シンデレラなんてお断り~ハイスペック御曹司にロックオンされました~

夢呼

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6.逃げるが勝ち

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洒落た和室の個室に通され、陽一と向かい合わせに座ると、香織は恐る恐る陽一を見た。
陽一は澄ましてメニューを見ている。
どうやら、ドキマキしているのは香織だけのようだ。
香織は自分を落ち着かせるために、目の前にあるお品書きに目を通す。

(こういう場合、何を選ぶのが正解? 陽一さん、っていうか、副社長と同じものすればいいの?)

香織は気が動転し過ぎて、告白された男と来たのか、数段格上の上司と来たのか、自分は一体どう対応していいか頭の中が混乱して、お品書きの字がまともに頭に入らない状態だった。

「決まったか?」

「・・・」

「同じでいいな?」

「・・・はい」





注文が済んで、改めて部屋に二人きりになると、早速、陽一が切り出した。

「で、昨日は何で逃げた?」

「う゛・・・」

「まさか俺の申し出を断るわけじゃないだろうな?」

香織はだんだんこの上から目線の言い方に腹が立ってきた。
いくら御曹司で、副社長とは言え、今はプライベートの話だよね?

「・・・お断りするのが自然かと」

「ふーん、俺の体を奪っておいて?」

「そのセリフって普通、女性の私が言うものじゃないんですか?」

「このジェンダーフリーの時代に何言ってるんだ?」

(くそ~~っ)

香織はハンカチの端をくわえてキーっとやりたい気持ちをぐっと堪えて陽一を見た。
陽一は意地悪そうに口角が上がっている。

「それに、こう暑くっても、誰かさんのせいで、ワイシャツのボタンが外せなくって困ってるんだよな」

そう言うと、ワイシャツのボタンを二つ外した。
そこから覗いて見えるのは、の付けたキスマーク・・・。

(げげっ!)

香織は目を見張った。

「俺は場所には気を使ったつもりだけど、誰かさんはそんなことお構いなしだったみたいだし・・・」

香織は自分の顔がカーッと赤くなるのを感じて、両手で頬を押さえた。
そこへ、仲居が食事を運んできた。

〔ちょっと、ちょっと、ふくしゃちょー! 襟、襟~!〕

香織は小声で、襟を正すように訴えた。
しかし、当然のごとく、陽一はそれを無視。部屋が暑いとばかりに手で顔を扇いでいる。
食事を並べる仲居の顔が、陽一に近づく。

(ひ~~っ!)

香織は心の中で悲鳴を上げた。
もうだめだぁ!

〔分かりましたっ! 分かりましたから、襟、襟を直して!〕

香織は必死に小声で訴えた。
ちらっと香織を見た陽一は、仕方なさそうに襟を正し、ワイシャツのボタンを留めた。

「ふぅ~~~」

香織の大きな溜息に、配膳をしていた仲居は不思議そうに香織を見上げた。

「何か不都合でもございますか? 食べられないものがございましたら、交換いたしますので、ご遠慮なく、お申し付けください」

仲居に気を使われ、香織は慌てて、顔を横に振った。

「だ、大丈夫です! もう、ぜ~んぶ大好物です!」

仲居はにっこりと笑い、それはよろしゅうございましたと頭を下げ、部屋から出て行った。

「ふーん、全部大好物なんだ。良かったな」

陽一は意地悪そうに笑うと、澄まして食べ始めた。

「ふくしゃちょーっ!!」

「名前で呼べ」

「よーいちさん~~っ!」

香織は箸を握り締めて、陽一を睨んだ。

「何だよ?」

陽一はニッと笑うと、さりげなくワイシャツの襟元に手を掛けた。

「う・・・、何でもないです」

香織は目を逸らした。

(くそ~、ま、負けた・・・)

香織はキッと、自分の前に並べた豪華な料理を睨みつけると、無言でモリモリ食べ始めた。






「よく食ったな・・・」

「ええ、まぁ」

店を出て、満腹になった腹をさすっている香織を、陽一は呆れ顔で見た。

香織はムシャクシャした気持ちを、全て食事にぶつけたお陰で、少し落ち着いていた。
料理が美味しかったことが、かなり香織の怒りを消化してくれた。

「俺のデザートまで食うとはな」

「だって、残しちゃもったいないでしょう。もったいないお化けが出ますよ! それに、こんなに高級なお店、滅多に来れないし、堪能しないと」

「気に入ったなら、また来ればいいだろう?」

「何言ってるんですか。もう来ませんよ!」

香織はくるっと陽一の方に振り向くと、深々と頭を下げた。

「今日はご馳走様でした。でも、陽一さんとはお付き合いできません!」

「はあ? さっき分かったって言っただろ?」

「あれはズルいですよ! 無しです、無し!」

香織は顔を上げると、キッと陽一を睨みつけた。

〔それに、陽一さんは『奪った奪った』って言いますけど、それはお互い様ですから!〕

香織は小声で言うと、ふんっと顔を背けた。
自分で言っておいて顔が赤くなってくる。慌てて、手で顔を扇いだ。

「お互い様か・・・。どう考えても俺の方が襲われた感が強いけど?」

「うそ!」

「さあね、覚えてないんだろ?」

(ぐぬぬ・・・)

余裕たっぷりの陽一に、香織はどうにも歯が立たない。
もうこうなったら逃げるしか道はない。逃げ切れるかは分からないが・・・。

「と、とにかく! さっきの『分かりました』は取り消しです! 男には二言はないかもしれないけど、女には二言はあるんです!」

「は?」

「じゃあ、失礼します! ご馳走様でした!」

香織は陽一に一礼すると、一目散に会社に向かって走って逃げた。

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