上 下
7 / 12

第7話 失態ですわ。

しおりを挟む
「製造マシーンのお姉さんこっちにお願いしまーす」

「はい! 喜んでー」

「製造さんこっちにも!」

「はい! 喜んでー」

 今日も今日とて、少年騎士見習いの訓練に付き添う日々。
 酒場のお姉ちゃんの如く威勢の良い掛け声でモンスターを召喚していく。
 本来の使用方法とは違っているけれど……。

「ちっぱい、こっちにも」

 モスクが目の前を指さす。
 
 ――くっ、人が気にしている事を。

 あんたには特大のをお見舞いしてくれやがりますわ!
 恨みも篭もっていたのだと思う。モスクの前に見慣れない蛇が召喚される。
 色とりどりの原色に鋭い目つき、あからさまに毒持ってます感を漂わせたその風体にわたくしはたじろぐ。

「なんだ!? この気持ちの悪い蛇」

「ダイダラスネーク!? モスク近寄るなすぐに離れろ!」

「大丈夫だよ団長、大した事ねぇって」

 アルガス様の忠告を無視して、モスクがダイダラスネークに模造剣を振り下ろす。
 蛇の頭が吹き飛び、宙を舞う。
 その刹那、宙を舞った蛇の頭が液体をまき散らす。

「モスク、逃げろ! その液体は毒だ! ダイダラスネークは戦闘能力こそ低いが、体内に猛毒を有してる。しかも死亡時には毒をまき散ら――」

 アルガス様の言葉が止まる。
 飛び散った毒をバックステップで回避したモスクだったが、回避した先にいたダイダラスネークを踏んでしまう。
 「ブシャーッ」と怒り狂った声を上げた、ダイダラスネークがモスクの足首を噛む。

「!?」

 モスクは悲鳴も上げずに、足首に噛みついたダイダラスネークを掴み放り投げる。
 その場に座りこみ、痛みに耐えているモスクにわたくしは駆け寄る。

「モスク大丈夫!」

「……ああ、大した事ない」

 そう、強がるけれど身のこなしが軽い分、今まで負傷した事が少ないのだろう。モスクが充分に動揺している事が表情から伝わってくる。

「サフィアここはわたしに任せて、モスクをすぐに救護室へ!」

「は、はい! モスク行くわよ」

 座り込んでいるモスクに肩を貸す。

「歩ける?」

「……あぁ。悪いな」

 後ろからウォーターソードでダイダラスネークを切りつける音が聞こえてくる。

 ――アルガス様どうかご無事で。

 わたくしはモスクの背中に手を回して、半ば引きずるようにして救護室へと急いだ。

 ¥

「傷はそこまで深くないわね、ただ……」

 白いローブを身にまとい、王家の紋章が刻まれている角ばった救護帽を被った女性が困ったように続ける。

「噛まれた後の変色が、普通の毒を受けた時とは違ってるのよ。どんなモンスターに噛まれたのかしら?」

「アルガス様が、ダイダラスネークって言ってました……」

 わたくしが間髪入れずに答える。

「ダイダラスネーク!? どうしてこんな所に……。あのモンスターは一部の砂漠にしか生息してないはずだわ」

「……」

 わたくしが呼び寄せましたとは言い出せずに黙り込む。

「ダイダラスネークの毒は厄介なの。普通の毒消しポージョンでは消せないのよ。ただ幸いな事に、毒の回りは遅いの。毒が身体の中を完全に回り切るのに3日かかるの」

「3日……」

 3日といってもそう猶予がある訳ではない。

「どうすればダイタルスネークの毒が消せるのですか!」

 わたくしは救護担当の女性に詰め寄る。

「バブルブルグから西に20キロ離れた所にロックという村があるの。そこの村に大分年老いた、調合士のお婆さんがいるんだけど毒専門の調合士でね。どんな毒でも治せる――ってちょっとあなた!」

 救護担当の女性の言葉を最後まで聞かず、わたくしは救護室を飛び出す。

 ――わたくしのせいだわ。

 わたくしがあの時、ビーストソングに怒りを込めたから、変なモンスターを呼び出してしまった。
 だから、モスクの毒はわたくしが治さなくては……。
 全速力で走るわたくしを、城の警護兵が不振な様子で振り返る。
 城門で見張っていた警護兵に止められたが振り切って逃げる。

「せっ、聖女殿どちらに行かれるのですか!」

「すぐに戻ります!」

 バブルブルグの城下町を駆け抜ける。まだお昼前だというのに辺りは薄暗く湿っぽい。
 間もなく雨が降る予兆だろう。
 向かう先に数多のモンスターが生息しているという事もすっかり忘れて、わたくしは城下町の先の深い森へと走り抜ける。
しおりを挟む

処理中です...