婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼

文字の大きさ
40 / 97

39

しおりを挟む
「アイツだけって・・・、どういう意味だ・・・?」

レオナルドは両手で頬を摩りながら、神妙な顔で私に聞いた。

「申し上げた通りです。あの方だけが何の偏見もなく、わたくしに接して下さるの。他の殿方は、わたくしが挨拶しても返事すらまともに返してこないほど、わたくしを見下しておりますから」

「え・・・?」

「自分の仕える主に習ってのことでしょう。殿下が見下している相手は自分も軽視しても何ら問題ないと思っていらっしゃるのでしょ、きっと」

「・・・」

「彼らの態度には、学院在学中、本当に、ずーっと嫌な思いをさせられておりました」

「そう・・・だった・・・のか・・・?」

レオナルドは初めて知ったのか、青い顔をして私を見ている。

「それは、知らなかった・・・」

「そうでしょうね。学院内で殿下とわたくしがご一緒する機会はほとんどありませんでしたし。あの方達も殿下の前では下手な態度は取らなかったですしね。何より、殿下が知ろうともなさらなかったもの」

「・・・!」

「その中でもアラン様だけは違いました。あの方だけはどなたとも分け隔てをせずに・・・、いいえ、それどころか、きちんとわたくしを殿下の婚約者として、敬意を持って接して下さったのです。他の下衆共の態度と比べてしまうのは当然でしょう? そりゃ、笑顔にもなりますわよ」

「そう・・・だな・・・」

レオナルドは俯いた。

「これでお分かり? わたくしがアラン様一択を言った理由が。殿下の側付きの中で、このが連絡を取れる相手はアラン様以外いないのですよ? よろしい?」

「ああ・・・。分かった・・・」

レオナルドは俯いたまま頷いた。
思い当たる節が大いにあるのだろう。今になって当時の態度を反省し始めた。
今更もう遅いわけだが、猛省している姿を見ると、多少溜飲が下がる。

それでも、胸のムカつきが収まらない。
私はパトリシアに甘めのお茶でも用意してもらおうと、席を立ち、メイドを呼ぶ紐を引いた。

「エ、エリーゼ・・・」

レオナルドの呼びかけに振り向いた。
驚くほど困惑した顔をしている。

「その・・・、知らなかったとは言え・・・、すまなかった・・・」

蚊の鳴くような声で謝ってきた。

「そうですわね。はっきり申し上げて殿下のせいです。殿下がわたくしに対して常に横柄な態度をお取りだったせいですから」

膝に両手を置いて姿勢を正し、眉尻を下げ、上目遣いにこちらを見る。その姿だけを見ると、母親に叱られてシュンとしている二歳の女の子。
つい、ほだされそうになるが、この可愛い女の子の中身はレオナルド!

「でも、もう過ぎたこと。それに、今後は彼らと会う機会も無くなるわけですし、もういいですわ」

私は肩を竦めて見せた。

「もし、会うことがあっても、それはもう学院内ではないのです。学院内のようにある意味平等性が守られている世界ではない、れっきとした真の社交場。わたくしはこの国の宰相閣下を父に持つミレー侯爵家の娘なのです。いくら殿下の側近だからと言ってわたくしを蔑ろにできる立場ではないのですから」

「そうだが・・・」

レオナルドはモジモジと申し訳なさそうに口ごもる。
私はソファに戻ると、レオナルドの隣に少し乱暴にトスンッと腰を下ろした。そして、これ見よがしに両手と足を組んだ。

「それにしても、本当に浅はかな人たちだわ、殿下の側付きの方々って。わたくしが婚約者のままだとして、学院を卒業して王宮に入った後も同じ態度を取るつもりだったのかと思うと、なかなか笑えますわね。わたくしが在学中ずーっと我慢していたのは、王子妃になった暁には、あの者たち全員左遷してやるつもりだったからですわ。妃の権力だけでなく、宰相である父の権力も、ありとあらゆるコネを使って。殿下には悪いですけれど」

「な・・・」

レオナルドは目を丸くした。

「そのくらい真っ黒い妄想をしていないとやっていられないくらいだったもの」

私はニッと意地悪そうに笑って見せた。
レオナルドの頬は私が力強く摘まんだせいで、かなり赤く跡がついてしまった。流石にやり過ぎた。相手は王子(クズだが)なのに。

「ですから、殿下、もうお気になさらず。わたくしもあの者たちと同じくらい腹黒ですので」

罪悪感から赤く腫れあがった頬を両手で優しく摩った。

「・・・!」

レオナルドは目を見開いた。
あれ、摩っただけだが痛かったか? 頬の赤みが増してきた気が・・・。

「殿下? 痛かったですか?」

私が頬を摩りながら問いかけると、レオナルドはバッと私の手を振り払った。

「あ、あ、当たり前だ!! 力一杯つねりやがって!」

「確かに手加減はしませんでした。思いっきりつねらせていただきましたわ」

「お、おま・・・」

「でも、わたくしは謝りません! 今回ばかりは・・・いいえ、今回殿下が悪いですから」

私はツーンとそっぽを向いた。
そこに扉のノックする音が聞こえ、パトリシアが入ってきた。

「お呼びでしょうか? お嬢様」

「お茶を用意してくれる?」

「かしこまりました」

パトリシアが部屋を出て行ってから、レオナルドに振り返ると、彼は口元に左手の甲を当て、向こう側を向いていた。耳元から首にかけて少し赤みを帯びている。

「殿下、お熱でもあります? 何かお肌が赤いような・・・」

「な、何でもない!! もう触るな!」

私が顔を覗き込もうとすると、レオナルドはさらに顔背けてしまった。
まったく・・・、しおらしくなったのは一瞬だった・・・。もうこれだもの・・・。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」 その一言で、私は婚約を破棄されました。 理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。 ……ええ、どうぞご自由に。 私は泣きません。縋りません。 なぜなら——王家は、私を手放せないから。 婚約は解消。 けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。 失ったのは殿下の隣の席だけ。 代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。 最初は誰もが疑いました。 若い、女だ、感情的だ、と。 ならば証明しましょう。 怒らず、怯えず、排除せず。 反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。 派手な革命は起こしません。 大逆転も叫びません。 ただ、静かに積み上げます。 そして気づけば—— “殿下の元婚約者”ではなく、 “揺れない王”と呼ばれるようになるのです。 これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。 王冠の重みを受け入れた一人の女性が、 国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃

ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。 王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。 だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。 ――それでも彼女は、声を荒らげない。 問いただすのはただ一つ。 「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」 制度、資格、責任。 恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。 やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。 衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。 そして彼の隣には、常に彼女が立つ。 派手な革命も、劇的な勝利もない。 あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。 遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、 声なき拍手を聞き取る。 これは―― 嵐を起こさなかった王と、 その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

処理中です...