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72.父方の祖父母
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「お母さま! すごくないですか?! これ!」
何やらコーヒーカップの上に白い立体的な子熊のようなものが、つぶらな瞳で綾子を見ている。
『早く僕を飲んでおくれよ!』
と話しかけているようだ。
そのつぶらな瞳から目を離せない綾子の前で、香織は興奮気味にスマホのシャッターをバシャバシャ切っている。
「3Dのラテアートですよ! めっちゃ可愛くないですか! 飲むの勿体ないですよねっ!」
綾子だって流石にラテアートぐらい知っている。
美しいリーフ模様やハートはいくらでも見たことがあるし、いつもそれらに心を癒されていた。
だが、今は癒されるどころか度肝を抜かれている。
「今って、立体なのね・・・」
ここまでくると上品な飲み物ではなくなっている。
だが、何とも可愛らしくて、心が躍る。
「ホント、飲むのが勿体ないわね」
綾子はうっとりと子熊のアートを見つめた。
☆
「ところで、今日は何の御用だったんですか?」
ラテで白い髭ができた顔で、香織は綾子に尋ねた。
綾子は思わず噴き出した。
「???」
香織は不思議そうに首を傾げたが、綾子の仕草でラテのミルクが付いていたことが分かり、慌てて紙ナプキンで拭き取った。
「特に用事と言うほどではないのだけれど・・・」
綾子はそう言うと、そっとカップを持って慎重にラテを飲んだ。
綾子にも白髭ができて、二人でフッと噴出した。
「・・・あなたのお父様って、お婿さんだったのね。おじい様とおばあ様から伺ったわ」
綾子はそう言うと、カップをそっとソーサーに戻した。
「そうなんですよ、お婿さんなんですよ! うちの父。今どき珍しいですよね」
香織はそう言うと、もう立体のアートを保つのは無理と判断したようで、潔くかき混ぜてしまった。
「お父様方のおじい様とおばあ様とはあまりお会いしていないって、本当なの?」
「あんまりどころか、まったくですよ」
香織は気にもしていないようにサラッと答えた。
「父は家の反対を押し切ってお婿さんになったので、勘当されたそうです。だから、結婚して以来、ほとんど会っていないって言っていました」
「・・・じゃあ、一度もお会いしたことがないの?」
香織は、一緒に頼んだケーキを頬張りながら、首を横に振った。
「いいえ、私の記憶では一度だけあります。両親のお葬式の時・・・」
「・・・」
「小さかったので全部は覚えていないんですけど・・・。その父方の祖父母っていう人がとにかく怒っていて・・・」
香織はちょっと小声になった。
「おじいちゃんとおばあちゃんに泣きながら大声で怒鳴りつけていて・・・。怖かったので、そこのところだけ強烈に覚えています・・・」
昔を思い出したのか、フォークを口元に当てたまま、俯いた。
「ごめんなさいね。辛い思い出だわね。悪かったわ」
香織はハッとしたように顔を上げると、首を振ってほほ笑んだ。
「いえいえ! もう、昔の事なんで!」
そう言うと、またケーキを勢いよくケーキを頬張った。
口をもぐもぐさせながら、
「赤ん坊の時も会ったことがあるらしいですよ。流石に孫が生まれたことくらいは報告するかって。でも、家には入れてくれなかったんですって。徹底してますよね~」
まるで他人事のように話した。
綾子はそんな香織に胸が痛くなった。
「・・・そんなに徹底しているって、お父様の実家は何をされているの?」
「なんか、田舎の方では結構な古い家みたいですよ。本家の跡取りだったっていうのは聞いていますけど、何をやっているかは知らないです」
「そう・・・。古い家はどこもしがらみはあるものよね」
綾子そう呟くと、自分のカップを見つめた。
くてっと崩れた子熊が綾子を見ている。崩れた表情も可愛らしい。
綾子は香織とは違い、出来るだけアートを楽しもうと、出来るだけ崩さないようにそっと飲んだ。
「ちなみに、お父様のご実家の苗字は?」
「えっと・・・、確か、荻原です」
「スッと出てこないなんて、寂しいものね・・・」
「仕方ないですよ~、ホントに全然会ってないし、話題にも出ないですもん」
同情する綾子を気遣うように、香織は笑いながら答えた。
そして、最後に一口残ったケーキを頬張った。
「ところで、あの子は・・・、陽一は元気にしてる?」
綾子はカップを覗きながら訪ねた。
ちょっと恥ずかしそうに陽一の事を聞いてくる綾子に、香織はつい頬が緩んだ。
「元気ですよ! でも、忙しそうですよ。最近ずっと遅くて、家でお夕飯食べてないんですよ。それに、木曜日から出張に出てて、今日の夜に帰ってくるって言ってました。土曜日なのに気の毒ですね。あ~、偉いって大変!」
香織はちょっとお道化てみせた。
それから、ポンと手を叩いて、
「今日も遅いって言っていたので、お夕飯もご一緒しませんか?」
そう綾子を誘った。
何やらコーヒーカップの上に白い立体的な子熊のようなものが、つぶらな瞳で綾子を見ている。
『早く僕を飲んでおくれよ!』
と話しかけているようだ。
そのつぶらな瞳から目を離せない綾子の前で、香織は興奮気味にスマホのシャッターをバシャバシャ切っている。
「3Dのラテアートですよ! めっちゃ可愛くないですか! 飲むの勿体ないですよねっ!」
綾子だって流石にラテアートぐらい知っている。
美しいリーフ模様やハートはいくらでも見たことがあるし、いつもそれらに心を癒されていた。
だが、今は癒されるどころか度肝を抜かれている。
「今って、立体なのね・・・」
ここまでくると上品な飲み物ではなくなっている。
だが、何とも可愛らしくて、心が躍る。
「ホント、飲むのが勿体ないわね」
綾子はうっとりと子熊のアートを見つめた。
☆
「ところで、今日は何の御用だったんですか?」
ラテで白い髭ができた顔で、香織は綾子に尋ねた。
綾子は思わず噴き出した。
「???」
香織は不思議そうに首を傾げたが、綾子の仕草でラテのミルクが付いていたことが分かり、慌てて紙ナプキンで拭き取った。
「特に用事と言うほどではないのだけれど・・・」
綾子はそう言うと、そっとカップを持って慎重にラテを飲んだ。
綾子にも白髭ができて、二人でフッと噴出した。
「・・・あなたのお父様って、お婿さんだったのね。おじい様とおばあ様から伺ったわ」
綾子はそう言うと、カップをそっとソーサーに戻した。
「そうなんですよ、お婿さんなんですよ! うちの父。今どき珍しいですよね」
香織はそう言うと、もう立体のアートを保つのは無理と判断したようで、潔くかき混ぜてしまった。
「お父様方のおじい様とおばあ様とはあまりお会いしていないって、本当なの?」
「あんまりどころか、まったくですよ」
香織は気にもしていないようにサラッと答えた。
「父は家の反対を押し切ってお婿さんになったので、勘当されたそうです。だから、結婚して以来、ほとんど会っていないって言っていました」
「・・・じゃあ、一度もお会いしたことがないの?」
香織は、一緒に頼んだケーキを頬張りながら、首を横に振った。
「いいえ、私の記憶では一度だけあります。両親のお葬式の時・・・」
「・・・」
「小さかったので全部は覚えていないんですけど・・・。その父方の祖父母っていう人がとにかく怒っていて・・・」
香織はちょっと小声になった。
「おじいちゃんとおばあちゃんに泣きながら大声で怒鳴りつけていて・・・。怖かったので、そこのところだけ強烈に覚えています・・・」
昔を思い出したのか、フォークを口元に当てたまま、俯いた。
「ごめんなさいね。辛い思い出だわね。悪かったわ」
香織はハッとしたように顔を上げると、首を振ってほほ笑んだ。
「いえいえ! もう、昔の事なんで!」
そう言うと、またケーキを勢いよくケーキを頬張った。
口をもぐもぐさせながら、
「赤ん坊の時も会ったことがあるらしいですよ。流石に孫が生まれたことくらいは報告するかって。でも、家には入れてくれなかったんですって。徹底してますよね~」
まるで他人事のように話した。
綾子はそんな香織に胸が痛くなった。
「・・・そんなに徹底しているって、お父様の実家は何をされているの?」
「なんか、田舎の方では結構な古い家みたいですよ。本家の跡取りだったっていうのは聞いていますけど、何をやっているかは知らないです」
「そう・・・。古い家はどこもしがらみはあるものよね」
綾子そう呟くと、自分のカップを見つめた。
くてっと崩れた子熊が綾子を見ている。崩れた表情も可愛らしい。
綾子は香織とは違い、出来るだけアートを楽しもうと、出来るだけ崩さないようにそっと飲んだ。
「ちなみに、お父様のご実家の苗字は?」
「えっと・・・、確か、荻原です」
「スッと出てこないなんて、寂しいものね・・・」
「仕方ないですよ~、ホントに全然会ってないし、話題にも出ないですもん」
同情する綾子を気遣うように、香織は笑いながら答えた。
そして、最後に一口残ったケーキを頬張った。
「ところで、あの子は・・・、陽一は元気にしてる?」
綾子はカップを覗きながら訪ねた。
ちょっと恥ずかしそうに陽一の事を聞いてくる綾子に、香織はつい頬が緩んだ。
「元気ですよ! でも、忙しそうですよ。最近ずっと遅くて、家でお夕飯食べてないんですよ。それに、木曜日から出張に出てて、今日の夜に帰ってくるって言ってました。土曜日なのに気の毒ですね。あ~、偉いって大変!」
香織はちょっとお道化てみせた。
それから、ポンと手を叩いて、
「今日も遅いって言っていたので、お夕飯もご一緒しませんか?」
そう綾子を誘った。
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