いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼

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58.闇

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気が付くと私は堅い地面に横たわっていた。
いつの間にか気を失っていたのだろう。
周りは変わらず暗闇だ。自分が目を開けているかも分からない。

私は横になったまま、そっと自分の手を動かしてみた。自分の顔に近づけてみる。しかし真っ暗闇で目の前にある自分の手のひらが見えない。

「痛・・・くはないか・・・」

てっきり、地面に叩きつけられ体中が痛いだろうと思っていたが、まったく痛みを感じない。
まあ、あれだけの距離を落ちて地面に墜落したら痛いどころじゃないか・・・。衝撃で体中バラバラに・・・。

ん・・・?

「ってことは私、死んだ!? 死にました?!」

私はガバッと起き上がった。
慌てて自分の体中を触ってみる。手はある。足もある。太腿も腹も胸も背中もある。頭だって。

「普通にある! でもどこも痛くないんですけどっ?! ちょっと私、生きてるの死んでるの? どっちよ?」

私は自分の両頬をパチパチと叩いてみた。
痛い。感覚はある。ってことは生きてる? これ本物の肉体? 霊魂じゃない?

ああ! 一回死んで生まれ変わっているとは言え、前世で死んだ直後の記憶なんてない!
あの時私は三途の川を渡ったのか。黄泉の国に行ったのか。天国に行ったか地獄に行ったか。そんな経緯なんぞ全然覚えていない。気が付いたらローゼだったんだから!

真っ暗闇の中、自分の姿も確認できない。自分が生きているか死んでいるかも分からない。

「ってか、ここ何処ぉーーー!?」

私はガシャガシャと髪を掻きむしりながら叫んだ。

「うるさい・・・」

「ひっ!」

思いの外近くで声が聞こえ、思わず小さく悲鳴をあげた。
恐る恐る声がした方へ顔を向ける。

「だ、誰か・・・いるんですか・・・?」

「は? さっきからいるだろう。誰が連れてきたと思っている?」

「え・・・? さっきから?」

私は一瞬混乱した。だが、この声は聞き覚えがある。
そうか、あの悪魔か。

「あの・・・、ここはあまりにも暗くて私にはまったく何にも見えないのですが、あなたは私が見えているのですか?」

私は悪魔がいるであろう方向に向かって声を掛けた。
すると、呆れたような溜息が聞こえた。

「人間にはこの程度の暗さも見えないのだな。目が弱すぎる・・・」

そんな言葉が聞こえると、少し離れたところにボーっと青白い光が灯った。
そこに例の上半身だけの悪魔が浮いていた。
悪魔は右手に光の玉を浮かせている。その光がぼんやりと周りを照らした。

私はゆっくりと周りを見渡した。弱い光は限られた狭い部分しか照らしてくれない。自分がいる場所には何もない。ただ広い闇が広がっているという事だけしか分からなかった。

「あ、あの、ここは? 私って・・・生きているのでしょうか?」

私は遠慮気味に尋ねた。

「ここは我々の領域だ。安心しろ、お前は生きている」

悪魔はそう言うとニッと意地悪そうに口角を上げた。

「生かしておいてやる。ただ、代償は頂く。邪魔ものが来ないうちにさっさと頂くことにしよう」

悪魔の持つ光の玉が一回り大きくなった。心なしか光も強まった気がする。
私は危険を感じ取ったが、成す術がない。彼から投げつけられるであろう光を避けられる気がしない。
それでも、足掻くようにジリジリと後ずさりした。

しかし、それすらも出来なくなった。

体が自分の意思ではピタリと動かなくなったのだ。それなのに左手が勝手に動く。まるで誰かに引っ張られたように無理やり広げられた。

私の呼吸はどんどん浅く荒くなった。悪魔は醜い顔で笑っている。彼の持つ光の玉が高く浮いた。
悪魔が投げるポーズをしたと同時に、浮いた光が真っ直ぐ私に向かって飛んできた。

私は恐怖で目をギュッと閉じた。

しかし、光が突き刺さると思っていたのだが、何の衝撃も無い。
眩しい光で覆われるどころか、影が落ちたように感じ、私は恐る恐る目を開けた。

私の目の前には大きな影が立ちはだかっていた。

私は瞬きをしてその影を見つめた。その影はゆらりと揺れるとフワッと霧のように消えてしまった。

そして、私の足元には一本の腕が転がっていた。

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