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43.ラスボス
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扉の前に中年メイドと並んで立つ。奴の体がカタカタ震えているのが分かる。
私はそれを一瞥し、呆れたように溜息を付くと、扉をノックした。
「何だ?」
中から義父の声がする。
あー、良かった、部屋にいた。実はいなかったらどうしようかな~と思ってたのよね。
「ローゼでございます」
私は澄まして答える。
「おお! ローゼか。入りなさい」
義父の優しい声が返ってきた。私はチラリと意味ありげにメイドに振り向いた。
「大旦那様は私にとても親切なの。だから質問したら誠実にお答えくださるわ」
そんな私の言葉にメイドの震えが一層酷くなった。私を見つめ、懇願するように、
「お、お、お許しください・・・」
と蚊の鳴くような声で呟いた。
「何を?」
私はにっこりと笑った。
「そ、その・・・」
震え過ぎて歯がカチカチと鳴り、言葉を紡げない。
「何を許して欲しいの? 私に足を引っかけて転ばせたこと? 私のことを汚いと嘲ったこと? 私にバケツの水をかけたこと? 何度も聞いているのに名前を教えて下さらなかったこと? それとも私の腕を何度も殴ったこと?」
「あ・・・、あ・・・、そ・・・その・・・」
「後は、私なんかすぐに捨てられるって脅したことかしら?」
メイドは過呼吸気味に息を荒げ、答えられない。
そこにトドメとばかりに扉が開いた。
「それは一体どういうことだ」
そこには怒りの形相の義父が立っていた。
はい、待ってました、ラスボス登場。
★
扉を開けた義父は私を見ると、怒りの形相から一転、驚きの表情に変わった。
「ローゼ! その恰好は?!」
目を丸めて叫ぶ義父。
「申し訳ございません。お義父様。お忙しいところ突然に」
私は礼儀正しく頭を下げた。その間もメイドの手首を放さない。
「なんということだ! 今言ったことは本当なのだな? ローゼ! どういうことだ! 貴様、説明しろ!」
義父は再び鬼の形相に戻り、ギッとメイドを睨んで叫んだ。
メイドはもはや虫の息。震え上がり、立っているのもやっとだ。
「お義父様。廊下では何ですので、お部屋に入れて頂いてもよろしいでしょうか? 私、大変汚れておりますが、お許しくださいませ」
「何か拭くものを! タオルを! おい、タオルを持ってこい!」
義父は廊下にたまたま隠れるように立っていた二人のメイドに声を掛けた。
しかし、そのメイド達もガタガタ震えている。
「結構ですわ、お義父様。お話はすぐに済みますので。あ、でも、水浸しの私のせいでお部屋が汚れてしまいますわね・・・」
「そんなことは構わん! さあ、入りなさい」
義父は私とメイドを部屋に入れると、扉を閉めた。
部屋に入るなり、メイドは限界が来たようで、膝から崩れ落ちた。
そして、そのまま床に頭を付けひれ伏した。
「お、お、お許しください・・・」
「許せだと? ではローゼが言ったことが本当だと認めるのだな? 認めるのならとても許せるものではないぞ」
義父の声は今まで聞いたことのないほど低く、悪くない私でも、傍で聞いていてゾクッと背中が冷たくなった。
「今すぐにこの屋敷から出て行け! いや、屋敷だけじゃない! この領地に留まることも許さん! この領地から出て行け!」
「そ、そ、そんな・・・」
「そんなだと? お前は誰を侮辱したのか分かっているのか? この領地を治めるレイモンド侯爵家の女主人だぞ! それなのにこの領地に居座ることが出来るとでも思っているのか? 時代が時代なら地下牢にぶち込んでいるところだ!!」
まずい、義父の怒りがおさまらない。
こっちは流石にそこまでは求めていない。調子に乗るなと少しばかりお灸を据えようと思っただけなのに!
「お義父様。恐れながら、多少の誤解もあったようですわ」
私は恐る恐る間に入った。
「誤解?」
「はい。その、私もここに来てから、かなり汚く酷い身なりをしたまま屋敷内を動いておりましたので、女主人らしからぬと評されても仕方がない部分もございました。そこは私の不徳の致すところでございます」
「は?! 何を言っているのだ!? どのような姿であれ、貴女は私の息子の妻であり、レイモンド侯爵夫人だ! それは周知の事実なはず。この屋敷で知らぬ者などいない!!」
はい! そうです! ごめんなさい!
怒鳴られて私も背筋がピンとなる。
「それを汚れた姿をしているから女主人に相応しくないなどと、使用人が勝手に評するとは何事だ!」
はい! その通りです!
わーん! しまったぁ! 火に油を注いでしまったぁ!
「しかも嫌がらせなど無礼千万! あるまじき行為だ! 絶対に許さん!」
「お義父様!」
私は思わずメイドの前に飛び出し、膝を付いた。
「お義父様のおっしゃる通りです。ですが、この者もこの通り深く反省しております。今回は目を瞑って頂けないでしょうか?」
私の行動に義父は目を丸めた。
「私が舐められたのは事実。しかし、これは私の不徳の致すところ。日が浅いとは言え、使用人たちとの信頼関係ができていなかったことが原因でございます」
「ここに来て一週間ほどの貴女にそこまで求めてはいない! どのような理由であれ主を侮辱するなどあってはならん事だ! そんな者を雇い養う義理などない!」
「ですが、このまま追い出してはこの者は路頭に迷ってしまいます!」
「だから許せと? それは通らん! 勝手に路頭に迷うがいい!」
「お義父様!」
私は必死で食い下がった。
確かにこの女は意地悪だし気に入らない。私に対する行為も許したくはない。
でも本当に路頭に迷われたら? 野垂れ死にされたら? こっちの目覚めが悪すぎる!
「もちろん、処分は必要です。簡単に許されるものではございませんし、許すつもりもございません。ですが、手段は私にまかせて頂けないでしょうか?」
「ローゼに?」
「はいっ! あ! そうしたらここでの私の初仕事ですわね!! ね? お義父様?」
私は合わせた両手を頬に添えて無理やり笑顔を作り、コテっと可愛らしく首を傾げた。
こんなアーサー向けのテクニック。義父に通じるとは思わないが、こちらも必死。賭けに出た。
「・・・そうか・・・。そこまで言うなら・・・」
え? 嘘? 効いた!? 流石親子!
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
私は勢いよく立ち上がり頭を下げると、腰を抜かしているメイドを無理やり立たせた。
義父の気持ちが変わらないうちにさっさと退散せねば!
「ではお義父様、後ほどお夕食で!」
私はメイドを引きずりながら急いでこの部屋を出た。
私はそれを一瞥し、呆れたように溜息を付くと、扉をノックした。
「何だ?」
中から義父の声がする。
あー、良かった、部屋にいた。実はいなかったらどうしようかな~と思ってたのよね。
「ローゼでございます」
私は澄まして答える。
「おお! ローゼか。入りなさい」
義父の優しい声が返ってきた。私はチラリと意味ありげにメイドに振り向いた。
「大旦那様は私にとても親切なの。だから質問したら誠実にお答えくださるわ」
そんな私の言葉にメイドの震えが一層酷くなった。私を見つめ、懇願するように、
「お、お、お許しください・・・」
と蚊の鳴くような声で呟いた。
「何を?」
私はにっこりと笑った。
「そ、その・・・」
震え過ぎて歯がカチカチと鳴り、言葉を紡げない。
「何を許して欲しいの? 私に足を引っかけて転ばせたこと? 私のことを汚いと嘲ったこと? 私にバケツの水をかけたこと? 何度も聞いているのに名前を教えて下さらなかったこと? それとも私の腕を何度も殴ったこと?」
「あ・・・、あ・・・、そ・・・その・・・」
「後は、私なんかすぐに捨てられるって脅したことかしら?」
メイドは過呼吸気味に息を荒げ、答えられない。
そこにトドメとばかりに扉が開いた。
「それは一体どういうことだ」
そこには怒りの形相の義父が立っていた。
はい、待ってました、ラスボス登場。
★
扉を開けた義父は私を見ると、怒りの形相から一転、驚きの表情に変わった。
「ローゼ! その恰好は?!」
目を丸めて叫ぶ義父。
「申し訳ございません。お義父様。お忙しいところ突然に」
私は礼儀正しく頭を下げた。その間もメイドの手首を放さない。
「なんということだ! 今言ったことは本当なのだな? ローゼ! どういうことだ! 貴様、説明しろ!」
義父は再び鬼の形相に戻り、ギッとメイドを睨んで叫んだ。
メイドはもはや虫の息。震え上がり、立っているのもやっとだ。
「お義父様。廊下では何ですので、お部屋に入れて頂いてもよろしいでしょうか? 私、大変汚れておりますが、お許しくださいませ」
「何か拭くものを! タオルを! おい、タオルを持ってこい!」
義父は廊下にたまたま隠れるように立っていた二人のメイドに声を掛けた。
しかし、そのメイド達もガタガタ震えている。
「結構ですわ、お義父様。お話はすぐに済みますので。あ、でも、水浸しの私のせいでお部屋が汚れてしまいますわね・・・」
「そんなことは構わん! さあ、入りなさい」
義父は私とメイドを部屋に入れると、扉を閉めた。
部屋に入るなり、メイドは限界が来たようで、膝から崩れ落ちた。
そして、そのまま床に頭を付けひれ伏した。
「お、お、お許しください・・・」
「許せだと? ではローゼが言ったことが本当だと認めるのだな? 認めるのならとても許せるものではないぞ」
義父の声は今まで聞いたことのないほど低く、悪くない私でも、傍で聞いていてゾクッと背中が冷たくなった。
「今すぐにこの屋敷から出て行け! いや、屋敷だけじゃない! この領地に留まることも許さん! この領地から出て行け!」
「そ、そ、そんな・・・」
「そんなだと? お前は誰を侮辱したのか分かっているのか? この領地を治めるレイモンド侯爵家の女主人だぞ! それなのにこの領地に居座ることが出来るとでも思っているのか? 時代が時代なら地下牢にぶち込んでいるところだ!!」
まずい、義父の怒りがおさまらない。
こっちは流石にそこまでは求めていない。調子に乗るなと少しばかりお灸を据えようと思っただけなのに!
「お義父様。恐れながら、多少の誤解もあったようですわ」
私は恐る恐る間に入った。
「誤解?」
「はい。その、私もここに来てから、かなり汚く酷い身なりをしたまま屋敷内を動いておりましたので、女主人らしからぬと評されても仕方がない部分もございました。そこは私の不徳の致すところでございます」
「は?! 何を言っているのだ!? どのような姿であれ、貴女は私の息子の妻であり、レイモンド侯爵夫人だ! それは周知の事実なはず。この屋敷で知らぬ者などいない!!」
はい! そうです! ごめんなさい!
怒鳴られて私も背筋がピンとなる。
「それを汚れた姿をしているから女主人に相応しくないなどと、使用人が勝手に評するとは何事だ!」
はい! その通りです!
わーん! しまったぁ! 火に油を注いでしまったぁ!
「しかも嫌がらせなど無礼千万! あるまじき行為だ! 絶対に許さん!」
「お義父様!」
私は思わずメイドの前に飛び出し、膝を付いた。
「お義父様のおっしゃる通りです。ですが、この者もこの通り深く反省しております。今回は目を瞑って頂けないでしょうか?」
私の行動に義父は目を丸めた。
「私が舐められたのは事実。しかし、これは私の不徳の致すところ。日が浅いとは言え、使用人たちとの信頼関係ができていなかったことが原因でございます」
「ここに来て一週間ほどの貴女にそこまで求めてはいない! どのような理由であれ主を侮辱するなどあってはならん事だ! そんな者を雇い養う義理などない!」
「ですが、このまま追い出してはこの者は路頭に迷ってしまいます!」
「だから許せと? それは通らん! 勝手に路頭に迷うがいい!」
「お義父様!」
私は必死で食い下がった。
確かにこの女は意地悪だし気に入らない。私に対する行為も許したくはない。
でも本当に路頭に迷われたら? 野垂れ死にされたら? こっちの目覚めが悪すぎる!
「もちろん、処分は必要です。簡単に許されるものではございませんし、許すつもりもございません。ですが、手段は私にまかせて頂けないでしょうか?」
「ローゼに?」
「はいっ! あ! そうしたらここでの私の初仕事ですわね!! ね? お義父様?」
私は合わせた両手を頬に添えて無理やり笑顔を作り、コテっと可愛らしく首を傾げた。
こんなアーサー向けのテクニック。義父に通じるとは思わないが、こちらも必死。賭けに出た。
「・・・そうか・・・。そこまで言うなら・・・」
え? 嘘? 効いた!? 流石親子!
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
私は勢いよく立ち上がり頭を下げると、腰を抜かしているメイドを無理やり立たせた。
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