45 / 97
44
しおりを挟む
「では、殿下。私はそろそろ城へ戻ります」
アランはそう言うと、小窓から御者のトミーに馬車を停めるように指示をした。
「ミランダ嬢のことは、容姿の確認はもちろんですが、殿下に薬物を飲ませたことについても尋問します。殿下の行方が不明であるので、シラを切るでしょうが。薬の現物もなるべく早く押さえるよう尽力します」
「慎重にな。ウィンター家もバーディー家も力がある。下手をするとすべて揉み消されるからな」
「はっ」
「兄上の警護も今よりも増やしてくれ」
「はっ。すぐにでも隊長に掛け合ってみます。殿下もどうかお気を付けて。慎重に動いてください。エリーゼ様もお気を付けて。今回のことは本当に感謝申し上げます」
アランは私に向かって深く頭を下げた。
「肝心なお方からはあまり感謝されていないようですけれど」
「ケホッ・・・」
膝の上のレオナルドをチラリと見る。レオナルドは軽く咽た。
「まあ、わたくしの恩がどんどん積み重なるだけですからね。見返りが大きくなることを期待して尽力いたしますわ。一財産くらいできるかしら?」
私は軽く溜息を付いた。そして、アランが降りるわずかな間でも、開いた扉から誰に見られても大丈夫なように、再びカツラを被った。
「アラン様、よろしくお願いいたしますわ。貴方様もどうぞお気を付けくださいませ」
私の言葉に、アランは恭しく頭を下げると、馬車から降りて行った。
「あら、ここ六区・・・」
アランの歩く後ろ姿を見送りながら、外の景色を見て思わず呟いた。
馬車が停まった場所は国立のオペラ座の近くだった。
ここは芸術関連の建物が集中している場所だ。
大きな国立劇場や美術館に図書館など重厚感あふれる建造物が並ぶ地区だ。そんな立派な建物の間に建つ商業施設は高級な店ばかりで、カフェも気軽で洒落た店よりも高級店が多い。歌劇が好きな私にはお気に入りの地区の一つだ。
「久しぶりだわ・・・。最近、全然来ることが出来なかったから・・・」
久々に見る美しい街並みにホゥ~と溜息が漏れた。その溜息と合わせるように私の腹の虫がクゥ~と鳴った。
なんてことだ。レオナルドを膝に抱いている状態だと言うのに!
レオナルドは驚いたように私に振り向いた。私は気恥ずかしさからツーンと顔を逸らした。
「・・・喉が渇いた・・・」
レオナルドが前に向き直り、窓越しに外を見ながら呟くように言った。
「え?」
「だから! 喉が渇いた! アランと喋り過ぎたんだ。少し休みたい!」
そう言って窓の外を指差した。驚いた私は、レオナルドの顔を後ろから覗き込もうとしたら、彼はツンと顔を逸らしてしまった。
「そうよ、そうですわね! 休みましょう! お気に入りのカフェがありますのよ! そこのスイーツが絶品ですの! トミー! 走らせるのは待って! わたくしたちも降りるわ!」
私は急いで、御者席に戻ったトミーに叫んだ。トミーは慌てて降りてくると、急いで扉を開けた。
「エリーゼ様、どちらへ? パトリシアもいないのにお一人では・・・」
トミーは、私に手を差し出して降りるのを手助けしながらも、不安そう尋ねる。
「大丈夫よ、そこのカフェで少し休むだけよ。あのお店、お気に入りなの。久々に行きたいのよ!」
私は近くの高級感漂うカフェを指差した。
「でも・・・、小さなお子様まで一緒ですし・・・」
「平気よ。貴方も少しお休みなさい。でも、わたくしが見える場所でね。何かあったらすぐに駆け付けられるように」
「・・・かしこまりました」
ホクホク顔の私に何も言えなくなったのか、トミーは大人しく引き下がった。
「じゃあ、行ってくるわね!」
私はレオナルドの手を引いて、ルンタッタとカフェに向かって歩き出した。
☆彡
カフェに入ろうとした時だった。
私たちの横を、数人のご婦人方が通り過ぎた。
一人の中年女性を筆頭に、その後を数名がゾロゾロと付いて行く。私はリーダー格の貴婦人を目で追った。
(あれは・・・パトゥール子爵夫人)
「どうした?」
いつまでも店に入ろうとしない私を、レオナルドが不思議そうに見上げた。
私はレオナルドを抱き上げると、耳元に口を寄せた。
「!! な・・・、何だ!?」
なぜか慌てるレオナルド。私はそれを無視して囁くように話しかけた。
「殿下、あのご婦人をご存じ? あの、お帽子からドレスまで全身紫で統一しているご婦人」
「はぁ?」
「あの方、パトゥール子爵夫人ですわ。とんでもない地獄耳で、とっても噂好きですのよ。ゴシップが大好物。それを食べて生きていると言われているお方」
「だ、だから、何だ?!」
レオナルドはまだ慌てている。少し顔が赤いようだが、私は無視して続けた。
「だから、王宮内の噂話を聞けるかもしれませんわ。王宮に入れないご婦人方に自分の仕入れたネタを披露するのがあの方のご趣味なの。ミランダ様の失態なんて格好のネタでしょう?」
そう言うと、私はお気に入りのカフェを諦め、彼女たちの後に付いて歩き出した。
アランはそう言うと、小窓から御者のトミーに馬車を停めるように指示をした。
「ミランダ嬢のことは、容姿の確認はもちろんですが、殿下に薬物を飲ませたことについても尋問します。殿下の行方が不明であるので、シラを切るでしょうが。薬の現物もなるべく早く押さえるよう尽力します」
「慎重にな。ウィンター家もバーディー家も力がある。下手をするとすべて揉み消されるからな」
「はっ」
「兄上の警護も今よりも増やしてくれ」
「はっ。すぐにでも隊長に掛け合ってみます。殿下もどうかお気を付けて。慎重に動いてください。エリーゼ様もお気を付けて。今回のことは本当に感謝申し上げます」
アランは私に向かって深く頭を下げた。
「肝心なお方からはあまり感謝されていないようですけれど」
「ケホッ・・・」
膝の上のレオナルドをチラリと見る。レオナルドは軽く咽た。
「まあ、わたくしの恩がどんどん積み重なるだけですからね。見返りが大きくなることを期待して尽力いたしますわ。一財産くらいできるかしら?」
私は軽く溜息を付いた。そして、アランが降りるわずかな間でも、開いた扉から誰に見られても大丈夫なように、再びカツラを被った。
「アラン様、よろしくお願いいたしますわ。貴方様もどうぞお気を付けくださいませ」
私の言葉に、アランは恭しく頭を下げると、馬車から降りて行った。
「あら、ここ六区・・・」
アランの歩く後ろ姿を見送りながら、外の景色を見て思わず呟いた。
馬車が停まった場所は国立のオペラ座の近くだった。
ここは芸術関連の建物が集中している場所だ。
大きな国立劇場や美術館に図書館など重厚感あふれる建造物が並ぶ地区だ。そんな立派な建物の間に建つ商業施設は高級な店ばかりで、カフェも気軽で洒落た店よりも高級店が多い。歌劇が好きな私にはお気に入りの地区の一つだ。
「久しぶりだわ・・・。最近、全然来ることが出来なかったから・・・」
久々に見る美しい街並みにホゥ~と溜息が漏れた。その溜息と合わせるように私の腹の虫がクゥ~と鳴った。
なんてことだ。レオナルドを膝に抱いている状態だと言うのに!
レオナルドは驚いたように私に振り向いた。私は気恥ずかしさからツーンと顔を逸らした。
「・・・喉が渇いた・・・」
レオナルドが前に向き直り、窓越しに外を見ながら呟くように言った。
「え?」
「だから! 喉が渇いた! アランと喋り過ぎたんだ。少し休みたい!」
そう言って窓の外を指差した。驚いた私は、レオナルドの顔を後ろから覗き込もうとしたら、彼はツンと顔を逸らしてしまった。
「そうよ、そうですわね! 休みましょう! お気に入りのカフェがありますのよ! そこのスイーツが絶品ですの! トミー! 走らせるのは待って! わたくしたちも降りるわ!」
私は急いで、御者席に戻ったトミーに叫んだ。トミーは慌てて降りてくると、急いで扉を開けた。
「エリーゼ様、どちらへ? パトリシアもいないのにお一人では・・・」
トミーは、私に手を差し出して降りるのを手助けしながらも、不安そう尋ねる。
「大丈夫よ、そこのカフェで少し休むだけよ。あのお店、お気に入りなの。久々に行きたいのよ!」
私は近くの高級感漂うカフェを指差した。
「でも・・・、小さなお子様まで一緒ですし・・・」
「平気よ。貴方も少しお休みなさい。でも、わたくしが見える場所でね。何かあったらすぐに駆け付けられるように」
「・・・かしこまりました」
ホクホク顔の私に何も言えなくなったのか、トミーは大人しく引き下がった。
「じゃあ、行ってくるわね!」
私はレオナルドの手を引いて、ルンタッタとカフェに向かって歩き出した。
☆彡
カフェに入ろうとした時だった。
私たちの横を、数人のご婦人方が通り過ぎた。
一人の中年女性を筆頭に、その後を数名がゾロゾロと付いて行く。私はリーダー格の貴婦人を目で追った。
(あれは・・・パトゥール子爵夫人)
「どうした?」
いつまでも店に入ろうとしない私を、レオナルドが不思議そうに見上げた。
私はレオナルドを抱き上げると、耳元に口を寄せた。
「!! な・・・、何だ!?」
なぜか慌てるレオナルド。私はそれを無視して囁くように話しかけた。
「殿下、あのご婦人をご存じ? あの、お帽子からドレスまで全身紫で統一しているご婦人」
「はぁ?」
「あの方、パトゥール子爵夫人ですわ。とんでもない地獄耳で、とっても噂好きですのよ。ゴシップが大好物。それを食べて生きていると言われているお方」
「だ、だから、何だ?!」
レオナルドはまだ慌てている。少し顔が赤いようだが、私は無視して続けた。
「だから、王宮内の噂話を聞けるかもしれませんわ。王宮に入れないご婦人方に自分の仕入れたネタを披露するのがあの方のご趣味なの。ミランダ様の失態なんて格好のネタでしょう?」
そう言うと、私はお気に入りのカフェを諦め、彼女たちの後に付いて歩き出した。
100
あなたにおすすめの小説
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』
鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」
その一言で、私は婚約を破棄されました。
理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。
……ええ、どうぞご自由に。
私は泣きません。縋りません。
なぜなら——王家は、私を手放せないから。
婚約は解消。
けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。
失ったのは殿下の隣の席だけ。
代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。
最初は誰もが疑いました。
若い、女だ、感情的だ、と。
ならば証明しましょう。
怒らず、怯えず、排除せず。
反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。
派手な革命は起こしません。
大逆転も叫びません。
ただ、静かに積み上げます。
そして気づけば——
“殿下の元婚約者”ではなく、
“揺れない王”と呼ばれるようになるのです。
これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。
王冠の重みを受け入れた一人の女性が、
国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃
ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。
王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。
だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。
――それでも彼女は、声を荒らげない。
問いただすのはただ一つ。
「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」
制度、資格、責任。
恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。
やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。
衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。
そして彼の隣には、常に彼女が立つ。
派手な革命も、劇的な勝利もない。
あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。
遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、
声なき拍手を聞き取る。
これは――
嵐を起こさなかった王と、
その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……
くわっと
恋愛
21.05.23完結
ーー
「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」
差し伸べられた手をするりとかわす。
これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。
決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。
彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。
だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。
地位も名誉も権力も。
武力も知力も財力も。
全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。
月並みに好きな自分が、ただただみっともない。
けれど、それでも。
一緒にいられるならば。
婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。
それだけで良かった。
少なくとも、その時は。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる