いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼

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61.帰還

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「ローゼ! ローゼ! ローゼ! 頼む! 目を開けてくれ! お願いだ!」

悲痛な声が聞こえ、私は目を開けた。

「ローゼ!!」

アーサーは横たわった私の上半身を抱き起して涙を流していた。

「アーサー様・・・」

私はすぐ目の前にある愛しい人の顔にゆっくりと手を伸ばし、そっと頬を撫でた。

「戻りましたわ・・・、アーサー様。私は生きてますわよ」

「ああ! ローゼ! ローゼ! 良かった! 良かった・・・!」

アーサーは力一杯私を抱きしめた。彼の体温を感じ、私は心から生きている喜びと幸せを嚙み締めた。

「ごめんなさい、ごめんなさい。アーサー様」

泣きながら彼にしがみ付いた。

「もういい! もういいんだ! 謝らなくていい! 貴女が無事に帰ってきてくれれば! 貴女がいなくなったら、私は・・・、私は・・・」

アーサーの体が震えている。ここまで心配させてしまったことを本当に申し訳なく思った。本当に軽率な行動だったと思う。

「心配かけてしまって、本当にごめんなさい。でも・・・でも、アーサー様」

私はさらに強く彼を抱きしめた。

「呪いは解けましたわ!」

彼の息を呑む声が聞こえる。

「呪いが解けたのです! 解けたのですよ! アーサー様!!」

二人しかいないウイリアムの研究室で、私たちは暫くの間きつく抱き合っていた。





二人して抱き合いながら一頻り泣いた後、アーサーは私をそっと話すと、両手で私の顔を包んだ。

「額に怪我をしている・・・。大丈夫か・・・?」

「え? そうですか? あ、そう言えば、アレクも言ってましたわ。血が出てるって」

私は額に手を当てたが、すでに血は渇いていた。

「全然痛くないのですっかり忘れてまし・・・、ん・・・」

最後まで言う前に唇を塞がれた。何度も何度もまるで私の存在を確かめるように口づけられた。

「詳しい話は後にしよう。もうじき夜が明ける。少しでも休まないと」

アーサーは私を横抱きにして立ち上がった。

「え? あ、歩けますわよ? どこも怪我してませんもの」

私は目を丸めてアーサーを見た。

「額を怪我しているじゃないか」

「額でしょ? しかも痛くないし!」

「怪我は怪我だ。早く手当てをしなくては。それに」

アーサーはズンズン歩き出す。

「今は一時も貴女を放すことが出来ない。放すとまた何処へ行ってしまうか分からないから」

軽く溜息を漏らすアーサーに私は改めて罪悪感を覚える。
私は大人しく彼の首に両手を回した。

「重いのにごめんなさい」

耳元でそう囁くと、頬にそっとキスをした。

「はあ~~、本当に貴女という人は・・・」

アーサーは長く溜息を付くと、恨めしそうに私を見た。

「狡い人だ。すぐに全てを許したくなる」

そう言って今度はアーサーが私の頬にキスを落とした。

「ふふ、ではついでと言っては何ですが、もう一つ許して頂いてもよろしいかしら?」

「何だ?」

「部屋に戻る前に寄りたい場所がありますの」

「寄りたい場所?」

「ええ。ご一緒してくださいな」





アーサーと共にやって来たのは、侯爵家当主の肖像画が飾られている廊下のギャラリーだった。
夜が明け始め、空が白んできた。そのお陰で廊下も蝋燭の明かりが無くても歩ける。

私はアーサーに降ろしてもらい、一人の肖像画の前に立った。

『ウィリアム・レイモンド』

私はその肖像画を見上げた。
アーサーも私の横やってくると、一緒に彼の肖像画を見上げた。そして息を呑んだ。

「な・・・! どういう事だ? これは・・・!」

アーサーが驚くのも無理はない。

「アーサー様。私はこの方にも助けられたのです」

私は肖像画を見上げたまま答えた。
そして、その場に跪いた。

「ウィリアム様。私のお願いを聞いて下さったのですね・・・。ずっと見守って下さっていたのですね。あんなふうに生意気なことを言ってしまった私ことを」

私は胸の前に両手を組んで頭を下げた。

「貴方様のお陰で私はこうして無事に帰ってくることが出来ました。愛する人を悲しませることなく無事に。そして、貴方様のお陰で呪いが解けたのです」

「ローゼ・・・、一体、これは・・・?」

アーサーは立ち尽くしたまま呆然と肖像画を見ている。
私は跪いたままアーサーを見上げた。

「見ての通りですわ。ウィリアム様が犠牲になって下さったの」

「そんなことが・・・」

アーサーも崩れるように私の横に跪いた。

「確かにこの方が呪いの元凶です。でも、最後はこの方自身が身を挺して私を助け、呪いを解いて下さいました」

私はアーサーと並んで肖像画を見上げた。
その肖像画の中のウィリアムの腕は、肩から消えて無くなっていた。
そんな彼の顔はとても穏やかに微笑んでいるように見えた。

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