婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼

文字の大きさ
7 / 97

しおりを挟む
朝食を終え、自室でまったりと読書を楽しんでいると、侍女のパトリシアがお茶を持ってきた。

「お嬢様。今日は良い天気でございますよ! 気晴らしにお出かけされてはいかがでしょうか?」

お茶を淹れながら、パトリシアがやたらと声を弾ませて提案してきた。
うーん、こちらにも気を使わせてしまっているわ。全然、落ち込んでいないのに。

「ほ、ほら! 行ってみたいカフェがあるとおっしゃっていたではありませんか! 他にも・・・、そうそう! 今、公演中の歌劇! とっても評判らしいですよ! 最近全然行けていなかったではありませんか? お嬢様は歌劇が大好きなのに!!」

一生懸命、私を元気づけようとしている彼女に、少し罪悪感が生まれる。
それでも、彼女だって私がレオナルドと上手くいっていないことを知っていたはずなのに・・・。まあ、いくら上手くいっていないからって婚約破棄されれば、普通のご令嬢なら傷付いて落ち込むものね。

「知っているわ。若いご令嬢にとっても評判がいいみたい。確か純愛ものよね」

「はい!! お嬢様!」

私がにっこりと答えたので、安心したのだろう。パトリシアは元気に頷いた。

「そうねぇ、でも今日はカフェに行きたいわ。午後のティータイムに会わせて出かけましょう。お買い物もしたいし。付き合ってちょうだい、パトリシア」

「はい! 喜んで!」

こうして、午後になったら城下へ出かけることになった。
久しぶりのショッピングだ! 今日は思いっきり楽しんでやる!


☆彡


街に繰り出すと、早速、友人に聞いてからずっと行ってみたかったカフェでお茶をすると、その後はお気に入りのブティックでショッピングを楽しんだ。
解放感からか、ついつい買い過ぎてしまったのは反省するところ。後から家に届けられた品を見て、きっと「あ、要らなかった・・・」と思う物もたくさんありそうだ。
でも、今日は大目に見よう! 九年間頑張った自分へのご褒美なのだ。
「何でこんなもの買っちゃったんだろう」なーんてものが入っていてもいいじゃないか!

ルンルンと鼻歌交じりに歩いている時だった。

向かいから一人の男が歩いてきた。
その男はシンプルな麻のコートを羽織っており、フードで顔を隠すように俯き加減に歩いている。

それだけでもあまり良い感じは持てないのだが、足取りも怪しい。少しふら付いている。酔っぱらっているのだろうか。夕方近くとは言え、まだ明るいというのに。

少しずつ近づいてくると、男の荒い息遣いが聞こえてきた。
酔っぱらっているわけではなくて、具合が悪いのだろうか? 熱でもあるのか?
建物の壁に手を付きながら、何とか歩いている感じだ。

そして、すれ違う時、私は思わず男を二度見した。
男は私が二度見したことなど気が付かないようだ。私に振り向くことなく、フラフラと通り過ぎた。

私は立ち止まって振り向いた。

(え? 今の、レオナルド??)


☆彡


え? 何、あれ? レオナルド? 何で? 何であんな格好しているの?
あれ? 私の見間違い?

私は軽くパニックになり、ボーッと男の後ろ姿を見つめた。

「どうされました? お嬢様?」

急に立ち止まった私に、パトリシアは驚いて尋ねた。

「あ、ううん、えっと、何でもないわ」

慌てて笑って誤魔化したが、すぐにもう一度レオナルドの方に目を向けた。
彼は丁度角を曲がってしまい、姿が見えなくなった。

「では、行きましょう、お嬢様」

「え、ええ」

パトリシアに促されるまま、私も歩き出した。
だが・・・。

(あんなにふら付いて大丈夫なの?)

明らかに普通ではない。
息遣いも荒かったし、目の焦点も合っていなかった気がする・・・。あれは私が相手だからって無視したわけではない。完全に気が付いていなかった。歩くことに必死だったのだ。

(もう婚約者でもない。赤の他人なんだから、気にすることないか・・・)

そう思い直し、歩き続けるのだが、苦しそうなレオナルドの顔が蘇る。
これは放っておくのは人道的にまずいのでは?

とは言っても、相手は王族。敢えてあんなみすぼらしいコートを羽織っているなんて、きっと身分だけでなく、相当いろいろなものを隠しているのだ。安易に踏み入っていいものだろうか?

(それにしても、護衛も付けていないなんて・・・)

いくらお忍びだったとしても護衛の一人くらいいるはずでは・・・?
ということは、やはり、私の見間違いか?

(ううん、レオナルドよ・・・)

あのくっそ憎らしい顔を見間違えるわけがない。

私は再び立ち止まった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」 その一言で、私は婚約を破棄されました。 理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。 ……ええ、どうぞご自由に。 私は泣きません。縋りません。 なぜなら——王家は、私を手放せないから。 婚約は解消。 けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。 失ったのは殿下の隣の席だけ。 代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。 最初は誰もが疑いました。 若い、女だ、感情的だ、と。 ならば証明しましょう。 怒らず、怯えず、排除せず。 反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。 派手な革命は起こしません。 大逆転も叫びません。 ただ、静かに積み上げます。 そして気づけば—— “殿下の元婚約者”ではなく、 “揺れない王”と呼ばれるようになるのです。 これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。 王冠の重みを受け入れた一人の女性が、 国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃

ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。 王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。 だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。 ――それでも彼女は、声を荒らげない。 問いただすのはただ一つ。 「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」 制度、資格、責任。 恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。 やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。 衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。 そして彼の隣には、常に彼女が立つ。 派手な革命も、劇的な勝利もない。 あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。 遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、 声なき拍手を聞き取る。 これは―― 嵐を起こさなかった王と、 その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

処理中です...