着剤じゃあるまいし。
極重一重女は三倍量が基本なのよ。そんな、普通の瞼の子と同じ量じゃ二重なんかになるまじきよ。
極重一重女舐めるなよ、とアイプチの蓋を開け蓋と一体になった筆にたっぷりと接着液を染み込ませ、薄目を開けながらお得意の欲張りラインに塗る。
あんまり二重の幅をとりすぎると失敗するのよね、それはもう殴られたみたいに瞼がめくりあがったりかなり悲惨な状況になるんだけど幅があるほど夢が広がるという事で、これでばっちり二重瞼ゲットだぜ!
接着液を3重に塗ってほんの少し乾かした後プッシャーを瞼に押し込む。そうする事で瞼が織り込まれて憧れの二重が――。
グキッと音をたてて、プッシャーが折れる……。
――ちょ、ちょっとどうゆう事!?
今、なんか固い膜のようなものに刺さった気がしたけど……。
私は驚き目を開けようと――。
――嘘でしょう!?
目が開かない、どうして!?
私は大慌てで、トイレに駆け込み鏡に映る自分の姿を確認しゾッとする。
右目の二重ライン周辺が瞬間接着剤を塗ったかのごとく白い膜で覆われている。指で触れてみるとその感覚は二重瞼専用の接着成分とは明らかに異なる強固な接着成分だった。
――これ、ただの接着剤じゃね?
私は慌ててダイニングに戻り、説明書を確認する。販売元に『インチキ商事』という文字を見つけ愕然とする。
インチキ商事は二重瞼関係の化粧品を販売している会社で、その評判は著しく悪い。インチキで買うなら100均で買った方が1000倍マシと言われているぐらいに品質が悪い。
確か、数年前に摘発されたはずじゃ……。
大慌てで、説明書に記載されている電話番号に電話をかける。只今お掛けになっている電話番号は現在使われていません、ピーというアナウンスが流れる。
――騙された!?
一重おばちゃん大ピンチ! しかし……私はどうしてこうも安直なんだろう。御飯を食べ終わったチャコちゃんが驚いた表情で私を見ている。
「チャコちゃん、ママ大ピンチなのよ。ちょっと病院に――」
そう言ってチャコちゃんをケージに入れようとした所
「フシャーッ!!」
と、まるで別猫のような表情で威嚇される。
もはや別人認定!? 私は悲しい気持ちでチャコちゃんに声をかける。
「チャコちゃん酷い……。そんな威嚇せんでも。でも確かにママ怖い顔してるね。病院に行ってくるからいい子に待っててね」
そう声をかけるけど、チャコちゃんは凄まじい形相で私を見てくるのだった。
))
「きゃっ、どうされたんですか!?」
受付の若い医療事務の女性が小さな悲鳴を上げる。
近くの行きつけの眼科は閉まっている時間だったし、仕方なしに近所の大学病院の時間外受付に一重おばちゃんはやってきた。
受付の女の子は、パッチリ二重でとても可愛らしかった。
「あの、今流行りのDIYをしていて、愛猫の為にキャットタワーを作っていたら、接着剤的なものが顔面に飛んできてしまって……」
と大嘘をつく。おばちゃんが夜にウキウキしながらアイプチしていたなんて、もはやホラーなので口が裂けても言えない。
「それは大変! お待ち下さい、今先生呼んできます!」
受付の医療事務の女の子は可愛いだけじゃなくて、いい子だった。
もし転生なんて事が出来たらあんな子に転生したいもんだわ、と夢想する。
私の趣味はいわゆるネット小説を乱読する事だ。今流行りの転生ものを休みの日にチャコちゃんをお腹の上に載せながら、スマホで見るのが日課になっていた。
――私が転生するとしたら、薬師になるのかしら。薬剤師が薬師なんてギャグみたいだけれど。
「だ、大丈夫ですか! わっ、大変だ! すぐに診察室に!!」
慌てた様子で出てきた先生は、色白でサラサラヘアーの若くてイケメンな先生だった。勿論くっきり二重。こんなお恥ずかしい姿をと思いながら、私は先生の後を付いて診察室に向かう。
「ちょっとよろしいですか」
診察室に着き椅子に座ると、イケメン先生が私の右目付近を触る。
「瞬間接着剤ですね。しかもかなり強力な奴だ」
イカリ商事の野郎!! と心の中で毒づく。
「今すぐ切開手術をしないと大変な事になります。緊急手術です」
「えぇぇー! そんなに大ごとなんですか」
「ボクも正直、ここまでの量の瞬間強力接着剤を瞼に付着させた患者さんを見るのは初めてなんです。でも、これは明らかにマズい状況です、最悪目が開かなくなる恐れがありますし最悪命の危険も……」
「そ、そこまでなんですか!?」
アイプチおばちゃん悲しい。まさかのアイプチで命を落とすなんてシャレにならないわ……。
しかも、ただでさえ目が開いていない状況なのに、この期に及んで目が開かなくなるなんて……。
私は絶望した。
ガラガラっと診察室のドアが開いて、移動式のベッドを押しながら看護師が2人が入室する。
「すまない、緊急手術だ。今すぐにICUへ!」
「解りました! さっ急いで!」
看護師に促されてベッドに寝転がる。
私そこまで重篤!? アイプチだよ、目に付ける糊だよ? という私の突っ込みは聞こえるはずもなく移動式ベッドが勢い良く動き出す。
一重おばちゃんどうなっちゃうの!?
))
「では、古里香さんこれから緊急手術を始めます」
頭上からイケメン先生の声がする。
「は、はい……」
いきなりの急展開に頭が追い付かない。私はアイプチしただけなのに……。
「この手術は大変危険な手術です。先ほども説明したように瞼の開閉が出来なくなってしまう恐れがあります。最悪、切開中に切り所が悪ければ瞼もろとも死にます」
そこまで!? そこまでの大手術なのね……。
アイプチだからと言って侮ってはいけないわ。全国のJCやJKに声を大にして伝えたい、アイプチ危険、瞼大事。
「それでは、今から全身麻酔をかけます。リラックスして目を閉じて下さい」
私の口元に酸素マスクが装着される。
なんとか無事生還出来ますように、一重おばちゃんファイト! と自分で自分を励ましていた所、急な眠気に襲われる。
私はそのまま深い眠りへと落ちていく。
今日も近藤守と都築理沙に一重ネタでディスられ、更に客の子供に泣かれ、と散々な一日だった……。いや、いつものルーティーンと呼ぶべきか……。しかし一日の安息はやはり家だ。
マンションの入り口の集合ポストで長方形の厚みのないダンボールを発見し心の中でガッツポーズする。
――送料無料の割には、届くのが早いじゃない。
私はお宝手に入れた盗賊のごとく、ダンボールを小脇に抱え口笛を吹きながらエレベーターに乗る。
チン、と私の住む4階でエレベーターが止まる。
405号室に向かい、猫のキーホルダーが付いた鍵を鍵穴に差して回す。
チャコちゃん、今日も元気かな、ママのお帰りだよん♪
ガチャッとノブを掴んで回す。鉄扉を開くとみゃぁ、っとチャコちゃんの鳴き声が聞こえてくる。
「ママのお帰りだよん。今日も自宅警備ご苦労様」
みゃあっ! と元気の良いお返事が返ってくる。けれど、これは多分……腹減った早く飯! と言っているのだと思う。
はいはい、ちょっとお待ちを。
カバンとアイプチが入っているであろうメール便を机に置いて、チャコちゃんの御飯作りに取り掛かる。
冷蔵庫からオーガニックキャットフードの袋と、海外から取り寄せたラム肉の缶詰を取り出す。
猫は魚が好きだと思う人が多いけれど肉食だ。ネコ科の動物で有名なのはライオンだけど、何を食べるかお考え頂ければおのずと答えが出てくる。
私がキャットフードを冷蔵庫で保管しているのには訳があって、酸化を防ぐ為だ。勿論空気に触れた時点で酸化していくので完全に酸化を防ぐ事は出来ないけれど、手を打たないよりはマシである。
少しでも新鮮な御飯を口にしてもらいたい。そして長生きしてもらいたい。この子だけが私の生きる理由になっているから……。
チャコちゃんのいない生活を思うとゾッとする。ディスられ否定される日々……そんな地獄の日々に存在する清涼剤、それがチャコちゃんなのである。
キッチンの流し台の上で、トラ柄、黒白柄、サビ柄と様々な柄の猫がプリントされた陶器の御飯皿にオーガニックキャットフードを流し込む。
そこに、スープ状になっている羊肉の缶詰めをスプーンで流し入れる。それを混ぜ混ぜしてチャコちゃんの御飯は完成だ。
チャコちゃんが流し台の下から背伸びして、今か今かと御飯を待っている。
「はい、チャコちゃんお待ちどう様」
6畳のダイニングの隅っこがチャコちゃんの食事スペースになっている。
そこにお皿をそっと置いて、猫の顔を象った陶器のお皿を持ち上げ再びキッチンに向かう。
これはお水を入れるお皿で、毎日帰って来るたびに残りの水を捨て、撫でるようにして水洗いする。
新しい水を注ぎ、再びダイニングに戻るとチャコちゃんが凄い勢いで私の特製『オーガニックキャットフードの羊肉添え』にがっついていた。
「美味しそうに食べておるねぇ。良く食べるのだぞチャコちゃん」
チャコちゃんにそう声をかけて、私は自分の夕食をそっちのけで例のメール便に手を伸ばす。
ダンボール箱は思っていたよりも軽く、降ってみるけど何も音はしない。
――ほんとに中身入ってんのかしらこれ?
まぁ、いいや。開けてみよう。
バリバリッとガムテープを豪快に剥がす。
小ぶりなダンボールを開くと中にはプチプチに包まれた細長い箱が入っていた。
箱の表面には金色の文字でデカデカと"スーパー二重DX"と書かれている。
その文字の下には"強力接着成分配合""一塗りでくっきり二重に!"の文字。
まぁ、よくあるアイプチ(二重まぶた接着剤)の触れ込みが書いてある。
でも、今回は私の分厚い一重瞼に良い変化が現れるかも、と期待してしまう。
その度に裏切られる結果になるのだが、期待してしまうのはやはり私の中にも乙女が存在しているのだろう。
箱を開け説明書を見る。
「どれどれ、フムフム」
やっぱり従来のアイプチと同じ仕様か。
私は早速プラスチック制の容器を確認する。蓋を開けると、中には接着液が入っている。
蓋の先には蓋と一体型になっている細い筆が取り付けられていて、この筆に付着した液体を二重にしたいラインに沿って塗る。
箱の中にはプッシャーと呼ばれる先が枝分かれしたプラスチック製の棒が入っている。
爪楊枝より気持ち大きいその棒を、接着液を塗った瞼に押し当てて瞼を織り込む。
アイプチ(二重瞼接着剤)とはそういう原理で出来ている。
早速やってみるかとアイプチの蓋を開ける前に、念のために説明書の注意事項に目を通してみる。
――瞼のかぶれや、目の腫れが生じた場合は直ちに係りつけの医師にご相談下さい。また本液は強力な為、塗りすぎると瞼がくっついて目が開かなくなる恐れがあります、過度な使用はお控え下さい――
んな馬鹿な。目が開かなくなるって、瞬間強力接着剤じゃあるまいし。
極重一重女は三倍量が基本なのよ。そんな、普通の瞼の子と同じ量じゃ二重なんかになるまじきよ。
極重一重女舐めるなよ、とアイプチの蓋を開け蓋と一体になった筆にたっぷりと接着液を染み込ませ、薄目を開けながらお得意の欲張りラインに塗る。
あんまり二重の幅をとりすぎると失敗するのよね、それはもう殴られたみたいに瞼がめくりあがったりかなり悲惨な状況になるんだけど幅があるほど夢が広がるという事で、これでばっちり二重瞼ゲットだぜ!
接着液を3重に塗ってほんの少し乾かした後プッシャーを瞼に押し込む。そうする事で瞼が織り込まれて憧れの二重が――。
グキッと音をたてて、プッシャーが折れる……。
――ちょ、ちょっとどうゆう事!?
今、なんか固い膜のようなものに刺さった気がしたけど……。
私は驚き目を開けようと――。
――嘘でしょう!?
目が開かない、どうして!?
私は大慌てで、トイレに駆け込み鏡に映る自分の姿を確認しゾッとする。
右目の二重ライン周辺が瞬間接着剤を塗ったかのごとく白い膜で覆われている。指で触れてみるとその感覚は二重瞼専用の接着成分とは明らかに異なる強固な接着成分だった。
――これ、ただの接着剤じゃね?
私は慌ててダイニングに戻り、説明書を確認する。販売元に『インチキ商事』という文字を見つけ愕然とする。
インチキ商事は二重瞼関係の化粧品を販売している会社で、その評判は著しく悪い。インチキで買うなら100均で買った方が1000倍マシと言われているぐらいに品質が悪い。
確か、数年前に摘発されたはずじゃ……。
大慌てで、説明書に記載されている電話番号に電話をかける。只今お掛けになっている電話番号は現在使われていません、ピーというアナウンスが流れる。
――騙された!?
一重おばちゃん大ピンチ! しかし……私はどうしてこうも安直なんだろう。御飯を食べ終わったチャコちゃんが驚いた表情で私を見ている。
「チャコちゃん、ママ大ピンチなのよ。ちょっと病院に――」
そう言ってチャコちゃんをケージに入れようとした所
「フシャーッ!!」
と、まるで別猫のような表情で威嚇される。
もはや別人認定!? 私は悲しい気持ちでチャコちゃんに声をかける。
「チャコちゃん酷い……。そんな威嚇せんでも。でも確かにママ怖い顔してるね。病院に行ってくるからいい子に待っててね」
そう声をかけるけど、チャコちゃんは凄まじい形相で私を見てくるのだった。
))
「きゃっ、どうされたんですか!?」
受付の若い医療事務の女性が小さな悲鳴を上げる。
近くの行きつけの眼科は閉まっている時間だったし、仕方なしに近所の大学病院の時間外受付に一重おばちゃんはやってきた。
受付の女の子は、パッチリ二重でとても可愛らしかった。
「あの、今流行りのDIYをしていて、愛猫の為にキャットタワーを作っていたら、接着剤的なものが顔面に飛んできてしまって……」
と大嘘をつく。おばちゃんが夜にウキウキしながらアイプチしていたなんて、もはやホラーなので口が裂けても言えない。
「それは大変! お待ち下さい、今先生呼んできます!」
受付の医療事務の女の子は可愛いだけじゃなくて、いい子だった。
もし転生なんて事が出来たらあんな子に転生したいもんだわ、と夢想する。
私の趣味はいわゆるネット小説を乱読する事だ。今流行りの転生ものを休みの日にチャコちゃんをお腹の上に載せながら、スマホで見るのが日課になっていた。
――私が転生するとしたら、薬師になるのかしら。薬剤師が薬師なんてギャグみたいだけれど。
「だ、大丈夫ですか! わっ、大変だ! すぐに診察室に!!」
慌てた様子で出てきた先生は、色白でサラサラヘアーの若くてイケメンな先生だった。勿論くっきり二重。こんなお恥ずかしい姿をと思いながら、私は先生の後を付いて診察室に向かう。
「ちょっとよろしいですか」
診察室に着き椅子に座ると、イケメン先生が私の右目付近を触る。
「瞬間接着剤ですね。しかもかなり強力な奴だ」
イカリ商事の野郎!! と心の中で毒づく。
「今すぐ切開手術をしないと大変な事になります。緊急手術です」
「えぇぇー! そんなに大ごとなんですか」
「ボクも正直、ここまでの量の瞬間強力接着剤を瞼に付着させた患者さんを見るのは初めてなんです。でも、これは明らかにマズい状況です、最悪目が開かなくなる恐れがありますし最悪命の危険も……」
「そ、そこまでなんですか!?」
アイプチおばちゃん悲しい。まさかのアイプチで命を落とすなんてシャレにならないわ……。
しかも、ただでさえ目が開いていない状況なのに、この期に及んで目が開かなくなるなんて……。
私は絶望した。
ガラガラっと診察室のドアが開いて、移動式のベッドを押しながら看護師が2人が入室する。
「すまない、緊急手術だ。今すぐにICUへ!」
「解りました! さっ急いで!」
看護師に促されてベッドに寝転がる。
私そこまで重篤!? アイプチだよ、目に付ける糊だよ? という私の突っ込みは聞こえるはずもなく移動式ベッドが勢い良く動き出す。
一重おばちゃんどうなっちゃうの!?
))
「では、古里香さんこれから緊急手術を始めます」
頭上からイケメン先生の声がする。
「は、はい……」
いきなりの急展開に頭が追い付かない。私はアイプチしただけなのに……。
「この手術は大変危険な手術です。先ほども説明したように瞼の開閉が出来なくなってしまう恐れがあります。最悪、切開中に切り所が悪ければ瞼もろとも死にます」
そこまで!? そこまでの大手術なのね……。
アイプチだからと言って侮ってはいけないわ。全国のJCやJKに声を大にして伝えたい、アイプチ危険、瞼大事。
「それでは、今から全身麻酔をかけます。リラックスして目を閉じて下さい」
私の口元に酸素マスクが装着される。
なんとか無事生還出来ますように、一重おばちゃんファイト! と自分で自分を励ましていた所、急な眠気に襲われる。
私はそのまま深い眠りへと落ちていく。
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