婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼

文字の大きさ
89 / 97

88

しおりを挟む
「いかがですか? お嬢様?」

パトリシアが鏡越しにドヤ顔で私を見る。
私はパトリシアの仕上げた髪型をドレッサーの鏡と手鏡の両方を使って、じっくりと確かめた。

編み込んでアップにした髪型に真珠の髪飾りとシルクのリボンがバランスよく飾られて、大人っぽい仕上がりだ。

私は全身を確認するために姿見の前に立った。

「シャンパンゴールドのドレスに、真珠とエメラルドのネックレスがとても映えますね! お嬢様にピッタリ! 流石、レオナルド殿下!」

「本当なら真紅のドレスにしようと思っていたのに・・・」

「またまた何をおっしゃっているんですかぁ! こんなに素敵なドレスを贈ってくださったのに!」

「でも、シャンパンゴールドとエメラルドって・・・」

あまりに露骨じゃないか? 
私は鏡に向かってはぁ~と溜息を付いた。

「金色と緑! よーーーくお似合いです! とっても美しいです!」

パトリシアは大きく頷く。

「いい加減、覚悟をお決めください! お嬢様!」

「はぁ~~・・・、行ってくるわ」

今日はフェルナン王太子主催のガーデンパーティーがあるのだ。
と言っても、今はもう秋の終わりで冬も間近。本当の庭園ではなく、温室内でのティーパーティだ。
王室の温室は珍しい草花がたくさんあるので、個人的には好きな場所なのだが、パーティーとなると気が重い。

なんせ、世間的には私はまだ第三王子から婚約破棄を突き付けられた令嬢のままなので、周りから好奇の目で見られること間違いなしなのだ。見られること自体はどうってことないが、冷やかしで寄って来る輩をかわすのが煩わしい。

それ以外にも、レオナルドへの破棄撤回の返事・・・。

一ヶ月以上レオナルドとは会うことなく、手紙でも回答を避け続けていたが、今日はとうとう本人と対峙することになる。絶対に返事を迫られる。いつまでもダラダラと逃げてはいられないだろう。

私自身一体どうしたいのか?
分かっているようで分かっていない。

いいや、違う。レオナルドから贈られたドレスを身に纏っている時点で答えは出ているはずなのに、認めたくないと意固地になっている自分がいるのだ。

王宮に着くまでに・・・、レオナルドに会うまでに、この無駄に意地になっている私の気持ちが解けて消えてしまえばいいのだけれど・・・。

「はあ~・・・」

私は王宮に向かう馬車の中、窓から外の景色を眺めながら、長い溜息を付いた。


☆彡


温室に入ると、そこはとても暖かく、ティーパーティー仕様に華やかに飾り立てられていた。室内に植わっている木々や草花が会場をさらに賑やかに演出している。まるで南国のようだ。

王太子殿下とレイチェルお姉様が入室してきたら挨拶をしなければならない。それまではできるだけ目立たないように、私は会場の隅に身を寄せた。
手持無沙汰なので、足元の花に目をやる。珍しい花が咲いており、花の名前が書かれたプレートが置かれていた。気になったので少し身を屈めて読んでいると、早速、周りから私を揶揄する声が聞こえた

「あ、あの方、エリーゼ様ではなくって?」
「本当だわ・・・」
「なぜ、ここにいらっしゃるのかしら? だって、もう殿下の婚約者ではないのに」
「でも、このお茶会は若者の集いだから、殿下の婚約者でなくても関係ないのではなくて?」
「むしろ、婚約者ではなくなったからいらしたのでは? 新しいお相手を探さないといけないもの」
「それだったら、せめて他のお茶会にすべきじゃない? 王室主催のお茶会に参加って・・・。勇気あるわ」

丸聞こえなのだが、声の大きさが微妙で、彼女たちが、わざと聞こえるように話しているのか、本気でコソコソ話しているのかの判断が難しい。ここは聞こえないふりをした方がいいのか、睨みつけてやった方がいいのか迷うところだ。

とりあえず、無視して花を見ている振りをしていると、背後から一際大きな声で名前を呼ばれた。

「あら!? エリーゼ様ではなくって?」

はぁ~・・・。

私は心の中で溜息を付いた。一体何回目の溜息か。

「そうでしょう? エリーゼ様でしょう? まさか、王宮でお会いできるなんて思ってもおりませんでしたわ!」

その甲高い声のせいで、背中越しでも一斉に注目を浴びていることが分かる。私はゆっくり身を起こすと、声の主に振り返った。

「ごきげんよう、レベッカ様」

私は渾身の笑みを彼女に向けた。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」 その一言で、私は婚約を破棄されました。 理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。 ……ええ、どうぞご自由に。 私は泣きません。縋りません。 なぜなら——王家は、私を手放せないから。 婚約は解消。 けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。 失ったのは殿下の隣の席だけ。 代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。 最初は誰もが疑いました。 若い、女だ、感情的だ、と。 ならば証明しましょう。 怒らず、怯えず、排除せず。 反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。 派手な革命は起こしません。 大逆転も叫びません。 ただ、静かに積み上げます。 そして気づけば—— “殿下の元婚約者”ではなく、 “揺れない王”と呼ばれるようになるのです。 これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。 王冠の重みを受け入れた一人の女性が、 国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃

ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。 王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。 だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。 ――それでも彼女は、声を荒らげない。 問いただすのはただ一つ。 「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」 制度、資格、責任。 恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。 やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。 衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。 そして彼の隣には、常に彼女が立つ。 派手な革命も、劇的な勝利もない。 あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。 遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、 声なき拍手を聞き取る。 これは―― 嵐を起こさなかった王と、 その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

処理中です...